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作成: 2004/11/28 山内良麿

データ番号   :040294
RIビームの生成と利用
目的      :核破砕反応による不安定核ビームを用いた核物理、固体物理等の研究とその応用
放射線の種別  :ベータ線, 電子, 軽イオン、重イオン
放射線源    :重イオンシンクロトロン(4.5GeV/u), 超伝導リングサイクロトロン(400MeV/u)
利用施設名   :GSI重イオンシンクロトロン、理研RIビームファクトリー
照射条件    :真空中
応用分野    :核物理、宇宙物理、固体物理、生物・医学、加速器技術

概要      :
 ドイツ重イオン科学研究所 (GSI) では 重イオンシンクロトロンからの相対論的エネルギーのビームを用いて核破砕片分離器によるRIビームの生成分離が行われ、核物理の研究から広い分野の応用にまで利用されている。理化学研究所では超伝導リングサイクロトロンと核破砕片分離器からなる世界最強のRIビームファクトリーが建設中である。

詳細説明    :
 不安定核はベータ崩壊、核分裂等で自然崩壊する原子核であり、現在その存在が確認されている核の数は2,000種余りになる。近年、不安定核をビームとして扱うRIビーム(radioactive ion beam) の生成分離技術が発展した結果、核物理、宇宙物理、固体物理、生物・医学等の広い分野にわたって不安定核に関する測定が飛躍的に増大した。これまで、原子核として存在できるか否かの境界線であるドリップ線近傍の短寿命核に関する相互作用断面積の測定が行われて、短寿命核の構造が次第に明らかになってきた。宇宙物理では白色ワイ星や中性子星で起こっている陽子燃焼過程や超新星での中性子吸収過程における不安定核の役割が調べられている。固体物理では不安定核を物質中に注入する手法等により、物質内部の性質の研究が進められている。高いエネルギーのRIビーム生成には、比較的軽い重イオンのための核破砕反応による方法と非常に重い重イオンのための核分裂反応による方法があるが、ここでは、核破砕反応によりRIビームを生成している典型的な実験施設について解説する。
 
 相対論的エネルギーのRIビームが利用できる核破砕片分離器 FRS (Fragment Separator) がドイツ重イオン科学研究所 (GSI) のSIS (SchwerIonen Synchrotron)、ESR(Experimental Storage and cooler Ring) 加速器施設に設置されている。SISは水素からウランまで全てのイオンを1-4.5GeV/uのエネルギーで加速できる。FRSは、2次のRIビームの生成分離、反応生成物の粒子識別を行う。FRSの入り口にターゲットを置き、ここにSISからの重イオンビームを照射する。入射核破砕反応によって、RIビームが2次ビームとしてつくられる。核反応用ターゲットは中間焦点におかれ、ここでRIビームを使って目的の核反応を起こさせる。反応生成物は最終焦点面に導かれて、粒子識別が行われる。核反応用ターゲットに入射するRIビームと核反応後の反応生成物の粒子識別にはBρ-ΔE-TOF法を用いる。Bρは荷電粒子の磁場中での曲がりにくさを表す量で、磁束密度Bと磁場中での荷電粒子の曲率半径ρの積である。ΔEは荷電粒子の物質中でのエネルギー損失、TOFは飛行時間を表す。粒子の質量数をA、原子番号をZ、電荷量をQ、速度をv, エネルギーをE とするとTOF∝1/v, Bρ∝Av/Q, ΔE∝Z2/v2, E∝Av2 のような比例関係になる。各焦点面に必要な検出器を置き、通過粒子に対してこれらの量を測定することにより A, Z および Q が決定できる。軽い入射核破砕片の場合、Qは原子番号Zと同じであると考えてよい。RIビームの生成分離、反応生成物の検出法はどの重イオン加速器施設でも大略同じである。図1にFRSのRIビーム分離の原理を示す(degraderはΔE検出器)。


図1 The isotopic separation principle of the FRS, illustrated by measured fragment distributions produced by 40Ar projectiles. The goal of this experiment was to separate and implant 18F ions.
(原論文1より引用。 Reprinted by permission of Elsevier from: H. Geissel et al. The GSI projectile fragment separator (FRS): a versatile magnetic system for relativistic heavy ions. Nucl. Instr. and Meth., B70, 286-297 (1992). Figure 7)

 理化学研究所では、RIビームファクトリーと呼ばれる世界で トップクラスのRIビーム施設の建設が進められていて、計画の第1期では3基の重イオン加速用リングサイクロトロンと核破砕片分離器BigRIPSか建造中である。この系では3基の加速器をカスケードにして、軽イオンを440MeV/u, 非常に重いイオンを350MeV/uまで加速できる。重イオンビームは入射核破砕反応 または ウランイオンの飛行中の核分裂反応を経てRIビームに変換される。理研では2006年度中にRIビームの発生を予定している。これらの重イオン加速器とBigRIPSの組み合わせは核物理等の研究をこれまで到達できなかった領域まで拡張することになる。第2期計画でつくられる実験装置類については、2004年度に行われる国際的な学術評価の結果をもとにして、建設に着手することになっている。検討中の実験装置としては、0°方向スペクトロメータ、大立体角スペクトロメータ等がある。これらの装置を開発・整備して、核構造のより深い理解や元素の起源解明の研究等を進めることになっている。図2に計画中のRIビーム施設の概略を示す。


図2 RIビームファクトリー計画(参考資料2より引用)



コメント    :
 RIビームの生成分離技術の進歩は、利用可能な核種を拡大させ、核反応等の系統的研究の可能性に道を開いた。GSIは、ローレンスバークレー研究所のBevalac のシャットダウン後、相対論的エネルギーのRIビームを供給できる唯一の施設であり、研究分野への貢献度は高い。しかし、現在もっとも進んでいると思われるGSIのFRSも、実験が高度化するにつれてRIビームの分離性能が十分とはいえなくなった。理化学研究所で建設中のRIビームファクトリーではRIの分離能力は格段に向上するようデザインされており、この施設の早期完成が待たれる。

原論文1 Data source 1:
The GSI projectile fragment separator (FRS): a versatile magnetic
system for relativistic heavy ions
H. Geissel* et al
*Gesellschaft fur Schwerionenforschung (GSI), Germany
(GSIのメンバーにTH Darmstadt,University of Giessen/Germany,CEN/France,大阪大学,Los Alamos National Laboratory/USA,NSCL/USAが加わっている)
Nucl. Instr. and Meth., B70, 286-297 (1992)

原論文2 Data source 2:
RI Beam Factory Project
I. Tanihata
RIKEN, Japan
Nucl. Phys., A616, 56c-68c (1997)

原論文3 Data source 3:
注目される不安定核ビームの利用
谷畑勇夫
理化学研究所
日本物理学会誌,49, 433-439 (1994)

原論文4 Data source 4:
相互作用断面積から探る不安定核の核構造
小沢 顕、鈴木 健、谷畑勇夫
理化学研究所、新潟大学
日本物理学会誌,57, 90-100 (2002)

参考資料1 Reference 1:
中性子ドリップ線近傍の新同位元素の発見
櫻井博儀
理化学研究所
日本物理学会誌,53, 41-44 (1998)

参考資料2 Reference 2:
重イオン加速器科学研究プログラム
理化学研究所
http://www.rarf.riken.jp/index-j.html

キーワード:RI ビーム、相対論的重イオンビーム、核破砕片分離器、ドイツ重イオン科学研究所、理研、RIビームファクトリー、核反応生成物分離、粒子識別
radioactive ion beam, relativistic heavy ion beam, fragment separator, GSI, RIKEN, Radioactive Ion Beam Factory, separation of nuclear reaction products, particle identification
分類コード:040101, 040102, 040106

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