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作成: 2005/09/30 末木啓介

データ番号   :040309
金属内包フラーレンの放射化学的研究
目的      :金属元素内包フラーレンの内包された原子の標識化とその応用
放射線の種別  :中性子、重イオン、ガンマ線
放射線源    :原子炉、重イオン加速器
利用施設名   :立教大学原子力研究所TRIGA狂胸厦А日本原子力研究開発機構JRR-3・JRR-4・タンデム加速器、京都大学原子炉実験所KUR、理化学研究所リングサイクロトロン
照射条件    :大気中
応用分野    :フラーレンHPLC分析、RI標識化合物

概要      :
 放射性同位体をトレーサーに用いて、金属(元素)内包フラーレンの化学的性質に関する系統的研究が進められた。フラーレンに内包された金属元素を原子炉中性子で放射化する方法や、重イオン加速器を用いて製造したマルチトレーサを浸透させたグラファイトを電極とするアーク放電法で放射性同位体で標識された金属内包フラーレンを製造する試みがなされた。この標識化により、金属内包フラーレンの高速液体クロマトグラフィーによる分離条件が明らかになるとともに、ランタノイドやアクチノイドなど様々な金属元素の内包のされ方について、多くの知見が得られた。

詳細説明    :
 1985年に炭素の新しい化合物としてフラーレンが発見され、さらに1990年にその大量合成法が開発されて以来、その合成や物理的、化学的性質についての研究が精力的に行われてきた。
 フラーレンは炭素原子でできたカゴ型の分子、炭素数が60個のサッカボール状のものから、70個、82個のものなど様々な形状のものが知られている。中空のカプセルの中に原子を閉じこめることが可能で、どのような原子がどのような状態で入るのか、そしてどのような新しい性質が生まれるかに関心が寄せられ、金属元素などの原子の入ったフラーレンを合成する方法、また分離する方法の開発などの様々な研究が進められてきた。
 金属元素を内包したフラーレン(以下では、”金属内包フラーレン”という)は、フラーレンの原料であるグラファイトの粉に金属粉末を混ぜておき、アーク放電法で炭素と金属を一度に蒸発させることによって合成できる。この方法で、これまでにカルシウム、スカンジウム、ランタンなどを内包したフラーレンが得られている。
 
 目的の元素を内包したフラーレンをその他のフラーレンから分離することは、相互の化学的性質の差が小さいために、容易ではない。もし、内包された原子を放射性同位体にすることができれば、化学的挙動を調べるトレーサーとして利用できることになる。
 Suekiらは、ランタノイドを内包したフラーレンを原子炉で中性子照射すると、フラーレンケージに入ったままでランタノイドが放射化されることを示した(原論文1,2)。それらをトレーサーとして用いたラジオクロマトグラフ法により、様々なランタノイド内包フラーレンの各種固定相における溶離挙動が明らかになった。
 図1に一般的にフラーレン分離に用いられている2種類の固定相(Buckyprep, 5PBB)に対する14種類のランタノイドのラジオクロマトグラフを示す。Sm, Eu, Yb, Tmの4種類の元素が他の元素と大きく異なる溶離挙動を示していること、軽いランタノイドと重いランタノイドでは生成物に違いがあることが明らかになった。前者(Sm, Eu, Yb, Tm)はアルカリ土類金属と非常に似た生成物を作ることが分かり、フラーレン内での酸化数が+2であると推定される。その他の元素はランタノイドで一般的な+3の酸化数を持っていると考えられる。また、軽いランタノイドと重いランタノイドでの生成物の違いはイオン半径に関係していると考えられる。


図1  HPLC elution curves of lanthanoid metallofullerenes on (a) the Buckyprep column and (b) the 5PBB column.

 放射性同位体を混合したグラファイトを用いてアーク法でフラーレンを製造し、どのような元素がフラーレンに内包されやすいかが調べられた(原論文3)。理化学研究所のリングサイクロトロンで加速された高エネルギーの重イオンを金に照射して製造したマルチトレーサー(核破砕反応によって生成する様々な放射性同位体を含むものの総称)をアーク放電の陽極用の炭素棒に浸透させ、He雰囲気下でアーク放電を行った。生成したスス状の物(soot)を回収し、二硫化炭素で抽出した。次に、この抽出物(crude)を5PBB固定相とする高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分離し、溶離液の放射能を測定した。
 図2にススから二硫化炭素に抽出された放射能の割合(crude/soot)を●で示した。また、様々な元素を内包したフラーレンを含むフラクションに含まれる放射能のスス中の放射能に対する割合を○で示した。横軸は長周期表の族を示している。属の番号が大きくなるにつれて金属内包フラーレンの成分は少なくなる傾向にあることが分かる。前述のアルカリ土類金属、ランタノイドとともに、第4族元素であるZr、Hf両元素もフラーレンに内包されることが初めて確認された。また、鉄などの遷移金属はcrude中に溶解する成分ではあるがフラーレン中に内包されているとはいえない。


図2  Yields of each element extracted into CS2 solvent and those of metallofullerenes. The sum of the radioactivity observed in the fractions collected from 11.5 to 15.5 min for Sr, Sc, Y and the lanthanoids, and that from 12.5 to 16.5 min for Zr, Hf and Nb is shown by open points for each element as a fraction of the respective radioactivity initially present in the soot. The bars are obtained counting statistical error by γ-ray measurements, and the arrows show the upper limit value by γ-ray measurements. (原論文3より引用)

 更にアクチノイドについても、原研のタンデム加速器を用いて製造された半減期が実験上適当なウラン周辺の放射性同位体(237U, 239Np, 240Am)、及び長期間貯蔵された放射性核種の子孫核(234Th, 233Pa)を化学分離して精製したものをグラファイトと混合し、原論文3と同様にアーク法でフラーレンが合成された(原論文4)。
 図3に、二種類の固定相を用いた場合の溶離挙動を示した。Th, PaとU, Np, Amそれぞれで主に1種類の分子種の存在が確認された。さらに、ThとUについてはマクロ量を用いた合成も行われ、先に得られた二種の固定相の溶出位置からThとUを内包するフラーレンを単離する事に成功した。また、ThはTh@C84、UはU@C82とマクロ量のUではU2@C80が生成していることが質量分析法で確認された。Uは今までによく知られているLaなどの軽いランタノイドと類似しているのに対して、Thは他のランタノイドではあまり一般的でないC84ケージにのみ内包されていることが分かった。その違いがなぜ生じるのかは今後の検討課題である。


図3  HPLC elution curves of actinide metallofullerenes on (a) the Buckyprep column and (b) the 5PBB column. For both columns, the elution curves of U, Np, and Am metallofullerenes are similar to those of the light lanthanide fullerenes such as Ce. On the other hand, the elution curves of Th and Pa metallofullerenes are quite different from those of the any lanthanide metallofullerenes. (原論文4より引用)



コメント    :
 放射性同位体をトレーサーとして用いることで、様々な金属内包フラーレンの合成の可能性とそのHPLCによる溶離条件の検討が行われてきたが、今後はフラーレンのトレーサーとしての応用とともに、放射性同位体を内包する機能性物質としての発展に期待したい。例えば、フラーレンの生物への取り込み挙動などを定量的に取り扱うことが可能になる。また、興味深い知見として、フラーレンに内包されることによって放射性同位体の半減期が短くなるとの報告もなされている。

原論文1 Data source 1:
HPLC elution behavior of La-fullerenes investigated by radiochemical method
K. Sueki, K. Kobayashi, K. Kikuchi, K. Tomura*, Y. Achiba, H. Nakahara
Department of Chemistry, Faculty of Science, Tokyo Metropolitan University
*Institute for Atomic Energy, Rikkyo Unversity
Fullerene Science & Technology, 2, 213-221 (1994)

原論文2 Data source 2:
New lanthanoid metallofullerenes and their HPLC elution behavior
K. Sueki, K. Akiyama, T. Yamauchi, W. Sato, K. Kikuchi, S. Suzuki, M. Katada, , Y. Achiba, T. Akasaka*, H. Nakahara, K. Tomura**
Department of Chemistry, Faculty of Science, Tokyo Metropolitan University
*Graduate School of Science & Technology, Niigata University
**Institute for Atomic Energy, Rikkyo Unversity
Fullerene Science & Technology, 5, 1435-1448 (1997)

原論文3 Data source 3:
Formation of metallofullerenes with higher group elements
K. Sueki, K. Kikuchi, K. Akiyama, T. Sawa, M. Katada, S. Ambe*, F. Ambe*, H. Nakahara
Graduate School of Science, Tokyo Metropolitan University
*The Institute of Physical and Chemical Research
Chemical Physics Letters, 300, 140-144 (1999)

原論文4 Data source 4:
Study of metallofullerenes encapsulating actinides
K. Akiyama, K. Sueki, K. Tsukada*, T. Yaita*, Y. Miyake, H. Haba*, M. Asai*, T. Kodama, K. Kikuchi, T. Ohtsuki**, Y. Nagame*, M. Katada, H. Nakahara
Graduate School of Science, Tokyo Metropolitan University
*Advanced Science Research Center, Japan Atomic Energy Research Institute
**Laboratory of Nuclear Sciences, Tohoku University
J. Nuclear and Radiochemical Sciences, 3, 151-154 (2004)

キーワード:金属内包フラーレン、ランタノイド、アクチノイド、高速液体クロマトグラフ、中性子放射化、放射性同位体
metallofullerene, lanthanoid, actinoid, high performance liquid chromatography, neutron activation, radioisotope
分類コード:040103, 040101, 040303

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