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作成: 2005/3/18 田中隆一

データ番号   :040297
放射線加工線量計測に関する国際及び国内規格
目的      :放射線照射行程の品質管理、照射製品の品質保証
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線,電子
放射線源    :60Co線源(100TBq〜100PBq)、電子加速器(0.1〜10MeV, 1〜300mA)
フルエンス(率):2x1015〜5x1019/cm2 (60Coガンマ線)、4x1013〜1018/cm2 (MeV電子線)
線量(率)   :10〜104Gy
照射条件    :空気中、典型的には梱包状態でのコンベアを利用した連続照射環境。
応用分野    :医療機器及び医薬品滅菌、 食品加工・保存

概要      :
 医療機器滅菌、食品加工等の放射線加工における工程/品質管理のための線量計測に関する国際規格としてこれまで25のISO/ASTM規格が制定されている。一方、放射線加工を主対象とする国内規格はアラニン線量計に関するJIS規格が唯一あるのみである。放射線加工における線量トレーサビリティについては、技術的な基盤を確立しており、計量法に基づく制度化が可能な段階にあるが、認定事業者の申請が出される段階には至っていない。

詳細説明    :
 放射線加工あるいは高レベル線量域の放射線照射の工程/品質管理技術は1980年代に医療機器滅菌や食品加工を中心に照射製品の国際的な取引における品質保証手段として先進国を中心に広く普及するようになった。特に、アラニン線量計測装置が開発されたことによって、郵送手段を利用するユーザー加工施設の照射場における高精度の線量保証技術が確立したこと、及び医療機器滅菌において線量測定の結果に基づいての品質保証を行うドシメトリック・リリースが導入されたことによって、90年代には品質保証技術が確立し、信頼のおける物理的測定手段による線量計測技術をベースとする国際基準作りが急速に進んだ。
 一方、わが国はアラニン線量計をはじめとする線量計測技術の開発・普及の経験を通して国際的な品質保証技術の確立に貢献するとともに、米国ASTM(米国材料試験協会)及びISO(国際標準機構)の放射線加工用線量計測に関する規格作成作業にも協力している。
 放射線加工の国際規格は、現在、国際標準機関(IS0)の2つの技術委員会(TC85:原子力及びTC198:ヘルスケア製品の滅菌・無菌性保証)にその審議を託されている。
放射線加工における線量計測技術及びそれをベースとする照射工程管理や品質管理はTC85の作業グループ(WG3)に審議を託され、これまでに25の規格(表1、原論文1)がISOで規定された投票プロセスを経て制定されており、すでに5年毎の規格見直しも次々と実施されている。これらの規格の前身は先行していた米国材料試験協会(ASTM)の規格であり、1998年に開始されたISOとASTMの共同プロジェクトによって、ISO/ASTM規格の名称でISOの規格として改めて制定されたものである。ASTMはISOの技術的な協力組織としてさらに7つの規格案を現在準備中である。
 TC198関係では、医療機器の放射線滅菌規格はISO 11137(原論文2)で規定されており、放射線滅菌工程のバリデーション、工程管理、及び日常監視の要求事項が記載されている。

表1 放射線加工用線量計測のためのISO/ASTM規格一覧
ISO/ASTM51204  食品加工用γ線施設における線量計測(実施基準)
ISO/ASTM51205  硫酸第二/第一セリウム線量計測システムの使用(実施基準)
ISO/ASTM51261  放射線加工用線量計測装置の選択及び校正(指針)
ISO/ASTM51275  ラジオクロミックフィルム線量計システムの使用(実施基準)
ISO/ASTM51276  ポリメチルメタクリレート線量計システムの使用(実施基準)
ISO/ASTM51310  ラジオクロミック導波管線量計システムの使用(実施基準)
ISO/ASTM51400  高ガンマ線量校正施設の特性及び性能(実施基準)
ISO/ASTM51401  重クロム酸線量計システムの使用(実施基準)
ISO/ASTM51431  食品加工用電子線及び制動放射線照射施設の線量計測(実施基準)
ISO/ASTM51538  エタノール・クロルベンゼン線量計システムの使用(実施基準)
ISO/ASTM51539  放射線感受性インディケータの使用(指針)
ISO/ASTM51204  ラジオクロミック溶液線量計システムの使用(実施基準)
ISO/ASTM51607  アラニン−ESR線量計システムの使用(実施基準)
ISO/ASTM51608  放射線加工用X線(制動放射線)施設の線量計測(実施基準)
ISO/ASTM51631  電子線の線量測定・校正用熱量計システムの使用(実施基準)
ISO/ASTM51649  放射線加工用電子線(300keV〜25MeV )施設の線量計測(実施基準)
ISO/ASTM51650  三酢酸セルロース線量計システムの使用(実施基準)
ISO/ASTM51702  放射線加工用ガンマ線照射施設の線量計測(実施基準)
ISO/ASTM51707  放射線加工用線量計測における不確かさ評価(指針)
ISO/ASTM51818  放射線加工用電子線(80keV 〜300keV)施設の線量計測(実施基準)
ISO/ASTM51900  食品及び農業製品の放射線照射研究における線量計測(指針)
ISO/ASTM51939  血液照射の線量計測(実施基準)
ISO/ASTM51940  不妊化放飼プログラムのための昆虫照射(指針)
ISO/ASTM51956  放射線加工用熱蛍光線量計システムの使用(実施基準)
 ISO/ASTM規格の適用放射線はガンマ線、電子線、及びX線であり、適用内容には各種線量計(液体、固体高分子、ESR、熱蛍光等の線量計、熱量計、照射インディケータ等)の使用に関するもの以外に、照射・校正施設における線量特性評価、照射技術、品質管理等に関するもの、特定プロセス(食品照射、不妊化放飼、血液照射等)の照射技術、及び品質管理線量計測を含む包括的な管理プロセスが含まれている。これらのうち、ISO/ASTM51650(三酢酸セルロース線量計システムの使用)はわが国の主導によって制定された規格であり、現在わが国のみで製造されている透明フィルムの放射線照射による近紫外線の吸光度変化を計る線量計に関するものである。
 放射線照射を利用する医療機器滅菌や食品加工では吸収線量値が法規制の対象とされているため、線量の測定結果に対する国家あるいは国際標準へのトレーサビリティが必要である。照射製品の品質保証の拠り所となるわが国の放射線計量に関するトレーサビリティは、低線量域を対象とする放射線防護の分野では認定事業の形態で制度化が広がりつつあるが、こうした照射製品の品質保証の拠り所となる高線量域の工業レベルに関してまだ制度化されていないため、英米等の国際標準にその大部分を依存しているのが現状である。しかし、60Coガンマ線については、品質保証の基準を与える吸収線量計測のためにアラニン線量計測装置を標準器として位置付け得ること、工業レベル線量域へ校正範囲を拡張できること、ユーザー照射場における線量測定結果に関する証明書の発行可能であることなどを通して、線量標準供給の認定事業化の課題も解決の見通しが得られており、今後の認定事業化への積極的な取り組みが期待されている(原論文3)。
 アラニン線量計測装置については、ISO/ASTM51607「アラニン−ESR線量計システムの使用」との整合性に配慮した工業標準規格(原論文4)が平成13年に制定された、

コメント    :
 放射線加工における線量計測に基づく工程/品質管理については、今後国際規格内容の国内版(翻訳、JIS化)の普及及び普及活動のために必要な組織、人材等の国内基盤の整備が課題である。このことによって線量計測技術の継承及びさらなる発展が可能となる。
工業レベルの放射線計量に関するトレーサビリティ制度化については、安定な線量校正事業を前提とした認定事業者の申請、60Coガンマ線のみでなく電子・X線量のトレーサビリティシステム整備、さらには、線量計測技術者の人材確保の持続性確保が必要である。 特に、食品安全性の観点から重要な役割をもつと考えられる食品照射技術の認知度向上のためには、規格・基準へのコンプライアンス及び技術の透明性を重視した社会的な安全・安心が強く求められる。

原論文1 Data source 1:
Standards on Dosimetry for Radiation Processing, (2002)
ASTM International, 100 Barr Harbor Drive, PO BOX C700, West Conshohocken, PA 19428-2959


原論文2 Data source 2:
医療用品の滅菌方法/滅菌バリデーション/滅菌保証 ISO11137翻訳版
古橋正吉(監修)
(財)日本規格協会


原論文3 Data source 3:
工業レベル線量トレーサビリティ検討委員会報告書(平成15年9月)
(財)放射線利用振興協会


原論文4 Data source 4:
日本工業標準規格JIS Z 4571「アラニン線量計測装置」(2001)
(財)日本規格協会


キーワード:放射線加工、線量計測、線量計、国際規格、国内規格、ガンマ線、電子線、照射施設、ISO、JIS、医療機器、放射線滅菌、食品照射、品質管理、品質保証、アラニン線量計、線量標準、トレーサビリティ
radiation processing, dosimetry, dosimeter, international standard, national standard, gamma rays, electron beam, irradiation facility, ISO, JIS, medical device, radiation sterilization, food irradiation, quality control, quality assurance, alanine dosimeter, dosimetry standard, traceability
分類コード:040302, 040305, 040104, 040102

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