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作成: 2006/11/14 桧野良穂

データ番号   :040330
印刷による面線源作成法
目的      :均質な大面積、及び対数指標的特性を持つ放射能面線源の開発と応用
放射線の種別  :電子、α線、γ線(検出)
放射線源    :36Cl、45Ca、他
応用分野    :線源製造、放射線管理技術、放射線検出

概要      :
 放射能面線源とは、平面に放射能を均一に分布させた線源であって、放射性汚染の検査機器の校正に用いられる。これまでの放射能面線源作成法は、いずれも多くの核種について放射能分布の一様性を保証するものであるが、線源形状の自由度や、大量に均質な線源を作成する技術としては、十分ではなかった。放射能強度や面の形状に関して自由度が高く、製品としての均質性に優れ、大量生産に適した放射能面線源作成法として、近年進歩しているパソコン用のインクジェットプリンターによる印刷技術を応用する手法が開発された。

詳細説明    :
 放射能面線源は、非密封のアイソトープを取り扱う施設のフロアモニタ、ハンドフットクロスモニタ、さらには、原子力施設の物品搬出モニタやランドリーモニタなどに至る、放射性汚染を検査するための測定機器校正に不可欠な線源である。現在市販されている、放射能面線源は、アルミの酸化皮膜で形成されるエッチピットに放射性物質を塗布し、その後封孔処理と言われる加熱酸化によって密封したタイプ(原論文1)や、14Cや3Hを有機化合物として、プラスチック樹脂に混ぜ、薄く引き延ばしたもの、90Srや137Csなどの様に、核種の化学形が金属イオンである場合には、イオン交換樹脂をポリマー状に成長させたものに均一に吸着させる手法(原論文2,3)などによる線源が作成されている。また、日本アイソトープ協会から市販されている面線源は、ろ紙に一定量の放射性溶液を滴下乾燥させたものに、アルミ蒸着したマイラー膜をかぶせたものである。これらの線源は、いずれも単品生産であり、個々の線源の放射能は、それぞれ微妙に違っていた。また、α線・β線など荷電粒子放出率は正確に値付けされても、放射能面密度との関係を明らかにすることは困難であった。
 
 一方、インクジェットプリンターをはじめとして、近年の小型プリンターの進歩は著しく、微細な液滴の噴射を制御する技術が高度化し、インクの種類も様々なものが作られている。放射性の液滴を吹き付ける手段として、産総研の檜野らはインクジェットプリンターに注目した。
 まず、インクジェットプリンタのインクカートリッジにNaClの化学形で36Clを混入し、面線源の作成を試みた。面線源として、最も一般的な10cm×10cmの正方形のパターンを印刷し、付着した放射能の量と一様性を調べた。線源全体からのβ線放出率を2πガスフロー型比例計数管で測定し、さらに線源の一部を切り取り、液体シンチレーションカウンタに入れて測定した。一方、分布の一様性を調べるため、イメージングプレートを線源に密着して放射能分布の2次元画像を得た。これらの測定の結果、約40Bq/cm2の表面密度で、極めて均質性のよい線源であることが確認された。図1に作成された10cm×10cmの線源と、この線源の一様性をイメージングプレートで調べた2次元画像を示す。


図1 インクジェット方式で作成した面線源(左)とその放射能分布のイメージ像(右)

 この結果、インクジェットプリンタによる面線源の作成は、大面積と大量生産に適した手法であることが実証された。現在、この手法により、45Caや241Amが支障なく印刷されることが確認されており、また、印刷対象素材も、紙から表面にエッチピットをつけたアルミ板など、より普及しやすい印刷素材と線源形状が検討されている。
 さらに、インクジェットプリンターでは、カラーコントロールにより、濃度変化を任意に調整することが出来る。また、カラープリンターには複数のインクタンクがあるので、インクに混ぜる放射能の量で大きく変化させることも出来る。そこで、青、赤、黄色の3色に1桁程度ずつ濃度変化を持たせて36Clを混入し、カラーコントロールにより色の濃度を微調整して、対数的に放射能面密度を変化させた線源の作成が試みられた。図2にこの様にして得られた線源の写真とそのイメージ像を示す。この対数線源は、β放射能汚染の規制レベル(4Bq/cm2は、ほぼ2kに相当)の2桁下から、ほぼ1桁上の3桁をカバーしている。


図2 放射能濃度を変えたインクと色調を変化させて作成した対数指標線源(左)と、この線源をイメージングプレートで撮像し、その対数直線性を調べた結果(右)

 インクジェット方式による面線源作製法は、一様性と均質性のある面線源の大量生産に適した手法であることが実証された。大量に生産した均質な線源の一部をサンプリングして、液体シンチレーションカウンタ等で正確に放射能面密度を求めることにより、荷電粒子放出率のみならず、Bq/cm2の放射能面密度標準線源として提供することも可能となる。また、対数指標の線源は、放射能汚染検査を始め、様々な微量放射能測定へ応用できる可能性を持っており、今後の大いなる発展が期待される。

コメント    :
 印刷方式による面線源の作成は、単に大量生産によるコストダウンのみでなく、線源のロット管理方式による、放射能面密度標準の供給を可能にするものである。また、対数指標の線源は、従来の標準線源にない、全く新しい線源で、放射能表面密度測定はもちろん、他の測定機器校正においても、様々な応用が期待される。

原論文1 Data source 1:
Calibration standards and instruments for measuring radioactivity. AEA Technology, Isotrak catalogue
AEA Technology plc
AEA Technology QSA, 329 Harwell, Didcot, Oxfordshire OX11 0QJ, United Kingdom

原論文2 Data source 2:
Preparation of Extended Sources with Homogeneous Polyethylene Ion- exchange Membranes.
Yoshida, M., and Martin, H.R.*
JAERI, *AECL
Appl. Radiat. Isot. 41, pp.387-394 (1990)

原論文3 Data source 3:
A novel method for large-area sources preparation for the calibration of β- and α-contamination monitors.
Tsoupko-Sitnikov, V., Picolo, J.L., Carrier, M., Peulon, S., and Moutard, G.
LNMHB
Appl. Radiat. Isot. 56, pp.21-29 (2002)

原論文5 Data source 5:
The new fabrication method of standard surface sources
Y. Sato and Y. Hino
産業技術総合研究所
Appl. Radiat. Isot., 60, pp.543-546 (2004)

原論文6 Data source 6:
インクジェットプリンターを用いた面状放射能線源作成方法の開発について
桧野良穂
産業技術総合研究所
原子力eye, Vol.51 No.4, pp.66-69(2005)

原論文7 Data source 7:
インクジェットプリンターを用いた印刷面線源の開発
桧野良穂
産業技術総合研究所
Isotope News 2005年7月号, pp.13-14

キーワード:放射能面線源、荷電粒子放出率、放射能面密度標準、インクジェットプリンタ、印刷技術、対数指標線源、表面汚染検査、クリアランス検認技術、
Radioactive area source, charged particle emission rate, standard for radioactive area density, ink-jet printing, printing techniques, logarithmic scale source, surface contamination test, clearance level certification methods.
分類コード:040202, 040201, 040204

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