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作成: 2007/09/28 服部 隆充

データ番号   :040335
液体シンチレーションカウンタ      
目的      :液体シンチレーションカウンタを用いた放射線・放射能の計測
放射線の種別  :ラジオアイソトープからのアルファ線、ベータ線
放射線源    :3H、14C、35S、32P、89Sr、90Sr、147Pm、210Po、 222Rn、241Pu、241Amなど
利用施設名   :不特定多数のラジオアイソトープ利用施設
照射条件    :常温、常圧、(大気中)
応用分野    :薬学、生物学、考古学、環境科学、放射線管理   

概要      :
 液体シンチレーションカウンタは、トリチウム(3H)や放射性炭素などの低エネルギーのβ放出核種をはじめ、中・高エネルギーのβ放出核種及びα放出核種の測定に広く使用されている。液体シンチレーションカウンタを用いた測定は、4πジオメトリ計測であるため高い計数効率が得られ、さらに低レベルから高レベルまでの放射性試料の測定に適用できる。試料測定の際には、一般的にクエンチングによる計数効率の低下が生じるので、外部標準法などにより補正を行う必要がある。

詳細説明    :
1.背景
 ある種の物質は、放射線があたると蛍光を発する性質を持ちシンチレータと呼ばれる。このシンチレータの発光量を測定することにより、放射線を検出することが出来る。シンチレータには、固体のものとして、NaIなどの無機結晶、アントラセンなどの有機結晶及びポリスチレンにp‐テルフェニル(TP)などを混合したプラスチックシンチレータがある。
一方、トルエンやキシレン等の有機溶媒中にジフェニルオキサゾール(PPO)などの有機シンチレータを溶解した液体状のものがあり、液体シンチレータと呼ばれている。この液体シンチレータに、放射性の試料を溶解して測定する方法があり、液体シンチレーション計測法と呼ばれている。
 エネルギーの低いβ線を放出する3Hや放射性炭素(14Cなど)のような核種の放射能は、β線が試料自体による自己吸収により、また試料と検出器との間の空気層あるいは検出器の窓で吸収されてしまうために測定が難しい。このため化学操作により3Hや14Cを気体状の化合物にし、気体試料封入型の電離箱などを用いて測定する方法がとられていた。1950年代初頭に米国のロスアラモス科学研究所において、液体シンチレーションカウンタ(LSC: liquid scintillation counter)が開発された。LSCによる測定では、バイアルと呼ばれる小さな容器内に液体シンチレータと試料を混和して、試料から放射されるα線、β線を測定する。このため自己吸収の問題が解決され、空気層や検出器窓による放射線吸収がないので、高い計数効率での測定が可能となった。これにより、3Hや14Cをはじめ数多くの核種をトレーサとした研究が進展することとなった。
 
2.液体シンチレーションカウンタ(LSC)の概要


図1 液体シンチレーションカウンタの概略構造  

 LSCの概略的な構造を図1に示す。LSCの基本的な構成は、2本の光電子増倍管(PMT)が対向して配置された検出部、PMTからのシンチレーションパルスを計数するための計数部、計数データを計算処理するためのデータ解析部及びプリンターなどの入出力装置である。このほかに、外部標準線源の駆動装置やサンプルチェンジャーなどが付加されている。現在製品化されているLSCは構造、機能及び計数回路などの観点でほぼ完成された状況にある。また計数部にはマルチチャンネル波高分析器(MCA)を用い、β線のスペクトル分析を行うものが主流となっている。近年、測定試料とPMTの間にゲルマン酸ビスマス(BGO)シンチレータを配置し、あるいは3本のPMTと同時計数回路を用いてバックグランド計数率を低くしたものがある。さらにパルス波形弁別法(PSD)によって、微弱なα放出核種を選択的に検出できるようにした機種も開発されている。
 
3.LSCの特徴


図2 β線のエネルギーと計数効率の関係 (原論文2を参考にして改訂)

 LSCによる測定の最大の特徴は、試料が検出器に相当する液体シンチレータに溶かし込まれているため4πジオメトリで計測でき、また試料から放出された放射線が効率良くシンチレータを発光させるので計数効率が高いことである。代表的なβ放出核種について、ベータ線の最大エネルギーと計数効率との関係を図2に示す。この図からわかるように、計数効率は最も低いβ線エネルギーの3Hのものでも60%以上ある。また測定系の分解時間が数十ナノ(10-9)秒と短いので、高レベルの放射性試料にも適用できる。LSCによる核種同定は、検出器系のエネルギー分解能があまり良くないのと、ベータ線が連続したエネルギースペクトル持つことから困難である。しかし、核種が特定されている場合には放射能の定量に威力を発揮する。特に低バックグラウンド型としたLSCは、微量の放射能の検出が可能であることから、放射性炭素による年代測定などに使用されている。
 
4.LSCの測定方法


図3 液体シンチレーションカウンタによる測定方法

 図3はLSCによる測定方法を分類したものである。LSCでは、一般的には液体シンチレータを試料と混合して測定する方法がとられているが、α線放出核種では空気中の窒素の発光により、またβ放出核種ではチェレンコフ光により液体シンチレータを使用しないで測定する場合もある。
 LSCによる測定上の問題点は、試料自体あるいは混在する物質により消光現象、いわゆるクエンチング(quenching)が発生して計数効率の低下やシンチレーションスペクトルの波高分布に変位を引き起こすことである。また、ある種の化学物質はケミルミネッセンス(化学発光)を発生させて、放射線によらない偽計数を生じさせることがある。
 クエンチングには、その発生過程によって化学クエンチング、色クエンチング、濃度クエンチング、酸素クエンチングがあるが、このうち化学クエンチングと色クエンチングに対する対策が特に重要である。このクエンチングの補正(一般の放射線計測における計数効率補正に相当)には、内部標準法、試料チャンネル比法及び外部標準法がある。内部標準法は最初に考案された補正方法で、原理的にも優れているが、非密封状の放射性核種を取扱う必要があるため操作性に問題がある。試料チャンネル比法は、試料自体が持つ放射能を利用して補正を行う方法であるため、試料の放射能が低い場合には良好な結果が得られない。これに対して外部標準法は、自動補正が可能で簡便であり、環境試料などの低レベルの放射性試料にも適用できるなどの利点を有するのでよく使われている。この外部標準法を応用したものにスピルオーバ法(spill-over method)があり、3Hと14Cのような 2重標識試料の測定に使用されている。
 外部標準法によるクエンチング補正の原理は、測定試料が133Ba、137Csなどγ線源で照射されたとき、γ線と液体シンチレータとの相互作用で発生するコンプトン散乱電子のシンチレーションスペクトルの波高分布がクエンチングによって変位する現象を利用している。各メーカーでは独自の補正方式を採用しており、たとえばクエンチング指標にアロカ社では外部標準チャンネル比(ESCR)、Packard社では外部標準の変換スペクトル指数(tSIE)、Beckman社では波高分布の変曲点位置によるHナンバー(Horrocks number)を用いている。
 また、効率トレーサ法(ETM: efficiency tracing method)は、4πジオメトリによる計測を応用した測定方法として、放射能の検定などに使用されている。
 なお、ケミルミネッセンス(化学発光)による偽計数については、測定試料を冷暗所に一定時間保管し、ケミルミネッセンスの影響がなくなってから測定するなどの方法がとられている。近年では、ケミルミネッセンスに対する補正機能を備えたLSCもある。
 
5.LSCの応用分野
 LSCの放射線計測への応用分野は広く、薬学・生物学・医学における薬物動態試験及び臨床生化学、放射線管理における内部被ばく、環境放射能・作業場所のモニタリング、核燃料処理や放射性廃棄物処理などにおける放射能測定、環境科学・海洋学及び水文学(hydrology)における自然放射性核種等の測定、考古学における放射性炭素による年代測定などに活用されている。これらにおける主な測定対象核種は、3H、14C、35S、32P、38Cl、45Ca、59Fe、63Ni、89Sr、90Sr、90Y、99Tc、144Ce、147Pm、210Pb、210Bi、210Po、222Rn、232Th、234Th、241Pu、241Amなどである。

コメント    :
 LSCは放射線計測においては応用性の広い、多目的な測定器であるといえる。このため、非常に幅広い分野での調査研究、開発及び管理などに使用されている。LSCの概論的な事項について知りたい場合は原論文1、より深く知りたい方は原論文2、さらに深く原理から環境応用及び測定試料の調製技術などについて知りたい方は原論文3、環境試料の測定法については参考資料1と2、測定試料の調製法については参考資料3が参考になる。
 なお、液体シンチレータを取扱う際には、有機溶媒が含まれているため引火性や人体に対する有害性などに配慮する必要がある。これに対しては、引火性や有害性の低い有機溶剤を用いたものも市販されている。

原論文1 Data source 1:
放射線応用計測−基礎から応用まで−
野口正安(a)、富永洋(b)
(a)キャンベラジャパン株式会社、(b)応用量子計測研究所
日刊工業新聞社

原論文2 Data source 2:
最新液体シンチレーション測定法
石川寛昭
日本サイエンス株式会社
南山堂(1992)

原論文3 Data source 3:
Handbook of Radioactivity Analysis (Second Edition)
Michael F.L'Annunziata Edit.
International Atomic Energy Agency
Academic Press (2003)

参考資料1 Reference 1:
Handbook of Environmental Liquid scintillation Spectrometry
Packard Instrument Company (1994)
Packard Instrument Company (1994)

参考資料2 Reference 2:
文部科学省放射能測定法シリーズ:液体シンチレーションカウンタによる放射性核種分析法(1訂)
日本分析センター
日本分析センター(1997)

参考資料3 Reference 3:
液体シンチレーション測定におけるサンプル調製法
Packard Instrument Company
パッカードジャパン株式会社(1997)

キーワード:液体シンチレーションカウンタ、液体シンチレータ、光電子増倍管、トリチウム、放射性炭素、クエンチング、クエンチング補正、効率トレーサ法、スピルオーバ法
liquid scintillation counter, liquid scintillator, photomultiplier tube, tritium, radioactive carbon, quenching, quenching correction, efficiency tracing method, spill-over method
分類コード:040301, 040107, 040207

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