筑波大学方式による静電加速器質量分析システム

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作成： 2004/02/16 長島泰夫データ番号　　　：040289 筑波大学方式による静電加速器質量分析システム目的　　　　　　：大型タンデム静電加速器による重イオンAMSシステムの開発と応用放射線の種別　　：重イオン放射線源　　　　：タンデム静電加速器（12MV)、スッパタリングイオン源利用施設名　　　：筑波大学研究基盤総合センター応用加速器部門照射条件　　　　：真空中応用分野　　　　：環境科学、年代測定、医療検査、医学応用、核科学概要　　　　　　：　筑波大学独自で開発された分子パイロットビーム法と呼ばれるシステムは、スッパタリング負イオン源ーペレトロン12UD静電加速器（12MV)ー粒子分析系ー粒子検出器より構成されている。分子パイロットビーム法により、従来からの核物理実験も行いながら、高精度AMS測定を行うことができ、塩素36、アルミニウム26等の測定が行われている。詳細説明　　　　：　原子を一個一個直接計測する加速器質量分析法（AMS)は、その極めて高い測定感度に特長を有し、従来測定困難であった極微量に存在する長半減期放射性同位元素（ベリリウム10、炭素14、アルミニウム26、塩素36、カルシウム41、ヨウ素129等）の分析を可能とする分析法である。炭素14等比較的軽い元素のAMSは小型の静電加速器で実現されており、特に炭素14測定では1～2MV程度の小型の静電加速器による専用AMSシステムが開発され、商業化されている。一方、塩素36（³⁶Cl）等比較的重い元素のAMSでは、測定の妨害となる同重体の分離には、原子を高エネルギーに加速することが有利であるため、10MV以上の加速電圧を発生できる大型の静電加速器が用いられている。　筑波大学の静電加速器は加速電圧が12MVで、塩素36等の重い元素のAMSに適しているが、もともと原子核物理実験用に建設され、現在も原子核の研究に用いられているため、AMS専用にすることはできない。そこで、従来から続いている実験研究と並行して行えるよう、分子パイロットビーム法という独創的な手法に基ずくAMSが開発され、³⁶Cl等の重い元素のAMS測定が可能となった。図1　Outline of the Tsukuba AMS system for ³⁶Cl measurement. Both ³⁶Cl^- and ¹²C₃^- are created simultaneously in the ion source and ³⁶Cl¹³⁺ ions are counted with the ⊿E-E detector. The main part of ¹²C pilot beam is deflected from the main beam behind the second stripper foil.（原論文3より引用）　図１に筑波大学における分子パイロットビーム法によるAMSの概要を示した。³⁶Cl測定を例に方式の説明をする。分子パイロットビーム法とは、目的同位元素³⁶Clとほぼ同じ質量の炭素12の3分子（¹²C₃)ビーム（パイロットビーム）を静電加速器で同時に加速して、加速電圧を精密に制御したうえで、³⁶Cl測定用に調整されたエネルギー及び運動量分析装置を組み合わせて³⁶Cl超高感度に検出・測定する方法である。炭素（主に¹²C）を適当量混合した塩化銀（AgCl）試料を装着したスパッタリングイオン源で³⁶Cl^-負イオンと¹²C₃^-負イオン分子を一緒に生成させ、加速器に入射・加速する。³⁶Cl^-負イオンは第一荷電変換膜によりClⁿ⁺（n=1～17）の正イオンに、また¹²C₃^-分子イオンは第一荷電変換膜を通過する時に¹²C単体に完全分解されると共にC^m⁺正イオン（m=1～6)に変換される。これらの加速された正イオンは分析電磁石により分析されるが、このとき³⁶Cl⁹⁺イオンを分析するように分析電磁石を設定すると、³⁶Cl⁹^＋とほぼ同じ磁気的硬さ（質量をm、エネルギーをE、電荷をqとすると、mE/q²）を持つ¹²C³^＋も同様に分析される。そこで、十分な電流強度の¹²C³⁺を用いて加速電圧を安定化させるための負帰還制御を行いつつ³⁶Cl⁹⁺と¹²C³⁺を粒子分析系に導く。粒子分析系入り口に設置された第二荷電変換膜で³⁶Cl⁹⁺と¹²C³⁺の荷電状態を変化させ³⁶Cl¹³⁺のみを選別するように静電偏向器（エネルギー分析）と２極電磁石（運動量分析）を設定することで測定の妨害となる¹²C³⁺を除外している。最終的には粒子識別型粒子検出器によりやはり測定の妨害となる³⁶Clの同重体である³⁶S¹³⁺を分離し、³⁶Cl¹³⁺のみを検出している。図2　⊿E versus E-⊿E scatter plot. The 90MeV ³⁶Cl ions lose their energy in the entrance window of Kapton of the ⊿-E detector. The energy loss is estimated to be about 20MeV.（原論文3より引用）　約1mgの試料量（AgCl)で測定が可能であり、³⁶Cl/Cl比で10^-¹¹の試料の場合、およそ10分間の測定で十分な精度（統計精度１％）が得られている。図２に粒子検出器により検出された³⁶Clの例を示す。縦軸に部分エネルギー損失量、横軸に残留エネルギー量を取った２次元表示において、³⁶Clが妨害粒子の³⁶Sと完全に分離識別されている。測定感度は³⁶Cl/Cl比で１×10^-¹⁴の超高感度が実現されており、環境試料等種々の試料中の極微量な³⁶Clが定量されている。コメント　　　　：　筑波大独自の分子イオンパイロットビーム法は、既存の加速器システムに改造を加えることなく、³⁶Cl,²⁶Al等の中重同位元素のAMS測定を実現させるものであり、¹²⁹Iや²³⁶U等さらに重い同位元素のAMS測定に適用するため、現在開発が進められている。原論文１ Data source 1： AMS studies at the University of Tsukuba Y. Nagashima, R. Seki, T. Baba, N. Funaya, N. Miyazaki, T. Takahashi, T.Kaikura, T.Aoki, K.Furuno, O.Hara^*, F.Koike^* AMS group, Tandem Accelerator Center, University of Tsukuba ^*Kogen Shokuhin LTD, Nasukurohane, Tochigi, Japan Nuclear Instruments and Methods A 382, 321-326 (1996) 原論文２ Data source 2： Detection of ⁴¹Ca with a ⁷Li³⁷Cl molecular pilot beam T. Baba, N. Funaya, N. Miyazaki, T. Takahashi, T. Kaikura, R. Seki, S. Sueno, S. Jiang, Y. Nagashima AMS group, Tandem Accelerator Center, University of Tsukuba Nuclear Instruments and Methods B 123, 183-185 (1997) 原論文３ Data source 3： Status of the ³⁶Cl AMS system at the University of Tsukuba Y.Nagashima, R.Seki, T.Takahashi, D.Arai AMS group, Tandem Accelerator Center, University of Tsukuba Nuclear Instruments and Methods B 172, 129-133 (2000) 参考資料１ Reference 1： Development of a gas ⊿E-position senseitive E detector for AMS studies N.Funaya, T.Baba, N.Miyazaki, T.Takahashi, T.Kaikura, R.Seki, S.Sueno, S.Jiang, Y.Nagashima AMS group, Tandem Accelerator Center, University of Tsukuba Nuclear Instruments and Methods B 123, 174-177 (1997) 参考資料２ Reference 2： Determination of ³⁶Cl in environmental samples collected in the JCO by AMS R.Seki^a,b), D.Araib), Y.Nagashima^b⁾, T.Imamura^c⁾, T.Takahashi^b⁾, T.Matsuhiro^b⁾ ^a⁾Department of Chemistry, University of Tsukuba ^b⁾AMS group, Tandem Accelerator Center, University of Tsukuba ^c⁾Research Reactor Institute, Kyoto University Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry, 255, 245-247 (2003) キーワード：タンデム静電加速器、重イオン、質量分析、年代測定、環境研究、医学応用、塩素36、アルミニウム26、ヨウ素129、超高感度分析、スパッタリングイオン源、元素分析 electrostatic tandem accelerator, heavy ion, mass analysis, dating, enviromental stydy, medical application, ³⁶Cl, ²⁶Al, ¹²⁹I, ultra high sensitivitic analysis, sputtering ion source, element analysis 分類コード：040405
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