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作成: 2006/12/11 富永 洋

データ番号   :040320
Cf-252中性子による微量水素・水分の計測
目的      :産業現場における微量水素・水分の非破壊分析・検査・計測
放射線の種別  :中性子(入射)、中性子(検出)
放射線源    :252Cf中性子源(3.7MBq〜0.6GBq)
照射条件    :大気圧室温中
応用分野    :核分裂性物質の計量管理、各種工業材料中の微量水素・水分計測、石油精製プラントでの反応容器材の水素侵食非破壊検査など

概要      :
 核分裂性物質の正確な計量管理や長期貯蔵中の腐食防止のために、微量水素あるいは僅かな水分の検出が必要となるので、米国では252Cfの中性子を利用した高感度水素計や水分計が開発された。微量水素の部分的な集中堆積は通常の鉄鋼材などでも問題になることがあり、日本で石油精製プラントの早期非破壊検査のため、252Cf中性子による鋼材中微量水素集積の検出が試みられ、良い結果が得られた。また検出技術の改善も試みられている。

詳細説明    :
 核分裂性物質の計量管理や鉄鋼材の水素侵食に関連して、あるいはまた半導体物質の電気的特性に関して、微量の水素が問題になることが多く、近年産業界の関心事となっている。その多くは管理の現場における非破壊検査・計測が求められるので、大型加速器や原子炉を基盤とする研究センターに頼ることなく、携帯可能なRI (放射性同位元素) 中性子源などを手段とする、微量水素あるいは水分の計測法開発などが種々報告されている。その技術は水素が他のすべての元素に比し、中性子の減速能が格段と大きく、高速中性子を多数回の弾性散乱(多重散乱)によって比較的容易に熱中性子化し得ることに基づいている。また生成した熱中性子は、3He計数管などで効率良く検出される。
 一例として、核分裂性物質の取り扱いにおいては、その計量管理に基づく保障措置が不可欠であるが、僅かな水素の混入が計量を大きく狂わす恐れがある。そこでその対策の一つとして、米ロスアラモス研究所では252Cf利用水素分析計が開発された。その構成は図1のとおり、252Cf中性子源(0.6GBq)、3He計数管(10気圧、25mmφ)及び小試料(体積約8.5cm3)をニッケルで取り囲んで中心部に置き、全体を約30cm立方の鉄反射材で覆うかたちになっている。水4mL試料を用いたときその水素による熱中性子計数の増加量(正味信号増分)は、バックグラウンド計数に対する相対比でH 1mg当たり0.077%、すなわち、約10kHzの計数率で動作する本分析計では、100秒測定において約6mgのHが50%以下の不確かさで検出できるという(原論文1)。


図1 252Cf-based hydrogen analyzer, showing both a top view and a side view for the Ni(2)−Ni configuration(Ni(2)は検出器を2個使用の場合を示す)(原論文1より引用)



図2 PuO2 moisture gauge configuration used in experiments and proposed for the engineering prototype system(原論文2より引用)

 また、核物質が製造されたことのある米エネルギー省傘下の幾つかの施設では、小金属容器に入ったPuO2粉末が、長期貯蔵のためさらに大きい容器に密封格納されている。そこでの腐食と水素ガス発生を防止するには、同粉末中の水分を0.5重量%以下に抑える必要がある。しかし従来、これに対処可能な迅速計測法が無かった。この現場に適用できる迅速で正確な微量水分計として、中性子の減速に基づくPuO2缶水分計プロトタイプが開発された。その断面図を図2に示す。 PuO2缶のすぐ左側に252Cf中性子源、右側に接近して熱中性子検出器(3He計数管など)が配され、それらの全体が10cm厚さの鉄反射材で取り囲まれている。この配置の最適化はモンテカルロ模擬計算に基づき行われた。3本の検出器を用い200秒測定した場合、同プロトタイプの水分検出限界は0.02%となり、十分に低い(原論文2)。
 富永らは、原論文1の水素分析計の場合、試料中の水素(減速材)が微量なことに着目し、これに敢えて補助減速材(ポリエチレンなど)を追加使用することが有効に働くものと考え、図3に示すジオメトリで同減速材の量を実験的に変え最適化を試みた。その結果、1mLの水試料を取り囲むポリエチレンの厚さが約7.5mmのとき最大の中性子計数増加勾配が得られた(図4参照)。これを換算すると、水素1mg当たりの計数増加率にして0.26%(原論文1の場合の3倍強)という高い感度が得られた(原論文3)。


図3 小試料中微量水素分析のために最適化された測定センサの一例(原論文3より引用)



図4 小試料中微量水素分析計における減速材厚さ最適化実験結果の一例(原論文3より引用)

 今中ら(非破壊検査(株))は、高温高圧の水素環境下で稼働する石油精製プラントなどで問題になる、反応容器材料(鉄鋼材)の水素侵食による劣化を早期に検知することを目的として、微量水素含有鋼板を模擬した試料に対して、252Cf中性子源(3.6MBq)と熱中性子検出器(BF3計数管)とを用いた計測実験を行い良い結果を得た(原論文4)。模擬試料は、種々の厚さの鋼板組合せを用いその間にポリエチレンシート(0.25mm厚)を逐次追加挿入し、その重量比をもって鋼中水素含有量(ppm)に対応させた。線源・試料・検出器の配置は透過型(図5参照)と後方散乱型(図6参照)の2種について行い、熱中性子計測の結果(計数値対水素含有量の関係)は、図7および図8のようになった。すなわち図7は、透過型では鋼材中広範囲の水素量に渡って、また図8は後方散乱型で、母材鋼板とその腐食を防ぐため内壁面を覆ったステンレス鋼板(オーバーレイ)との境界付近における微量の水素集積に対して、それぞれ良い計測感度を有することを示している(原論文4)。


図5 鋼材透過型中性子線の測定配置(原論文4より引用)



図6 後方散乱型中性子線の測定配置(原論文4より引用)



図7 鋼材中の水素量と透過中性子数の関係(原論文4より引用)



図8 オーバーレイの水素検出限界(原論文4より引用)



コメント    :
 原子炉や大型加速器からの十分強くて良質の中性子ビームが利用でき、かつ採取試料が持ち込める場合は、冷中性子による捕獲γ線分析や、熱外中性子の共鳴吸収を用いる特殊なフィルター技術(参考資料1)等を利用して、ppmレベルの水素分析が可能なことが知られている。しかし、 試料を採取することなく、核分裂性物質取り扱い管理区域内や石油精製プラント現場のその場で、比較的弱い放射能の252Cf中性子源を用いて、微量の水素あるいは水分を計測できることは、一見意外に思われるかも知れないが、線源・検出器の持つ各中性子特性とその間に介在する反射材・減速材等の特質との組合せの結果として、優れた性能が得られたものと考えられる。

原論文1 Data source 1:
252Cf-based hydrogen analyzer
D. A. Close, R. C. Bearse, H. O. Menlove,
University of California, Los Alamos Scientific Laboratory
Nucl. Instrum. Methods, 136, pp.131-135 (1976)

原論文2 Data source 2:
Moisture probe using neutron moderation for PuO2 canister inspection
D, Holslin, V. Verbinski, L. Foster*
SAIC, San Diego, *LANL
Trans. Am. Nucl. Soc. 77, pp.147-148 (1997)

原論文3 Data source 3:
微弱放射能中性子源を用いた高感度水素・水分計の開発
富永 洋、立川 登*1、石川 勇*1、東 洵*2、小里俊哉*3
応用量子計測研究所、*1日本原子力研究所、*2神鋼メックス、*3神戸製鋼所
第22回日本アイソトープ・放射線総合会議論文集、A340 p.1-8, 日本原子力産業会議 (1996) 

原論文4 Data source 4:
中性子後方散乱線による鋼中水素量の測定
今中拓一、末次 純、宮本 宏、松尾 博、浜 紀昭
非破壊検査(株)、安全工学研究所
平成7年度春季大会講演概要集、p.267-272、(社)日本非破壊検査協会 (1995)

参考資料1 Reference 1:
Detection of parts-per-million levels of hydrogen in solids using a modified notched neutron spectrum technique
W. H. Miller, Li-Te Lin, R. M. Brugger, W. Meyer*
University of Missouri, *Syracuse University
Nuclear Technology, 99, pp.252-257 (1992)

キーワード:核分裂性物質、PuO2、水素計、水分計、252Cf中性子源、Fe反射材、多重散乱、付加減速材、3He計数管、検出限界、
fissile material, PuO2, hydrogen analyzer, moisture gauge, 252Cf neutron source, Fe reflector, multiple scattering, additional moderator, 3He counter tube, detection limit
分類コード:040205, 040305, 040306

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