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作成: 1999/01/20
改訂:放射線技術分野専門部会
2006/03/19 小嶋 拓治

データ番号   :049002
放射線計測とその応用
目的      :放射線計測(中分類)を解説

概要      :
 ここでは、放射線のエネルギーや照射線量、あるいは特定物質の吸収線量の測定等とともに、放射能の校正、放射線の取り扱い、監視、管理、製品の品質検査等の放射線計測器の応用に関するものを、包括して「放射線計測」分野として解説する。

詳細説明    :
1.放射線計測
 いわゆる放射線計測には目的により次の二つの対象がある。
 
(1)放射線の取り扱いのため、放射線の種類、エネルギー、粒子数(フルエンス)等放射線場に固有の放射線量の測定。
 
(2)放射線と、放射線によって生じる生物学的、物理学的または化学的効果の数量的な関係を理解する、あるいはその有効利用をするため、放射線場に固有の放射線量(例えば照射線量)と、放射線と物質との相互作用に帰因する係数の積で表す吸収線量の測定。
 
2.放射線検出器の種類
 放射線は私たちの五感によって直接には感知できないため、放射線と物質との相互作用などを利用して検知可能な形に変えて検出・計測をする。主なものとして、以下のような相互作用を利用した検出器・計測器が挙げられる。
 
(1)電離作用を利用するもの:
 放射線が物質中を通過するとき生成するイオン対(または電子・正孔対)を利用した検出器は広義に電離箱と呼ばれる。ガスを充填した検出器中の生成イオン対の電荷量を測定する方法に基づく電離箱(電離箱式照射線量率計)、比例計数管、ガイガーミュラー(GM)計数管等と、ガスの代わりにSiやGe等の半導体物質を媒質としたいわゆる半導体検出器(SSD)がある。これらは、放射線の種類、エネルギー、照射線量率など、放射線量の測定に用いられ、放射能の校正、放射線管理、工業利用に広く応用されている。
 
 また、核反応や宇宙線の研究には、蒸気中または過熱状態の液体中の荷電粒子の飛跡観察に基づく霧箱や泡箱が用いられている。
 
(2)励起作用を利用するもの:
 NaI(Tl)等の無機アルカリハライド結晶、アントラセン等の有機結晶などの蛍光体に放射線があたるとシンチレーションと呼ばれる光を発する。これを利用したシンチレーションカウンターは、各種放射線の検出及びエネルギースペクトル測定等に広く用いられている。
 
(3)分子の解離作用を利用するもの:
 放射線照射による物質の酸化・還元等の化学変化から放射線を検出するもので、一般的に物理的な計測手段に比べて取り扱いが簡便であり、主として放射線照射効果研究、医療用具の滅菌の工程管理等に用いられている。
 
 X線の発見にまで歴史を遡ることができる写真フィルムは、ガラスまたはセルロースアセテート基板等に感光性のハロゲン化銀(臭化銀)の微結晶乳剤を塗布したもので、個々の相互作用を多数蓄積した結果を表す乳剤の全体的な黒化(ラジオグラフィ用フィルム、フィルムバッジ線量計)、あるいは、飛跡を一つずつ個々に観察するもの(原子核乾板)がある。
 
 水の放射線分解生成物による鉄イオンなどの酸化還元を利用した液体化学線量計(硫酸第二セリウム、重クロム酸、エタノールクロロベンゼン、硫酸第一鉄(フリッケ)線量計など)、プラスチックの着色を利用した線量計(ポリメチルメタクリレート(PMMA)線量計、三酢酸セルロース線量計、ラジオクロミック線量計など)、放射線誘起ラジカルの定量を利用したフリーラジカル線量計(アラニン/ESR線量計、グルタミン酸線量計など)などがある。
 
 また、重荷電粒子がプラスチックス等の中を通過するとき飛跡に沿ってつくる放射線損傷を強酸等でエッチングし顕微鏡等で観察することによる固体飛跡検出器がある。
 
 
(4)熱・光ルミネセンスを利用するもの
 アルカリハライド等では放射線照射により物質中に生じる電子や正孔を捕獲した格子欠陥を生成するが、このような物質を照射後加熱、光照射すると可視ないしは近可視の光を放出する。この原理を利用した検出器には、ガラス線量計、熱ルミネセンス線量計(TLD)、BaFBr:Eu等を主成分とするイメージングプレート(IP)などがあり、焼鈍や露光により何回でも使用できる利点を持つ。ガラス線量計や熱ルミネセンス線量計は放射線防護に、イメージングプレートは現在主に、放射線用写真フィルムの代替などに使用されている。
 
(5)二次電子放射を利用するもの
 放射線により生じる極めて微弱なシンチレーションパルスの光信号をこれに対応する十分な強度の電気信号に変換する装置が光電子倍増管である。できる限り多くの入射光子を低エネルギー電子に変換するための光電陰極と呼ばれる感光層と、この電子を加速しダイノードと呼ばれる複数個の電極にあてて5〜8桁以上の数の二次電子を放出させ信号を増幅する電子倍増器から構成される。このダイノードとして、内面が二次電子放出体として働く、径数十μmの中空のガラス管を束ねて用いたマイクロチャンネルプレート(MCP)を用いた増倍管は、利得と時間特性が優れている特長がある。
 
(6)発熱を利用するもの
 熱量計(カロリメータ)は、放射線のエネルギーを吸収体で受け、その温度上昇から吸収線量(積分量)を、ついで試料の放射能を推定するものであり、吸収体の形状により部分吸収型と全吸収型がある。原理が一次反応に基づくため絶対測定法になるが、実用的には計測器の構造の設計、製作や取り扱いに十分な注意が必要である。
 
(7)その他
 電子とかα粒子のような荷電粒子からなる放射線に用いられる、吸収体に入射した粒子の電流・電荷量を計測するファラデーカップ、中性子による物質の放射化を利用した放射化検出器、また光学的屈折率が1より大きな媒質中を通過する際に高速荷電粒子が放出する光、チェレンコフ光の検出に基づく検出器等もある。
 
3.放射線計測の応用
 放射線計測に基ずく放射線及び放射性物質の利用は、工業計測、化学分析、治療及び診断、医薬品、遺伝子工学、農業、水産業、放射線照射工業、年代測定、環境・資源の調査、核宇宙・物理・物性研究、物質移動などの動態解析等多分野に広がっている。例えば、工業計測を例に取ると以下のようなものがある。
 
 溶接構造物や鋳造品の内部欠陥等の検査には、これらの被検査物を透過した放射線像を写真フィルム上に濃度の差として記録する方法、いわゆる非破壊検査法(ラジオグラフィ)が用いられる。一般的には放射線として60Co、137Cs、192Ir等のガンマ線を用いるが、原子炉からの中性子を利用したラジオグラフィもある。
 
 放射線の吸収、散乱または減速等を利用して、物の厚さ、密度、容器内のレベル高さ、含水量等を測定する計測器を総称して「放射線応用計測器」と呼ぶ。種類としては、放射線厚さ計、塗料メッキ厚さの測定、レベル(液面)計、密度水分計、石油中水素炭素比メータ、真空リークデテクター、煙感知器等があり、市販されているものも多い。
 
4.放射線管理
 放射性物質や放射線発生装置等を用いる作業において、従事者その周辺の人、一般人を放射線障害の危険から守る必要がある。これらの取り扱い施設や器具を完備すること、放射線の取り扱い方法を適切にするとともに、常に、放射線源、放射線発生装置からの放射線量率、その周辺の漏洩線量率、及び施設の周囲の空気中、水中の放射性物質濃度の監視(モニタリング)が必要であり、これら放射線・放射能の測定情報を提供し規定の水準を超えた場合に警報を発すること、及び放射線の強弱や放射能の汚染を探査すること(サーベイ)が主となる役割である。
 
 放射線の有効な管理には、放射線の線質、測定対象物によって適切な測定器を選択することが重要である。測定器には、目的によって、個人被曝線量の測定用、空間線量率の測定用、表面汚染の測定用、空気中、水中の放射性物質濃度の測定用などがある。
 
5.その他
 放射線放射能の積極的利用、被曝管理や遮蔽管理では、放射線の種類、エネルギー等に応じた放射線と物質との相互作用に関する放射線物理の十分な理解が必要であり、フルエンスや照射線量など「放射線の数量」から吸収線量など「吸収エネルギー」への換算、物質中における放射線の振舞い方、その結果として現れる物質中のエネルギー蓄積分布などを考慮するための放射線の取り扱いに関わる技術も重要である。
 

参考資料1 Reference 1:
放射線計測ハンドブック
G.F.Knoll著、木村逸郎、阪井英次訳
Nuclear Engineering, The University of Michigan
日刊工業新聞社 昭和57年

参考資料2 Reference 2:
アイソトープ便覧
日本アイソトープ協会編
丸善株式会社

キーワード:
分類コード:040398

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