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作成: 1997/08/01 井上 信

データ番号   :040061
小型放射光源の技術
目的      :放射光源の小型化技術の開発
放射線の種別  :電子,エックス線
放射線源    :電子加速器・蓄積リング(450MeV-700MeV,200mA-500mA)
フルエンス(率):1010photons/(sec mA mrad2 0.1%b.w.)
利用施設名   :クルチャトフ研究所KSRS、住友重機械工業AURORA-2、住友電工播磨研究所NIJI-III
照射条件    :真空中、大気中
応用分野    :半導体工業、光化学、材料構造解析

概要      :
 シンクロトロン放射光(SR)の有用性が認識されるに従い、大型化の方向とは別に、手頃なサイズの放射光源が身近にほしいという要望が増えている。この方向への展開のためには、装置の小型化の技術開発が求められる。ここでは最近の例としてロシアのクルチャトフ研究所の450Mevのものと、日本の住友重機械工業のAURORA-2および住友電工播磨研究所のNIJI-IIIなどを中心に特徴を示す。

詳細説明    :
 シンクロトロン放射光はもともと電子シンクロトロンから出てくる光で、原子核研究用の電子シンクロトロンでの研究が最初であるが、電子を蓄積するリングを放射光専用に作ったのは東京大学原子核研究所の電子シンクロトロンに付置した物性研究所のSORが最初のものである。これは350MeV程度の低エネルギーの小型の放射光源であったが、小型化を目的としたものではない。その後、大型の専用機作りが進み、高エネルギー物理学研究所に2.5GeVの放射光施設ができた。一方、半導体工業では素子の集積化にともない、波長の短いシャープな光がリソグラフィー用として求められ続けているが、放射光からのX線はこれに適していると考えられた。そこで600MeV程度の小型の放射光源作りがいくつかのメーカーで始められた。この動きは集積回路製造が放射光を必要とするところまで進んでないこともあってやや鈍ったが、最近再び期待されてきた。また一方、紫外線からエネルギーの低いX線の領域での材料研究の需要も多い。これに応じて、放射光源の小型化が期待されている。
 ロシアのクルチャトフ研究所の放射光源(KSRS)としては、2.5GeVの電子蓄積リングのほかに、450MeVの小型の蓄積リングがVUV実験のために建設された。その主要なパラメータは表1に示すとおりである。

表1 Main parameters of the KSRS small storage ring. (原論文1より引用。 Reproduced from J. Electr. Spect. Related Phen., vol.80, 413 (1996), K.V.Kaznacheyev, S.N.Ivanov, V.G.Stankevitch: VUV Equipment at Kurchatov SR Source, Table 1 (Data source 1, pp.413), Copyright (1996), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)
------------------------------------
Energy[GeV]               0.45
Injection energy[MeV]     80
Current[mA]               200
Circumference[m]          8.6832
Emittance[m rad]
   horizontal             8.8x10-7
   vertical               8x10-9
Critical energy[eV]       202
Lifetime[h]               4
Rf frequency[MHz]         34.525
harmonic number           1
bunch length[cm]          59.8
σ electron beam size[mm]
   horizontal             1.62
   vertical               0.13
------------------------------------
これは周長8.7mの弱集束のリングで、水平および垂直のベータ関数は0.9mから2.3mの間を変化しており、分散関数は約2mとなっている。VUVの実験室は約120m2である。ビームラインで使われる光の波長は50オングストロームから5000オングストロームである。
 住友重機械工業では半導体工業で使われるリソグラフィー用にAURORAという超電導の一体型磁石を使った放射光源を開発したが、その後この装置は立命館大学が購入して1996年から多目的の物質科学および産業科学用に使われている。これは、エネルギー575MeV、電流値300mAであるが、磁場が3.8Tで軌道半径が0.5mと非常に小型化されている。しかし挿入光源等は入れられない。広島大学ではコストダウンと挿入光源等も利用できるものを要望し、これに応えてAURORA-2が開発された。入射器にはいずれもマイクロトロンを使っている。AURORA-2はレーストラック型のシステムである。マイクロトロンからの入射エネルギーは150MeVで、リングでの蓄積エネルギーは700MeV、電流は300mA以上である。また臨界波長は1.4nmとなっている。リングの周長は22mであるが、3mの直線部分を2カ所もつ。 平面図を図1に示す。広島大学では直線部にリニアおよびヘリカルのアンジュレータを設置している。


図1 "AURORA-2D"の構成.(原論文2より引用。 日本原子力研究所のご承認に基づき、JAERI-Conf 95-021,26(1995)の図2(pp.27)より転載。)

 住友電工播磨研究所のNIJI-IIIは、通産省の電子技術総合研究所の電子線形加速器を入射器として利用して開発されたものを、西播磨の研究所に移設し、100MeVの線形加速器を入射器として新設したものである。レーストラック型であるが、磁石に超電導を用いて、4.0Tの磁場をえている。エネルギーは600MeVで電流値は200mAである。入射器も全長10mと小型化している。超電導磁石への電流リードに臨界温度の高い超電導材を使い、液体ヘリウムの消費量を減らす工夫をしている。ここではFELも含めた多目的利用を考えており、磁石の構成にダブルベンドアクロマート方式を採用し、低エミッタンス化にも考慮している。図2に平面図を示す。


図2 Schematic configuration of NIJI-III.(原論文3より引用。 p.27)

 このほか、国内ではNTTがSuperALISという600MeVのレーストラック型のものでリソグラフィなどの開発研究を行っており、三菱電機でも800MeVのリングで1GbDRAMの開発に向けた研究を行っている。NTTのものは入射エネルギーが15MeVと低い点に特徴がある。外国ではルイジアナ大学がエネルギーは1.5GeVとやや高いが分野的にはマイクロマシンや化学分析など小型のものに近い、多目的利用を行っている。このほか、スウェーデンのルンド大学では550MeVのMAXというリング、デンマークのアーフスではASTRIDというイオン蓄積を兼ねたリング、ベルリンには800MeVのBESSYという放射光施設がある。

コメント    :
 半導体のリソグラフィー用として小型放射光の開発が多くのメーカで行われたがやや早すぎた感があった。しかし、マイクロマシンなどのLIGAといわれる応用や分析、化学反応等小型放射光に適した用途が注目されており、さらに半導体リソグラフィーについても実用機として放射光設備を取り入れようとする半導体メーカーが出てきている。今後、商品として優れた小型装置の開発が期待されている。

原論文1 Data source 1:
VUV equipment at Kurchatov SR source
K.V.Kaznacheyev, S.N.Ivanov, V.G.Stankevitch
KSRS,RRC Kurchatov Institute, 123182 Moscow, Russia
Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena, vol.80, p.413 (1996).

原論文2 Data source 2:
超小型常電導SRリング[AUROR-2A」
広瀬正起
住友重機械工業株式会社総合技術研究所
ハイテクインフォーメイション, No.82, p.46 (1996).

原論文3 Data source 3:
NIJI-III Superconducting Compact Light Source Facility
K.Emura, T.Haga, T.Shinzato, H.Takada
Harima Research Laboratories, Sumitomo Electric Industries, LTD. 1431-12, Harima Science Garden City, Kamigoori, Hyogo, 678-12, Japan
JAERI-Conf, 95-021, p.26 (1995).

参考資料1 Reference 1:
Rits SR Center Activity Report 1996
西勝英雄編
立命館大学SRセンター
SRセンターアクティビティレポート (1997)

参考資料2 Reference 2:
Proceedings of Compact Synchrotron Light Source in the New Age
岩崎 博
立命館大学
SRI'97のサテライトミーティング (1997)

キーワード:シンクロトロン放射、小型リング、紫外線、
synchrotron radiation(SR), small ring, ultra violet source
分類コード:040102,040503,010205

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