中性子の基礎事項


ここでは中性子の性質、その働き、特徴を分かり易く記しています。参考にしてください。また、冊子「中性子ビーム利用への第一歩」も併せてご覧ください。

なお、当部では、中性子利用に馴染みの薄い企業の方々向けの教材として、どのような教材をご希望されておられるのか調査しています。ご要望があればe-mailにて(フッターの連絡先)ご連絡ください。


A.基礎的理解

  1. 中性子の大きさ

  2. 原子核・中性子の大きさ

    左図に重水素の原子模型を示します。この原子は1個の電子と原子核から成っており、原子の大きさはおおよそ1億分の1(cm)、原子核のそれはおおよそ1兆分の1(cm) です。この重水素原子核は陽子1個、中性子1個を持っており、中性子の大きさはおおよそ10兆分の1 (cm) です。また、中性子の質量は陽子のそれとほぼ同じです。




  3. 中性子の内部構造

  4. 中性子のβ崩壊

    核分裂や核破砕等によって核外に出たフリーな中性子は不安定であり、約10分の半減期を以てβ崩壊します(左図)。このことは中性子が内部構造を持っていることを示しています。また、崩壊して出来る荷電粒子について考えると、負の電荷を持つ1個の電子と正の電荷を持つ1個の陽子との電荷合計が零となることから、中性子が電気的に中性であることが理解できます。さらに、中性子はスピン1/2を持つが、これは中性子が3個のクオーク粒子から成っていることに起因しています。




  5. 中性子の粒子性と波動性

  6. 粒子性と波動性

    中性子は粒子性と波動性の二重性を持っています。例えば、中性子の質量を M Kg とし、速度 V= 2 km/s で飛行する中性子粒子の運動エネルギーは E=1/2×MV^2であらわされ、E = 21 meV (温度換算では、300 K)となる。これを波動としての波長λで表すとλ= h/(MV) = 0.19 nm となります(hはプランク定数)。この値は電磁波であるCu KαX線 (波長0.15 nm)と同程度であるので、X線と同様に中性子は物質による回折現象を起こし、波動としての特徴を示します。





B.中性子の働き

  1. 物の観測
  2. 物の観察図

    中性子を用いて物を観察するには大別して2つあります。その一つはレントゲン写真と同様に透過写真によって物の内部を観察する事が可能であり、もう一つは回折・散乱された中性子波を解析することで物質のナノ構造を知ることが出来ます。上図にバラの花及びその透過像、メタンハイドレートの中性子回折パターンとこのデータから得た結晶構造を示します。


  3. 物を分析
  4. 物を分析図

    中性子は原子核の励起または核変換を引き起こします。その際に元素固有のガンマ線が発生します。このガンマ線スペクトルを観測することで、非破壊で物質を構成する元素の微量分析が出来ます。







  5. 物の加工
  6. 中性子を用いて、物質を構成する元素の一部を核変換させて新たな特性を持つ物質に加工することができます。この例として、シリコン半導体の製造があります。これはシリコンに中性子を照射するとシリコン同位体の一部がリンに変換されることによります。その結果、高品質なN型半導体が得られます。詳細はシリコン照射を参照して下さい。


  7. 治療
  8. ボロン元素を特殊な高分子に結合させてガン細胞の近くへ送り込んで、中性子を照射するとボロンからα粒子が放出されて近くのガン細胞のみを狙い撃ちし、正常な細胞にはあまり損傷を与えない治療ができます。詳細はがん治療の最前線を参照して下さい。



C.中性子の特徴

  1. 高透過性

  2. 高透過性

    中性子は、電荷を持たないので、物質材料を透過する能力が高い。この特徴を活かして、工業製品部材(自動車エンジンなど)の透過観察、内部残留ひずみ分布測定など非破壊検査に中性子ビームが利用されています。





  3. 同位体も見分ける

  4. 同位体も見分ける

    中性子が原子核と相互作用するので、回折・散乱強度、吸収係数は原子核の種類によります。従って、軽水素(H)とその同位体である重水素(D)との区別ができます。これを利用した例として、タンパク質の結晶構造を調べるために軽水素を化学的に等価である重水素で置換したタンパク質結晶を作製しています。その理由は、軽水素は非干渉性散乱強度が大きくて回折データーのバックグランドも大きくなり、タンパク質の回折測定が十分に行えませんので、非干渉性散乱の小さい重水素で置換をしたタンパク質などの結晶を用いて十分な回折強度を得るためです。




  5. 軽元素検知能力に優れている

  6. 軽元素検知能力

    中性子による回折や散乱強度は原子核の種類に依存し、これらは原子番号の増加に無関係です。それ故、重い元素に混じっている軽い元素も明確に検知できます。この特徴を活かした例として、リチウム電池材料、燃料電池材料の開発があります。






  7. 磁気感受性

  8. 磁気感受性

    中性子が磁気を感じるので、磁性材料の磁気構造決定や磁気励起の観測が出来ます。磁石の開発にとって中性子ビームは強力な開発ツールです。




  9. 原子の静的な構造を見る

  10. 原子の静的な構造

    回折・散乱された中性子波を解析することで物質の結晶構造(原子の配列)を知ることが出来ます。







  11. 原子の動的な振舞いを見る
  12. 実験で用いる中性子のエネルギーは物質を構成する原子の格子振動エネルギーとほぼ同じ値を持っています。したがって、中性子と格子振動(フォノン)間でのエネルギーのやり取りを容易に観測できます。このエネルギーの授受から格子振動、即ち、原子の動的な振舞いや原子の振動数、振動方向、波の伝搬方向、さらに原子間に作用している力の定数が判ります。これから得られる知見は物質の熱物性を明らかにする基礎となります。


  13. 原子核を励起又は変換
  14. 核変換

    中性子は原子核の励起または核変換を引き起こします。その結果として、励起、核変換した元素から元素固有のガンマ線が発生します。このガンマ線スペクトルを観測することで、非破壊で物質を構成する元素の微量分析が出来ます。