放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 2005/06/05 片桐 政樹

データ番号   :040303
半導体検出器の原理と応用
目的      :放射線の核種・定量分析に使用するエネルギー分散型検出器
放射線の種別  :エックス線,アルファ線,ベータ線,ガンマ線
放射線源    :60Coなどガンマ線源
応用分野    :核種定量分析、蛍光X線分析、放射化分析、環境放射能分析、医療診断装置

概要      :
半導体検出器はp層/空乏層/n層から構成されており、空乏層内に生成される電子・ホール対を測定することにより放射線を検出する。半導体素材として、従来Siと Geが用いられてきたが、最近ではCdTeなどの化合物半導体やダイヤモンドを用いた検出器の開発が進んでいる。エネルギー分解能が非常に優れており、ベータ線、アルファ線、重イオンなどの粒子線及びX線・ガンマ線などの高精度の核種・定量分析に使用されている。

詳細説明    :
 半導体検出器の最大の特徴は、エネルギー分解能が、他の放射線検出器に比較して非常に良いことにある。検出信号の波高分布を測定すると、入射した放射線のエネルギーに比例した位置にピークとなって現れる。このピークの幅(エネルギー分解能)が狭いほど、色々な放射線が入射した場合、分離しやすい。また、このピークの面積が入射した放射線の数に比例することから、放射線の入射数の測定精度も上がる。


図1  半導体検出器(Geガンマ線検出器)による放射線検出の原理

 半導体検出器による放射線検出原理を図1に示す。基本的には、通常電子回路に使用されているダイオードと同じくp層、空乏層、n層から構成される。異なる点は空乏層が厚いことにある。キャリアが存在しないこの層に荷電粒子が入射すると電離し、電子とホールを生成する。この電子とホールをp電極(層)とn電極(層)に集めパルス電流とする。パルス電流は図1に示すように、前置増幅器と主増幅器により増幅された後、マルチチャネル波高分析器により波高分布として測定される。この波高分布をもとに、計算機によりピーク部分の解析・処理が行われ、放射能の核種とその量を求めることができる。
 以上のような大きな利点を待つことから、約40年前に、Si(シリコン)及びGe(ゲルマニウム)を素材とした半導体検出器が開発された(原論文1)。現在、Si半導体検出器はアルファ線、ベータ線、重粒子などの粒子検出器として、粒子線物理、核物理、宇宙物理などの研究になくてはならない検出器となっている。また、SiにLiをドリフトしたSi(Li)検出器は高エネルギー分解能X線検出器として、放射光実験、蛍光X線分析などに使用されている。


図2  Geガンマ線検出器による60Coガンマ線波高分布の測定例

 Ge検出器は元素番号が比較的大きくエネルギー分解能の目安となるエネルギーギャップが小さいことから、高エネルギー分解能を持つガンマ線検出器として使用されている。Ge(I)検出器により測定された60Coからのガンマ線波高分布の測定例を図2に示す。1172keVと1332keVのガンマ線ピークが検出されており、左側の台形部分はガンマ線がコンプトン散乱した際に現れる。


図3  スターリング冷却器を用いたポータブル型Ge検出器の概略構造図
(原論文3より引用。 Reprinted by permission of IEEE Intellectual Property Rights Office from: M. Katagiri, A. Birumachi, K. Sakasai, K. Takahashi. Portable Gamma-ray Monitor Composed of a Compact Electrically Cooled Ge Detector and Mini-MCA System. IEEE Transact. Nucl. Sci., 50, 1043-1047 (2003). Figure 1)

 Ge(I)検出器は、液体窒素を用いて-170℃近辺まで冷却する必要があり、保守維持に手間がかかることから、最近では冷凍機を用いて冷却する据え置き型(原論文2)及びポータブル型(原論文3)が開発され用いられるようになった。ポータブル型Ge検出器の概略構造図を図3に示す。

表1  化合物半導体を用いた放射線検出器(原論文4から作成)
半導体
 
バンプドギャッ
(eV)
電離エネルギー
(eV)
電子移動度
(cm2/V/s)
ホール移動度
(cm2/V/s)
動作温度
 
ダイヤモンド 5.5 13 2000 1600 高温
4H-SiC 3.2 7.8 1000 115 高温
HgI2 2.13 4.2 100 10 常温
GaAs 1.45 4.5 8800 400 常温
CdTe 1.47 4.4 1200 50 常温
Si 1.11 3.65 1900 500 常温−低温
Ge 0.67 2.96 3800 1820 液体窒素温度
InSb 0.17 (1.1eV) 78000 750 He温度
 最近では、表1に示す化合物半導体を用いた放射線検出器について、Si及びGe検出器ではカバーしきれない研究分野あるいは超える性能を目指して、精力的に開発研究が進められている(原論文4)。研究の大きな狙いの一つは、常温でも使用できるガンマ線検出器であり、エネルギーギャップの比較的大きいCdTe、CdZnTe、GaAs、HgI2などの化合物半導体を用いた放射線検出器が開発された。CdZnTe半導体検出器を例に上げると、常温動作で、60keVのガンマ線に対して0.824keVのエネルギー分解能が得られている。常温半導体検出器は、X線イメージ検出器としてアレイ化され、医療用のX線CTスキャン装置にも使用されるようになった。(原論文5)
 さらにエネルギーギャップが大きくなると、高温での動作も可能となることからエネルギーギャップが3.5eV以上のダイヤモンド(原論文6)及びSiC(原論文7)などを用いた放射線検出器が開発された。
 一方、逆にエネルギーギャップが小さいと、放射線が空乏層の中で生成する電子・ホール対の数が多くなり大きな信号出力が得られ、高エネルギー分解能検出器になることが期待できる。最近、エネルギーギャップが最も小さい化合物半導体InSbを用いた半導体検出器の研究が進み、アルファ線のピーク検出が可能となった(原論文8)。

コメント    :
半導体検出器については、いまだにSi検出器及びGe検出器が主に放射線波高分析用検出器として使用されており、今後も状況は同じである。工業的に大きな高純度単結晶の製作が可能なことと、素材の諸特性がバランスよくかつ優れていることに起因している。
一方、化合物半導体やダイヤモンド検出器については、素材の高純度化及び大型単結晶の製作方法の確立など、まだ多くの開発課題が残されている。これらの素材を用いた半導体検出器は、Si検出器やGe検出器にはない多くの特徴を有していることから、今後の開発研究の進展に期待したい。

原論文1 Data source 1:
半導体ダイオード検出器
G. F. Knoll (木村逸郎/阪井英次訳)
University of Michigan
放射線計測ハンドブック(Radiation Detection and Measurement Third EDTION), (2001)401-570

原論文2 Data source 2:
Performance of a Gamma-ray and X-Ray Spectrometer Utilizing Germanium and Si(Li) detectors Cooled By aClosed-Cycle Cryogenic Refrigerator
R.E. Stone, V. A. Barkley, J. A. Felming
EG & G ORTEC
IEEE TNS, 33, 299-302 (1986)

原論文3 Data source 3:
Portable Gamma-ray Monitor Composed of a Compact Electrically Cooled Ge Detector and Mini-MCA System
M. Katagiri, A. Birumachi, K. Sakasai, K. Takahashi
Japan Atomic Energy Research Institute
IEEE Transact. Nucl. Sci., 50, 1043-1047 (2003)

原論文4 Data source 4:
Compound semiconductor radiation detectors
A. Owens, A. Peacock
EAS/ESTEC
Nucl. Instr. and Meth. A531, 18-37 (2004)

原論文5 Data source 5:
Recent development of radiation measurement instrument for Industrial and medical applications
S. Baba, K. Ohmori, Y. Mito, T. Tanoue, S. Yano, K. Tokumori, F. Toyofuku, S. Kanda
Matsushita Industrial Euquipment Co., Ltd.
Nucl. Instr. and Meth. A458, 262-268 (2001)

原論文6 Data source 6:
Development of a synthetic diamond radiation detector with a boron doped CVD diamond contact
J.Kaneko, M.Katagiri, Y.Ikeda and T.Nishitani
Japan Atomic Energy Research Institute
Nucl. Instr. and Meth. A422, 211-215 (1999)

原論文7 Data source 7:
A new generation of X-ray detectors based on silicon carbide
G. Bertuccio, R. Casiraghi, A. Cetronio C. Lanzieri, F. Nava
Politecnico di Milano
Nucl. Instr. and Meth. A518, 433-435 (2004)

原論文8 Data source 8:
Cryogenic InSb detector for radiation measurements
I. Kanno, F. Yoshihara, R. Nouchi, O. Sugiura, T. Nakamura, M. Katagiri
Kyoto University
REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS, 73, 2533-2536 (2002)

キーワード:半導体、放射線、検出器、電子・ホール対、電離、固体、エネルギー、波高分析、核種
Semiconductor, radiation, detector, electron hole pair, ionization, solid state, energy, pulse height analysis, nuclide
分類コード:040301

放射線利用技術データベースのメインページへ