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作成: 2005/12/18 桧野良穂

データ番号   :040313
放射能標準とトレーサビリティ
目的      :放射能標準の確立と供給の実施
放射線の種別  :アルファ線、ベータ線、ガンマ線(検出)
放射線源    :RI線源
利用施設名   :産業技術総合研究所非密封アイソトープ施設
照射条件    :室温、大気中
応用分野    :線源製造、放射線管理技術、放射線検出

概要      :
 産総研では、主に4πβ-γ同時測定装置を用いた絶対測定法により、精密に放射能の値付けを行い、加圧型電離箱、高純度Geスペクトロメータ、液体シンチレーションカウンタ等の放射能測定機器の校正を行っている。これらの測定機器は、計量法により、放射能の国家標準を具現化する「特定標準器群」として特別に管理され、国際比較などに用いられる。また、特定標準器で値付けられた放射能線源は、認定事業者の持つ二次標準機器の校正に用いられ、さらに、二次標準器との比較、あるいは二次標準器で値付けされた実用標準線源が一般に頒布され、比較・校正の連鎖が繋がってゆくことにより、放射能標準が供給され、そのトレーサビリティが維持されている。

詳細説明    :
 放射能の単位はBqであるが、計量法では、産総研にある放射能絶対測定装置により、Bqが具現化され、その値が国家標準であると位置づけられている。同じく、計量法に基づく校正事業者認定制度(Japan Calibration Service System; JCSS)では、一定の基準を満たした機関を認定事業者として登録し、認定事業者の持つ測定器を特定二次標準器として国家標準で校正し、二次標準器から、さらに他の測定機器を校正することにより、国家標準にトレーサビリティのとれた標準が供給されてゆく仕組みが整備されている。放射能に関しては、4πβ-γ同時測定装置を中心に、加圧型電離箱、高純度Geスペクトロメータ、液体シンチレーションカウンタ等の測定機器が特定標準器群と位置づけられ、これらの装置を用いて、認定事業者(現在は、日本アイソトープ協会)の持つ特定二次標準器が校正されている。
 4πβ-γ同時測定装置とは、一般に原子核の崩壊において荷電粒子とγ線が同時に放出される性質に着目して絶対測定を可能とした手法である。具体的には、放射性の溶液を非常に薄い膜(約20μg/cm2程度)の上に少量(20〜50mg)滴下・乾燥させ、測定用の線源を作成する。この線源をガスフロー型の4πβ比例計数管に入れてβ線の数(Nβ)を測定し、比例計数管の直近に配置したγ線検出器により、γ線の数(Nγ)と、β線とγ線が同時に検出される数(N)を測定する。このとき、求める放射能をN、検出器の効率をそれぞれεβ 、εγとすると、
     Nβ=N×εβ     (1)
     Nγ=N×εγ     (2)
     N=N×εβ×εγ   (3)
 であるから、求める放射能Nは、
     N=Nβ×Nγ/N  (4)
として、他の情報に一切頼ることなく、独立に放射能が値付けされる。図1に産総研が特定標準器として放射能の標準供給に使用している4πβーγ同時測定装置を示す(原論文1)。


図1  産総研の放射能絶対測定用の4πβーγ同時測定装置。中心部に4πβ検出器があり、その上下に3"×3"のNaI(Tl)検出器が配置されている。

 ただし、この方法が厳密に適用できる核種は限られており、また、放射能濃度も、滴下乾燥させた線源が概ね数kBqであることが望ましいため、あまり測定に強度的広がりを持たせることは不可能である。そこで、産総研ではMBq/g以上のレベルの放射能は加圧型電離箱で、kBq/g以下は高純度Ge検出器を用いた相対測定により、範囲の拡張を行っている。
 放射能測定用の加圧型電離箱は、中空円筒状(ウエル形)の容器に、窒素やアルゴン等の安定したガスを加圧して封じ切ったもので、この電離箱の中心部にγ線源を挿入し、電離電流を測定する。図2に産総研が作製した特定標準器用電離箱の断面図を示す(原論文2、3)。
 


図2  産総研の放射能標準供給に使用している加圧型電離箱。中央部に、アンプルに一定量の放射能溶液を入れた線源を置き、線源から放出されるγ線により電離される電流を測定する。

 一方、放射性核種の中には、γ線を全く放出しないタイプも存在する。これらの純α、β核種の放射能は、一般的に液体シンチレーションカウンタよる測定が行われている。また、ハンドフット・クロスモニタや汚染検査用サーベイメータの校正には、大面積の面線源が用いられる。この面線源は、荷電粒子放出率を2πガスフロー比例計数装置や表面障壁型検出器により測定して校正が行われている。この他にも、放射性ガスなど、様々な核種と利用形態に応じた放射能標準が値付けされ、供給されている(原論文1)。 これらの測定機器や線源のトレーサビリティ体系を図3に示す。また、表1に現在産総研が標準を供給している放射性核種とその測定手法を示した。


図3  放射能標準の供給体制と用いられる測定機器及び標準線源類。測定機器の校正には、上位の機器で校正された線源を仲介として、校正のリングが繋がっている。


表1  産総研が標準の値付けを行っている主要な核種と測定法
 Type of radiation Physical/Chemical form Nuclide Method for primary standardization Uncertainties
 (k=2)
α with prompt γ 水溶液 241Am  4πα−γ同時計数法 0.5%
226Ra ヘニシュミット標準線源との比較 2%
   α 電着線源 210Po(210Pb), 241Am, 244Cm
 2πα比例計数法 0.8%
 pure β 水溶液 32P,35S,63Ni,90Sr,147Pm,204Tl 効率トレーサー法(比例計数管) 1.0%
有機溶媒 3H(T), 14C 効率トレーサー法(液体シンチ)  
T2O 効率トレーサー法(液体シンチ)  
気体 T2, CT4, 14CH4, 14CO2, 85Kr,
133Xe
 ガスカウンテイング法  
β with prompt γ 水溶液 22Na, 24Na, 42K, 46Sc, 59Fe,
60Co,95Zr,99Mo-99mTc, 103Ru-
103Rh, 106Ru-106Rh, 110mAg,
131I, 134Cs, 141Ce, 144Ce-144Pr,
181Hf, 192Ir, 198Au, 203Hg
 4πβ−γ同時測定法 0.4%

1.5%
EC with prompt γ 水溶液 51Cr, 54Mn, 57Co, 65Zn, 67Ga,
75Se, 85Sr, 88Y, 133Ba, 139Ce,
153Gd, 201Tl
4πX(e)−γ同時測定法 0.4%

1.5%
X-γ 水溶液 125I
 サムピーク法 2.0%
マルチγ 水溶液 152Eu
4πγ計数法(ウエル型NaI) 1.0%
遅延γ付β 水溶液 137Cs
効率トレーサー法(134Cs) 1.0%
遅延γ付EC 水溶液 109Cd
 内部転換電子計数法 0.8%
 純EC 水溶液 55Fe
 効率トレーサー法(液体シンチ) 2.0%
 純γ(IT) 水溶液 99mTc  99Moの測定、又は 1.0%
 光子スペクトロメータ 2.0%
 放射能の標準は、主に表−1に示された核種の一次標準線源を基にした校正の連鎖であるが、昨今、放射性の線源を保有することに対する管理規制が強化され、直接に測定機器の校正を行う事への希望が増加しつつある。一方、近年治療用の放射能線源の利用が増大し、その効果を比較検討するために、投与量と測定結果の整合性が大きな問題となっている。これらは、単に国内的な問題ではなく、国際的な整合性が特に重要な部分でもあるため、国際度量衡局(BIPM)を中心とした関係諸機関との密接な連携により、新しい標準の確立と供給体制の整備を計画している。特に、医療用には短半減期の核種が好まれるため、線源そのものをやりとりする従来の手法ではなく、小型のウェル型NaI(Tl)検出器などの測定機器を持ち回る方式が検討されている。
 この他、一般的な国家標準の同等性を確保するための仕組みとして、相互認証制度(MRA)が合意されている。この協定の基、BIPMが事務局となり、各国の標準の妥当性を検証するために行われた基幹国際比較リスト(MRAの付属書(Appendix) B)と、各国が供給している標準のリスト(Appendix C)が、基幹国際比較データーベース(KCDB) に纏められ、BIPMのホームページから一般に公表されている。インターネットの検索で、キーワードに "BIPM-KCDB" と入力して検索すれば、これらの情報を取り出すためのページを容易に見つけることができる。現在、我が国の放射能標準としてAppendix Cに195の項目(放射能の場合、核種や形状毎に細分されるために数が多い)が登録されている。また、これらの標準の国際的整合性を確認するため、各国が持ち回りで幹事となり、測定用の線源を提供する形で、毎年2核種程度の国際比較が実施されており、その結果はAppendix Bの文書として核種毎に編集され、公表されている。

コメント    :
 放射能の標準は、放射線計測の全般に亘る基礎的な指標であるが、実際にそれらがどの様にして値付けられ、供給されているかに関しては、あまり知られていないのが現状である。近年、品質保証の観点から、トレーサビリティが厳しく求められており、使用者がその用いている標準の不確かさとそのトレーサビリティを今一度確認するためにも参考になる。
 また、今後は、標準線源を用いて校正サービスを行うような供給形態が重要となるものと予想される。JCSS制度の弾力的な運用により、多くの事業者が参加してくれることを期待したい。

原論文1 Data source 1:
放射線標準
桧野良穂
産業技術総合研究所
Radioisotopes Vol.54, 395-405 (2005)

原論文2 Data source 2:
Absolute measurement of Ho-166m radioactivity and development of sealed sources for standardization of γ-ray emitting nuclides
Y. Hino, S. Matsui, T. Yamada, N. Takeuchi, K. Onuma, S. Iwamoto and H. Kogure
産業技術総合研究所
Applied radiation and Isotopes 52, 545-549 (2000)

原論文3 Data source 3:
加圧型電離箱によるγ線核種放射能二次標準の確立
桧野良穂1、松井真2、山田崇裕2、竹内紀男3、小野間克行3、岩本清吉3、木暮広人3、大久保昌武3
1産業技術総合研究所、2日本アイソトープ協会、3日本原子力研究開発機構
電子技術総合研究所彙報 第62巻第9号、399-405 (1998)

キーワード:放射能標準、トレーサビリティ、放射能絶対測定、4πβ-γ同時測定法、密封小線源、放射能面線源、荷電粒子放出率、放射能面密度標準
radioactivity standardization, traceability, absolute measurement of radioactivity, 4πβ-γ coincidence measurement, small sealed source, radioactive area source, charged particle emission rate, standard for radioactive area density
分類コード:040202, 040201, 040204

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