放射化分析

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作成： 2006/12/03 桝本和義データ番号　　　：040322 放射化分析目的　　　　　　：放射化分析（小分類）を解説放射線の種別　　：中性子,エックス線,陽子,ガンマ線放射線源　　　　：研究用原子炉、サイクロトロン、電子リニアック利用施設名　　　：日本原子力開発研究機構　JRR-3, JRR-4 京都大学原子炉実験所　KURRI 東北大学原子核理学研究施設東北大学サイクロトロンラジオアイソトープセンター応用分野　　　　：地球科学、生物科学、環境科学、材料科学、考古学概要　　　　　　：　放射化分析は核反応を利用した元素分析法である。様々な組成の試料の分析に適用できること、非破壊多元素同時定量が可能であること、高感度分析が可能であることなどの特徴がある。また、他の機器分析法に比べてマトリックスの影響が少なく、定量できる濃度範囲が広いというのも特徴である。ここでは、放射化分析の手順、種類、特徴などを解説する。詳細説明　　　　：　原子炉で試料を中性子照射すると、中性子捕獲反応によって試料中に放射性核種が生成する。そこで、生成した核種の種類とその生成量を測定すると、その試料中に含まれている元素の種類と濃度を求めることができる。この方法を放射化分析と呼んでいる。サイクロトロンで加速した荷電粒子の照射や電子リニアックからの加速電子による制動放射線の照射によっても、放射化分析が行われている。　1960年代以降研究用原子炉や加速器が建設され、さらに1970年代に入ってGe(Li)半導体検出器，マルチチャンネルアナライザーおよび電子計算機といった電子機器の開発・普及が進み、これらを利用する放射化分析法は高感度かつ非破壊的に多元素の同時定量が行える機器分析法として様々な試料の分析に利用されるようになった。　1990年代以降は、放射化分析に匹敵する感度を有するICP（inductively coupled plasma mass spectrometry）質量分析法（ICP-MS）などの機器分析法が開発され、それらと競合するようになってきている。しかし、放射化分析では分析試料を溶解する必要がない、定量できる濃度範囲が広い、マトリックスの影響が少ないという特徴がある。　 Ⅰ 放射化分析の手順　放射化分析は以下のように、（１）放射化、（２）放射線測定、（３）定量計算の手順で行われる。以下順を追って説明する。　（１）放射化　ある同位体Xの原子核に粒子aが衝突して、放射性核種Yができ粒子bが放出される核反応は、X(a,b)Yという反応式で表される。通常、入射粒子aは中性子，荷電粒子または光子である。核種Yの生成量（放射能）は試料中に存在する同位体Xの量に比例し、同位体存在比は一定であるとすれば、生成放射能を測定するとその元素が定量できる。分析の必須条件としては、生成する核種Yが放射性であり、その核的性質（半減期、壊変に伴い発生する放射線の種類・強度）が測定に適していることが挙げられる。　特殊な例として、試料を照射しながら放出粒子bを測定する手法もある。とくに、bがγ線の場合には即発γ線分析法と呼ばれ、中性子放射化分析では分析が困難な水素、ホウ素、カドミウムなどの非破壊分析に適用されている。　（２）放射線測定　一般に、生成放射能の測定にはGe半導体検出器とマルチチャンネルアナライザが用いられ、放射性核種から放出されるγ線のエネルギーと強度を測定することで、定性・定量分析が行われる。核的性質である半減期と放出γ線のエネルギーは個々の核種に特徴的なものであり、Ge検出器では様々なγ線を同時に判別できる。核種の放射能はγ線の全エネルギーピーク面積から求められ、全て同じ測定条件で、同一の時刻での計数率に補正する。　（３）定量計算　目的元素を定量するには、その元素の濃度の分かった標準試料を同様に放射化し、生成放射能の強度比を測定することで定量できる。実際には放射能を求めず、試料と標準試料を同一条件で測定し、それぞれのγ線のピーク面積比から定量することができる。　最近、中性子放射化分析では、k₀法と呼ばれる定量法が普及してきた。k₀法では、試料とともにコンパレータを照射し、それぞれの生成放射能を測定することによって、ほぼ全ての元素の定量値または検出下限が得られる。コンパレータは照射された中性子数をモニターするために用いるもので、濃度既知の金を含むアルミニウムが用いられている。すでに、多くの元素で定量に用いる生成核種と金の中性子捕獲反応との熱中性子捕獲断面積比(k₀値)が求められているので、個々の照射施設に特有の中性子のエネルギースペクトルに関係する定数や放射線の測定に用いる検出器の計数効率などを求めることができれば、標準試料を使わずに多くの元素が定量できる。　 Ⅱ 異なる粒子照射による放射化分析　放射化分析では、照射粒子として（１）中性子、（２）光量子および（３）荷電粒子が利用できるが、中性子がもっとも多く利用されてきた。以下に、それぞれの特徴をまとめた。　（１）中性子放射化分析　中性子放射化分析では熱中性子捕獲反応が最も利用されるが、試料をカドミウム箔で包んで熱中性子を除き、エピサーマル中性子の共鳴反応を定量に利用する場合もある。金属ではCr，Mn，Co, Cuなどは感度が高く，Eu, Dy，Luなどの希土類元素やIn, Ir, Auなど貴金属元素には特に感度が良い。多数の試料を同時に照射できるのも特徴である。利用される原子炉の熱中性子束は10¹²^-¹⁴ cm^-²・sec^-¹、照射試料は数mgから数100mg程度である。　（２）光量子放射化分析　光量子放射化分析では加速エネルギー20から30MeV程度、電流値100μA程度の出力の電子加速器が用いられ、加速電子を白金などの重金属に照射して発生する制動放射線で放射化される。光核反応は原子番号が大きくなるにつれて系統的に増加するため、天然物試料の場合の主要成分である軽元素（C，N，O）から、微量成分である遷移金属や重金属（Ni，Zr，Nb，Pb，Tl，U）まで数多くの元素が定量できる。　（３）荷電粒子放射化分析　荷電粒子放射化分析にはサイクロトロンなどが用いられる。陽子による放射化では照射エネルギー10MeV前後、電流値数μA程度である。荷電粒子は物質中に入射後、エネルギーを失い停止するため、陽子照射では試料厚みは1～2mmである。飛程は入射粒子の種類と入射エネルギーおよび物質の組成で決まるので、定量の際には試料ごとに飛程を考慮する必要がある。　半導体などの高純度物質では極微量含まれるC，N，Oが製品の特性に大きく影響するため、これら軽元素の分析に活用されてきた。その際、比較標準物質として化学量論的に確かな化合物を用いることができるため、SI単位に直結した基準分析法として位置づけられている。また、照射粒子とエネルギーを選択することにより、特定の元素を高感度に定量できるという特徴もある。　　放射化分析は、上記の特徴を利用して、これまで沈積物やエアロゾルなどの環境分析、重金属の生物影響調査、隕石や岩石の微量元素組成、材料評価、考古遺物などの産地同定、毛髪などの鑑定、各種標準試料の標準値の決定など様々な研究分野において多いに役立ってきている。コメント　　　　：　放射化分析は高感度多元素非破壊分析法であることは認識されていても、専門家が行う特殊な分析技術として位置づけられてきたと思われる。放射化分析法の標準化が行われ、公定分析法として認定されることで、環境分析や製品の品質保証の手段として利用されることを期待したい。参考資料１ Reference 1：放射化分析ハンドブック伊藤泰男、海老原充、松尾基之放射化分析研究会日本アイソトープ協会(2004) キーワード：中性子、制動放射線、荷電粒子、研究用原子炉、サイクロトロン、電子線形加速器、γ線スペクロメトリー neutron, bremsstrahlung, charged-particle, research reactor, cyclotron, electron linear accelerator, gamma-ray spectrometry 分類コード：040498,
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