電子・陽電子衝突型および電子・陽子衝突型加速器

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作成： 2004/11/17 山内良麿データ番号　　　：040295 電子・陽電子衝突型および電子・陽子衝突型加速器目的　　　　　　：素粒子物理学研究のための電子・陽電子衝突型および電子・陽子衝突型加速器の利用放射線の種別　　：電子,陽電子,陽子,中間子放射線源　　　　：電子・陽電子衝突型加速器(3.1～209GeV)、電子・陽子衝突型加速器（電子30GeV,　陽子920GeV）利用施設名　　　：CERN(LEP), SLAC(SPEAR, PEP, SLC, PEPⅡ), DESY-Hamburg(DORIS, PETRA, HERA), KEK(KEKB) 照射条件　　　　：真空中応用分野　　　　：素粒子物理、核物理、宇宙物理、加速器物理、放射線計測概要　　　　　　：　素粒子の性質と素粒子の間に働く力の徹底的解明に向けて、CERNでは世界最大のe⁺e^-コライダーLEPを用いて、標準模型の検証、新素粒子の探索等が行われた。SLACではe⁺e^-コライダーによるe⁺e^-衝突実験を行っている。DESYではe⁺e^-コライダーを用いた実験が行われた。さらに　HERAによる電子または陽電子と陽子との衝突実験を行っている。日本のKEKではKEKBによるB中間子の実験を行っている。詳細説明　　　　：　現在、宇宙は3世代の素粒子（各世代には2種類のクォークと2種類のレプトンが属する）と素粒子の間に働く力を伝える粒子から成り立っていると考えられている。これらの素粒子の振舞いを記述するのが標準模型である。この標準模型を検証し、さらに物理法則に対するより深い理解を得るために、大規模な高エネルギー加速器を用いた実験的研究が精力的に進められている。　陽電子(e⁺)と電子(e^-)は内部構造を持たない素粒子である。e⁺e^-衝突実験は反応の始状態と終状態がはっきり押さえられるので精密な測定に適しており、新現象の探索でもクォークの複合粒子である陽子等を用いる実験より有利である。　　世界最大のe⁺e^- コライダーLEP (Large Electron Positron collider) がヨーロッパ合同素粒子研究所CERNに設置され、1989年7月からビーム加速を開始した（図１）。LEPは周長27kmの円形加速器の中でe⁺とe^-を逆向きに周回させ、正面衝突させる装置である。衝突エネルギーは209GeVである。コライダー中の４カ所に置かれた測定器の中心で正面衝突させる。LEP入射器の初段は200MeV電子ライナックである。その e^- ビームがタングステンターゲット中でe⁺を発生させる。e^- および e⁺ ビームは第２の600MeVライナック、3.5GeV 陽子シンクロトロン(PS)、と22GeV スーパー陽子シンクロトロン(SPS)で加速され、LEPに導かれる。　LEPではレプトン間に働く力を伝える粒子の精密実験、対生成の観測を行い、LEPのエネルギー領域までは標準模型が正確に成り立っていることを確かめた。さらに新素粒子の発見や現在の理論では理解できない新現象の探索を行った。この探索にはLEPのエネルギーが不足していることからLEPは2001年に運転を終了し、実験研究はハドロンコライダーLHCに引き継がれることになった。LHCはLEPでは手の届かない新素粒子の発見とその研究を期待されている。図1　Layout of the LEP ring on the border of France and Switzerland. The eight access points are denoted IP1-8. The four LEP experiments L3, ALEPH, OPAL and DELPHI are installed at the even numbered access points. Positrons travel clockwise, electrons anticlockwise from points 1 to 8. The location of two LEP injectors, the SPS(Super Proton Synchrotron) and the PS(Proton Synchrotron), is also indicated. （原論文1より引用。　Reprinted by permission of the Institute of Physics Publishing from: D. Brandt, H. Burkhardt, M. Lamont, S. Myers and J. Wenninger. Accelerator physics at LEP. Reports on Progress in Physics, 63, 939-1000 (2000). Figure 1）　SLAC (Stanford Linear Accelerator Center) では1972年にSPEAR (Stanford Positron Electron Accelerating Ring) が設置された（図２）。SPEARは直径80mのストレージリングで、e^-とe⁺が互いに逆向きにエネルギー4GeVで回る。入射器は2マイルライナックである。SLACのRichterがJ/Ψ粒子（すなわちチャームクォーク）の発見で1976年、Perlがτ粒子の発見で1995年、それぞれノーベル物理学賞を受賞している。SPEARは1990年から放射光研究に使用されている。50GeVビームが得られるe⁺e^-リニアコライダーSLC (Stanford Linear Collider) が1989年に完成した。SLCの特徴は偏極電子ビームを利用できることで、この偏極電子ビームを使って素粒子間に働く力を伝える粒子の生成とその崩壊データの収集を続けている。　今後、物質の構造と宇宙の起源に関する物理法則の全体像を解明するためにノイズの少ない実験環境が必要で、SLACは、より高エネルギー領域の物理を目指して、0.5TeV～1.5TeVのNLC(Next Linear Collider)を計画している。図2　Layout of the PEPⅡ facility.（参考資料1より引用）　DESY (Deutches Elektronen-Synchrotron) 研究所は Hamburgに所在する素粒子の実験研究の先駆的研究センターの１つである。1974年e^-とe⁺を共に 4.5GeV に加速するDORIS (Double Ring Store)で e+e-衝突実験を開始した。1978年には12GeV PETRA(Positron-Electron Tandem Ring Accelerator)によるe⁺e^-衝突実験がスタートし、1979年に素粒子の間に働く力を伝える粒子の１つであるグルーオンを初めて観測した。1990年にはライナックとシンクロトロンを前段加速器とする電子・陽子衝突型加速器HERA (Hadron Electron Ring Accelerator)が稼動を開始した(図３)。e⁺とe^-のエネルギーは共に30GeVであり、陽子(p)エネルギーは920GeVである。e^-p またはe⁺p 衝突実験が行われて、陽子の内部構造や重いクォークの研究等による標準模型の検証が進められている。DORISとPETRAは現在放射光施設に活用されている。ヨーロッパにおける次期e⁺e^-コライダーとして、新しい加速器プロジェクトTESLA (TeV-Energy Superconducting Linear Accelerator) がDESYを中心に、国際協力のもとで、計画されている。0.5TeV以上のエネルギーを持つ長さ33kmにおよぶ巨大なe+e- リニアコライダーになる予定である。図3　The DESY preaccelerators, storage rings and linear accelerators.（参考資料2より引用）　日本では、高エネルギー加速器研究機構 (KEK) にe+e-衝突型加速器 (KEKB) が設置されている。KEKBは入射器としての長さ約650mの電子・陽電子ライナックと　周長がそれぞれ約3kmの２つのストレージリングLER、HERから成り立っている。陽電子と電子の加速エネルギーはそれぞれ3.5GeVと8GeVである。KEKではKEKBを用いてB中間子に関する実験を行っている。コメント　　　　：　素粒子の種類、素粒子の間に働く力、素粒子の質量、宇宙の起源等について、より深い理解を得るために大規模加速器を用いた実験的研究が現在進められている。得られた素粒子物理学の成果は、核物理学や宇宙物理学等他の科学分野の進展をもたらすと共に、超伝導技術、材料技術、加速器技術、放射線計測技術など先端技術の発展を促し、今後広範囲の応用に結びつくと考えられる。さらに新素粒子の発見や現在の理論では理解できない新現象の探索に向かって、巨大e⁺e^-リニアコライダーの建設が計画されており、画期的成果が期待される。原論文１ Data source 1： Accelerator physics at LEP D. Brandt, H. Burkhardt, M. Lamont, S. Myers and J. Wenninger CERN, Switzerland Rep. Prog. Phys., 63, 939-1000 (2000) 原論文２ Data source 2： The design, construction and commissioning of the CERN Large Electron-Positron collider S. Myers and E. Picasso CERN, Switzerland Contemporary Physics, 31, 387-403 (1990) 原論文３ Data source 3： LEPの収穫　最高エネルギー電子・陽電子衝突実験の成果川本辰男東京大学日本物理学会誌，57, 246-257 (2002) 原論文４ Data source 4：次世代e⁺e^- 加速器とトップ・クォークの物理隅野行成東北大学日本物理学会誌，57, 719-727 (2002) 原論文５ Data source 5： LEPは素粒子物理をどう変えたか森　俊則東京大学日本物理学会誌、50, 441-447 (1995) 原論文６ Data source 6： KEKB加速器生出勝宣高エネルギー加速器研究機構日本物理学会誌、58, 662-669 (2003) 参考資料１ Reference 1： EXPERIMENTS, The SPEAR Storage Ring Stanford University http://www2.slac.stanford.edu/vvc/experiments/spear.html 参考資料２ Reference 2： The DESY preaccelerators, storage rings and linear accelerators Deutsches Elektronen-Synchrotron http://www.desy.de/pr-info/desyhome/html/presse/fotos/desy/index.en.html 参考資料３ Reference 3： Linear Collider Physics Resource Book for Snowmass T. Abe, et al American Linear Collider Working Group Collaboration Proc. APS/DPF/DPB Summer Study on the Future of Particle Physics, Snowmass, 2001, ed R. Davidson and C. Quigg, SLAC-R-570 (http://www.slac.stanford.edu/pubs/slacreports/slac-r-570.html) 参考資料４ Reference 4： Physics at an e⁺e^- Linear Collider A. Aguilar-Saavedra, et al ECFA/DESY LC Physics Working Group Collaboration TESLA Technical Design Report Part Ⅲ, hep-ph/0106315 (2001) (http://es.arxiv.org/PS_cache/hep-ph/pdf/0106/0106315.pdf) キーワード：電子、陽電子、陽子、衝突型加速器、CERN, LEP, SLAC, DESY electron, positron, proton, collider, synchrotron radiation research, Conseil Europeen pour la Recherche Nucleaire, Large Electron Positron collider, Stanford Linear Accelerator Center, Deutches Elektronen-Synchrotron 分類コード：040102, 040301, 040302
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