放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 2004/03/05 日向 俊行・森 雅和

データ番号   :040279
次世代X線源:卓上シンクロトロン“みらくる6X”
目的      :産業利用可能な小型シンクロトロンの開発
放射線の種別  :エックス線,電子
放射線源    :小型電子シンクロトロン(6MeV)
応用分野    :X線リソグラフィー、非破壊検査、癌治療、硬X線顕微鏡、冠動脈診断

概要      :
 医療・各種産業分野で利用するためのX線源として、卓上型と言えるような小型シンクロトロンを電子蓄積リングとして用いる新しい方式が開発された。マイクロトロンで加速された電子が、シンクロトロンで円形軌道を周回するのが特徴である。X線発生機構は、医療用などのX線管と同様な制動放射であるが、高エネルギーの電子ビームと微小ターゲットを用いることにより、ハードX線が前方に集中して発生する。電子蓄積リングに電子が繰り返し入射されることもあって、発生するX線は高輝度で全光子数が大きい。
参考データ:
040061 小型放射光源の技術

詳細説明    :
 1985年頃、次世代半導体メモリ生産用のX線源として放射光が注目を集め、日本国内外の加速器メーカーによって小型の放射光源の開発が活発に行われた。その結果、住友重機械工業(株)のAURORAシリーズやNTTのSuper-ALISなどが開発されたが、半導体業界からは更なる小型化、X線輝度の向上が要求された。そこで立命館大学の山田廣成教授は電子蓄積リング(シンクロトロン)の電子軌道上に微細ターゲットを置くことによって制動放射X線を発生させる方法を提案し、“みらくる20”(MIRRORCLE20)という名の世界最小電子シンクロトロン(外径1.2m)を開発した。入射加速器には、22MeVの電子を発生する直径1mの円形マイクロトロンを用いて、高輝度硬X線(ハードX線)の発生に成功した(原論文1,2,3)。
 
 さらに2003年には電子エネルギーを6MeVとして中性子発生を抑えた、外径0.6mの“みらくる6X”の開発に成功した(原論文4,5)。これは、装置全体が長さ1mのテーブルに載るほどである(図1)。“みらくる6X”の開発により、“みらくる20”は開発者の本来意図した遠赤外光発生装置に位置付けられている。
 
 “みらくる6X/20”は、完全円形軌道のシンクロトロンであって、完全円形の軌道に電子を入射させるために高山によって開発された共鳴入射法(参考資料1)が用いられている。これによって、シンクロトロンのダイナミックアパチャーが非常に大きく、ビーム入射が繰り返し行える。


図1 “みらくる6X”のリング全景(参考資料2より引用)


表1 “みらくる6X”X線出力とSR光比較表。括弧内はCW加速なしで得られるX線パワーである。(原論文4より引用)
6MeV電子蓄積型高輝度光源
みらくる6X
5GeV SR 光源
PF-ARで20mA蓄積時
放射形態 ターゲットからの放射 アンジュレーター放射
放射角度 85mrad <1mrad
スペクトル 白色光 1keV〜6MeV 33keVの単色
時間構造 パルス
パルス幅 100ns〜10ms
繰り返し Max100Hz
400MHz 連続
Brilliance最大出力時
理論値
2.5E+13(11)光子/s/mrad2/mm2/0.1%λ
at 30keV
3.0E+15光子/s/mrad2/mm2/0.1%λ
at 33keV
全光子数理論値 5.5E+11(9)光子/s/0.1%λ 3E+7光子/mrad/s/0.1%λ
 表1に放射光によるX線と“みらくる6X”によるX線の特性を比較した(0.1%λは光子エネルギーに対し、バンド幅0.1%に入っている光子数を意味する)。“みらくる6X”が発生するX線は、次のような特徴を有している。
(1)実効光源点サイズがX線微細ターゲットにより決定されるため、放射光に比べて微小な光源サイズを容易に実現することが可能である(現在、数ミクロンの光源点を実現している)。
(2)X線ターゲットを透過した電子は周回を続けるために高輝度X線の発生が可能である。
(3)X線は、相対論効果により放射光の場合と同様に1/γ(γ:ローレンツ因子)で発散するため、放射光に比較して低エネルギー電子を用いている“みらくる6X”は大きな発散角を有する。
(4)X線ターゲットを用いた制動放射によって、6MeVまでの白色X線を発生させることができるため、放射光に比較して高エネルギーのX線成分(ハードX線成分)を多く含む。
 
 図2は、“みらくる6X”の実測X線スペクトルである。“みらくる6X”では制動放射によるX線であるために、シンクロトロン放射光と異なり、最大エネルギーである電子エネルギーまで、そのスペクトルが単調に続く。


図2 NaI検出器で測定した“みらくる6X“の光子スペクトル。ADCに10msの遅延ゲートをかけて計測した。10ms後にもビームは周回している。(原論文4より引用)

 “みらくる6X”は前述のように新しい性質を持つX線源であることと小型である点において、X線利用のパラダイムを変える。開発者の山田教授の期待しているX線利用アプリケーションを以下に挙げる。
(1)位相コントラスト法によるガンの診断と体内軽元素異物の識別
(2)ハードX線顕微鏡
(3)冠動脈診断
(4)X線リソグラフィー
(5)非破壊検査
(6)たんぱく質構造解析
(7)ガン治療
 
 ここでは非破壊検査の実証例を図3に示す。被写体のサイラトロンは、高さ160mm、幅80mm の円柱状構造物である。高エネルギーのX線を用いているため、厚さ約5mm のセラミックスで覆われた被写体内部の電極や支持導体等を見ることが出来る。また、小さいサイズのX線ターゲットを用いているので、本体内部の細いフィラメント等を高解像度で見ることが可能である。


図3 “みらくる6X”による構造物の非破壊検査実証例。破壊することなくサイラトロンの内部を詳細に映し出して見せる。3番目のイメージングは、MIRRORCLEの固有技術であるコンビーム(円錐形のビーム)による拡大画像。(参考資料2より引用)



コメント    :
 今までの放射光源に比べ格段にサイズが小さくなり、真に産業・医療応用可能なシンクロトロンが誕生したといえる。

原論文1 Data source 1:
卓上型シンクロトロン“みらくる-20”による新しいX線の発生
山田廣成
立命館大学理工学部光量子発生化学研究室
放射光, 15, 133-145 (2002)

原論文2 Data source 2:
Novel X-ray source based on a tabletop synchrotron and its unique features
H. Yamada
Faculty of science and engineering, Ritsumeikan University
Nuclear Instruments and Methods in Physics Reaserch B, 199, 509-516 (2003)

原論文3 Data source 3:
卓上シンクロトロンを用いた非破壊検査
平井暢、山田廣成、園田幸史、牧進也、豊杉典生、長谷川大祐
立命館大学理工学部、光子発生技術研究所
原子核研究, 48, No. 5, 73-81 (2003)

原論文4 Data source 4:
ポータブルシンクロトロンで開ける新しい放射光利用
山田廣成
立命館大学理工学部
放射線と産業,No.102, 18-29 (2004)

原論文5 Data source 5:
卓上型シンクロトロン“みらくる6X”による新しいX線発生
山田廣成
立命館大学理工学部
応用物理, 74, 462-471 (2005)

参考資料1 Reference 1:
Resonance injection method for the compact superconducting SR-ring
T. Takayama
Sumitomo Heavy Industries, Ltd.
Nuclear Instruments and Methods in Physics Reaserch B, 24/25, 420-424 (1987)

参考資料2 Reference 2:
ホームページ:株式会社光子発生技術研究所
http://www.photon-production.co.jp/

キーワード:卓上シンクロトン、制動放射、高輝度光源、硬X線、X線リソグラフィー、医療応用、産業応用、非破壊検査
Tabletop synchrotron, Bremsstrahlung, Highly brilliant photon source, Hard X-ray, X-ray lithography, Medical application, Industrial application, Non-destructive inspection
分類コード:040105

放射線利用技術データベースのメインページへ