放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 2003/11/16 松村 宏

データ番号   :040290
日本の加速器質量分析
目的      :日本の加速器質量分析の紹介
放射線の種別  :軽イオン,重イオン
放射線源    :タンデム型加速器
利用施設名   :京都大学,東京大学,名古屋大学,国立環境研究所,核燃料サイクル開発機構東濃地科学センター,日本原子力研究所むつ事業所,筑波大学,九州大学,加速器分析研究所
照射条件    :真空中
応用分野    :地球科学,生物学,考古学,宇宙科学,核物理学

概要      :
 日本での加速器質量分析(AMS)の発展は,1977年にAMS法の提案があった直後の1980年に始まった。2003年現在,日本には9つのAMS施設があり,それぞれの施設の特徴を生かして様々な研究分野に応用されている。

詳細説明    :
 1977年Mullerによって提案された加速器質量分析(AMS)法は,長半減期の放射性核種の測定法として,従来の放射能測定に比べて桁違いに高感度であった。AMS法によるC-14(半減期:5730年)やBe-10(半減期:1.5×106年)などの長半減期核種の高感度測定は,地球科学,生物学,考古学,宇宙科学,核物理学,農学等様々な研究分野での利用需要が存在し,応用分野の要望に応じて発展してきた。世界中でAMS装置が作られ,現在も発展を続けている。1999年時点で,世界には50以上ものAMS施設が作られ,19以上の核種の測定が試みられている。日本では,2003年現在で9つのAMS施設(1施設は商用)があり,世界でも有数のAMS施設保有国である。ここでは,日本のAMS研究の発展の歴史をまとめ(原論文1),その研究の中心施設のひとつである東京大学のAMS施設を中心に現状を紹介する(原論文2,3)。
 日本でのAMS研究は,図1に示されるように,京都大学,東京大学において,原子核物理実験に用いられてきた,既存の中規模のタンデム加速器を改造することにより推進された。東京大学では1980年代初頭には天然レベルのBe-10測定が出来るようになった。名古屋大学ではAMS専用の加速器システムを導入し,C-14の測定を行ってきた。1990年代後半には,従来のAMS専用機よりも性能が格段に良くなった第2世代とでも言うべきAMS専用機が国立環境研究所,核燃料サイクル機構東濃地科学研究所,名古屋大学,日本原子力研究所むつ事業所に導入されており,既に稼動を開始している。筑波大学,京都大学,九州大学などでは既設のタンデム加速器を改造してAMSを行っている。


図1 日本のAMS研究の発展の歴史。測定可能核種とタンデム型加速器のターミナル電圧とともに示した。(原論文1より引用。アップデートを行った。)(原論文1より引用)

 C-14の測定以外にも,各施設のタンデム型加速器のターミナル電圧に応じて,様々な核種が測定できるようになっている。例えば,筑波大学では,AMS施設としては世界最大級の高電圧の特徴を生かせるCl-36に重きを置き,dE-SSDE検出器の開発で感度1×10-14を達成している(図2(a))。


図2 Cl-36のdE-Eカウンタースペクトル。(a)筑波大学AMS,Cl-36/Cl=4.47×10-11,(b)東京大学AMS,Cl-36/Cl=7.54×10-11

 また,東京大学では,タンデム型加速器としては中庸である5MVであるが,現在,Be-7,Be-10,C-14,Al-26,Cl-36,I-129が測定可能であり,日本で最多核種の測定が出来る。東京大学AMSのパフォーマンスを表1に示す。同じ加速器で様々な核種を測定可能にしているのは,その粒子識別法を目的核種に対して適切に選択することによる。AMSにおいては特に検出部までほぼ同じ軌道で到達する天然存在の同重体との識別が重要である。Be-10とAl-26は,1998年に開発されたdE-Eガスカウンターにより,妨害核種のB-10等と分離し,バックグランドレベルがBe-10/Be-9=7×10-15,Al-26/Al-27<1×10-15を実現している。Be-7は,加速後にカーボンフォイルによるセカンドストリッパーを設けて電子をフルストリップすることで原子番号の小さいLi-7との軌道を分けて測定することが出来た。ほぼバックグランド0の測定が可能で,測定時間次第ではBe-7/Be-9=10-16を切ることも期待できる。Cl-36は,ターミナル電圧が5MVと低く,筑波大学AMSのように加速エネルギーが高く出来ないため,エネルギーロスの差だけではS-36との識別が不十分である。ガス・フィルド・マグネット中に加速粒子を通し,Cl-36とS-36の平衡電荷の違いによる粒子軌道の違いを利用した空間分離を組み合わせた測定で識別が可能になった(図2(b))。また,I-129は,飛行時間法の導入により,実用測定が可能になった。以上のように目的核種により適切な検出器系を開発し,ユーザの希望にこたえてきた。現在はNi-59,Ca-41,Si-32等が開発途上にある。

表1 2003年7月現在の東京大学AMSシステムのパフォーマンス。(原論文3より引用。 著者とのプライベートコミュニケーションにより最新データに更新したものです。)

MALT-AMS Performance(2003.7現在)

核種 半減期 化学形態 入射イオン 加速電圧
(MV)
電荷 入射法 粒子識別法
ECA+
最小検出感度
(X*/X)
再現性(精度)
(±%)
7Be 53.3d BeO BeO- 4.5 3+→4+ SIM GC <1×10-16 3
10Be 1.5×106y BeO BeO- 4.5 3+ IBMM GC 7×10-15 0.5-3.0
14C 5,730y グラファイト C- 4.5 4+ SIM H-SSD 3×10-16 0.5-1.0
26Al 7.1×105y Al2O3 Al- 4.3 3+ SIM GC <1×10-15 1.0-3.0
36Cl 3.0×105y AgCl Cl- 5.0 7+ SIM GFM 1×10-14 5
129I 1.57×107y AgI I- 4.0 7+ SIM GC 3×10-14 1.0-3.0

*IBMN:Internal Beam Monitor Method

*SIM:Sequential Injection Method

**ECA:Electrostatic Cylindrical Analyzer

**H-SSD:Havar foil+SSD

**GC:Gas Counter,ΔE-E

**TOF:Time Of Flight+SSD

**GFM:Gas Filled Magnet

**IPIXE:Inverse PIXE(projectile X-ray)



コメント    :
AMSの測定法は,今なお発展を続けている。測定可能核種はユーザの需要次第で今後も増加してゆくであろう。最近,世界では,特にテーブルトップタイプ等の小型化への開発研究が盛んで,今後は汎用化していくことが期待される。

原論文1 Data source 1:
日本で開催される2002年第9回加速器質量分析国際会議に向けて
中村俊夫,小林紘一
名古屋大学,東京大学
第3回AMSシンポジウム報告集, pp.159-165 (2001)

原論文2 Data source 2:
筑波大学AMSの現状と測定
長島泰夫,関李紀,新井大輔,高橋努,久米博
筑波大学
第3回AMSシンポジウム報告集, pp.37-41 (2001)

原論文3 Data source 3:
東京大学MALT-AMSの現状
松崎浩之,小林紘一,中野忠一郎,春原陽子,山下博,堀内一穂
東京大学
第3回AMSシンポジウム報告集, pp.1-12 (2001)

参考資料1 Reference 1:
Accelerator mass spectrometry
Editors:W.Kutschera,R.Golser,A.Priller,B.Strohmaier
Univ. of Vienna, Austria
Proceedings of the Eighth International Conference on Accelerator Mass Spectrometry, Palais Auerperg, Vienna, Austria, 6-10 September, pp.1-956

キーワード:加速器質量分析,日本,長半減期,放射性核種,タンデム型加速器,ガスカウンター,ガス・フィルド・マグネット,同重体
accelerator mass spectrometry, Japan, long half-life, radionuclide, tandem accelerator, gas counter, gass filled magnet, isobar
分類コード:040405

放射線利用技術データベースのメインページへ