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作成: 2005/12/26 富永 洋、五味 邦博

データ番号   :040285
RI線源の利用
目的      :RI利用技術の全般的分類と国内の利用実態概要紹介
放射線の種別  :エックス線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、陽電子、中性子  
放射線源    :種々のRI線源(非密封を含む)
利用施設名   :日本国内の各種産業、研究機関、病院など
応用分野    :理工学、農生物学、鉱工業、医療など

概要      :
 自然に存在するRI自体の計測から、人工的に調製したかなりの量のCo-60(600万キュリー)γ線源利用まで、広範囲のRI利用に関し技術的分類について述べ、国内における最近のRI利用実態の概要を紹介した。

詳細説明    :
1. はじめに―RI線源の利用形態分類
 RI(radioisotope の略、放射性同位元素)は、地球の誕生以来自然界にも存在し、それぞれ固有の半減期をもって減衰しながら電離放射線を出すという特徴を有するので、自然にあるがままのRIを利用する年代測定や地層探査、資源探査、選鉱工程管理などが、早くから試みられてきた[原論文1]。しかしRIのもつ特徴を一層効果的に活かし用いるには、人工的に加速器や原子炉における核反応を利用して、より純粋なRIをその利用に適した量だけ作る必要があった。放射線源としてのRIは、今日広い意味の原子力利用の一環として、産業界や臨床医療のみならず、多くの科学技術分野にわたって広く用いられている。
 RI利用の形態は次のように大別できる。1)ミクロな放射線源であるRIを非密封のまま、物質移動の追跡子(トレーサ)あるいは分布計測(イメージング)の手段に用いるもの(RI自体の計測)、2)密封線源から取り出した放射線と物質との相互作用を計測することで、物質に関する何らかの情報を検知評価する計測利用(通常の放射線応用計測)、3)相互作用による情報は問題にせず、放射線のエネルギーが物質に及ぼす作用効果(物理的、化学的および生物学的効果)を利用する照射効果利用(略して照射利用)の三つである。
 冒頭に述べた自然界RIの利用を含め、上記1)と2)が広義の放射線計測利用であり、一般に比較的微弱な放射線が取り扱われる。それらをまとめて分類表示したものが表1である[原論文1]。他方、上記3)の照射利用では、物質に明らかに現れる効果が必要であるため、使用される放射線量はかなり大きくなることが多い。照射利用を技術別に分類したものを表2に[原論文2]、また、日本国内でのRI密封線源利用の実態を分類表示したものを表3に示す[日本アイソトープ協会の資料による]。

表1  RIおよび放射線の計測利用分類(原論文1より引用)
利用原理・方法 計測技術名 応用例など(理工学利用)
RI自体の計測 放射性壊変の利用 核種比測定 放射能測定、加速器質量分析 C-14法など放射性年代測定
自然γ線測定 γ線スペクトロメトリ等 地層探査、資源探査、選鉱
ミクロ信号源としての利用 RI追跡測定  トレーサ利用 流量、漏洩、拡散、磨耗等測定
同位体利用分析 同位体希釈分析、同位体交換分析
RI分布測定; オートラジオグラフィ 合金組織・腐食の解析
RIイメージング(放射型CTほか) 気液2相流の挙動調査
放射線と物質との相互作用の計測 相互作用により放射線に生ずる変化 透過減弱 透過型工業計測 厚さ、密度、濃度、レベル等計測
ラジオグラフィ X線、γ線透過非破壊検査
透過型CT 内部断層非破壊検査
散乱 後方散乱線計測 樹脂膜厚さ計測、地層密度計測
回折 結晶回折解析 分子構造、物性状態、残留応力計測
減速 中性子減速熱化 水素・水分計測
共鳴吸収散乱  メスバウア分光 材料科学における元素存在状態分析
中性子共鳴吸収 非破壊元素分析及び分布計測
2次放射線発生 特性X線励起 蛍光X線分析 微量大気浮遊塵の元素分析
即発γ線誘起 中性子捕獲γ線分析等  鉱石等のベルトコンベア上分析
放射化 中性子放射化分析 微量元素分析
陽電子消滅 2光子角度相関測定 物性(原子価電子状態)研究
気体分子イオン化 エレクトロンキャプチャ検出器 ECDガスクロマトグラフ 塩素系農薬、有機水銀、PCB等検出
イオン化補助ドーパント使用 イオン移動度スペクトル測定 極微量麻薬・爆薬探知

表2  放射線照射利用の技術的分類(原論文2より引用)
現象・作用分類 手段・方法 利用技術・利用例
物理的作用 蛍光体発光 夜光時計*など
気体電離 放電管特性改善、静電除去器
起電力発生 原子電池
熱発生 熱源、アイソトープ発電器
化学的作用 活性種生成 化学反応解析
橋かけ 耐熱性など高分子物性改善
崩壊 リソグラフィ
重合 高分子合成、キュアリング
グラフト重合機能材合成 機能材合成
分解・合成 有機合成、排煙処理
生物学的作用 殺菌 医療用具などの滅菌、排水処理
発芽防止 食品保存
細胞破壊 がん治療
突然変異 品種改良
不妊化 害虫駆除
*現在では、ほとんど使われなくなった。

表3  国内で利用されているRI密封線源の種類と主な利用法 (参考資料1により作成)
放射線種 用途分類 利用の方法または機器 核種 最大放射能
α線 計測検査利用 煙感知器 241Am ≦222 kBq (6μCi)
測定器の校正 241Am, 242Cm, 244Cm他 ≦3.7 MBq (100μCi)
照射効果利用 静電除去装置 210Po ≦740 MBq (20 mCi)
β線 計測検査利用 透過型厚さ計 147Pm ≦18.5 GBq (0.5 Ci)
85Kr ≦37 GBq (1 Ci)
90Sr, 204Tl ≦3.7 GBq (0.1 Ci)
散乱型メッキ厚さ計 90Sr, 147Pm他 ≦3.7 MBq (100μCi)
密度計 (たばこ量目計) 90Sr他 ≦740 MBq (20 mCi)
ダストモニタ 147Pm, 14C ≦3.7 MBq (100μCi)
ガスクロマトグラフ検出器(ECD) 63Ni ≦740 MBq (20 mCi)
3H ≦5.0 GBq (135 mCi)
ベータ線ラジオグラフィ 14C ≦37 MBq (1 mCi)
測定器の校正 90Sr, 147Pm, 204Tl他 ≦3.7 MBq (100μCi)
照射効果利用 アイアプリケータ(医療用) 90Sr ≦1.85 GBq (50 mCi)
γ線
(X線含む)
計測検査利用 非破壊検査 60Co ≦3.7 TBq (100 Ci)
192Ir ≦3.7 TBq (100 Ci)
169Yb ≦370 GBq (10 Ci)
75Se ≦3.7 TBq (100 Ci)
透過型厚さ計 137Cs ≦1.11 TBq (30 Ci)
241Am ≦185 GBq (5 Ci)
密度計 137Cs ≦18.5 GBq (0.5 Ci)
オイルゲージ 241Am ≦92.5 MBq (2.5 mCi)
レベル計 60Co, 137Cs ≦185 GBq (5 Ci)
液面計 (ビール瓶等) 241Am ≦3.7 GBq (0.1 Ci)
硫黄計 241Am ≦222 GBq (6 Ci)
55Fe ≦3.7 GBq (0.1 Ci)
蛍光X線分析装置 109Cd, 244Cm, 241Am他 ≦18.5 GBq (0.5 Ci)
メスバウアー効果実験 57Co, 119mSn, 151 Sm他 ≦3.7 GBq (0.1 Ci)
測定器の校正 22Na, 54Mn, 57Co, 60Co,137Cs, 241Am他 ≦3.7 MBq (100μCi)
骨塩定量装置(医療用) 125I, 153Gd他 ≦37 GBq (1 Ci)
照射効果利用
(医療照射)
テレコバルト 60Co ≦2.22 TBq (60 Ci)
ガンマナイフ 60Co 223.11 TBq (6030 Ci)
血液照射装置 137Cs ≦188.7 TBq (5100 Ci)
ラルス 192Ir ≦370 GBq (10 Ci)
60Co 37-185 GBq/本 (3-5本/装置)
治療用小線源 137Cs, 192Ir, 198Au, 226Ra, 60Co他 ≦2.22 GBq (60 mCi)
装置校正 68Ge, 153Gd ≦370 MBq (10mCi)
照射利用施設
 (大量照射)
放射線滅菌 60Co ≦222 PBq (600万Ci) /施設
害虫駆除(不妊虫放飼法) 60Co ≦3.7 PBq (10万Ci) /施設
食品照射(馬鈴薯発芽抑制) 60Co ≦7.4 PBq (20万Ci) /施設
品種改良 60Co ≦1.11TBq (30 Ci)
研究照射 60Co, 137Cs ≦3.7 PBq (10万Ci) /施設
β 計測検査研究 陽電子消滅実験 22Na ≦5.55 GBq (150 mCi)
中性子 計測検査利用 中性子水分計 252Cf ≦540 MBq (14.6 mCi)
241Am/Be ≦18.5 GBq (0.5 Ci)
測定器の校正 252Cf ≦4 GBq (108 mCi)
241Am/Be ≦3.7 GBq (100 mCi)
照射効果利用 理工学研究照射 252Cf ≦70 GBq (1.89 Ci)
P=1015, T=1012, G=109, M=106, k=103
 
2.放射線利用統計にみる非密封RI利用と密封RI線源利用
 我が国では、全国的に約5000の事業所でRI及び放射線発生装置が利用され、医療における診断と治療から工業製品の生産と品質管理など、またさらに基礎科学の研究開発などにも広く用いられ、生活レベルの維持向上や社会経済の発展に不可欠なものとなっている。このように社会的基盤を支える重要な要素である放射線利用は、その安全管理の観点から文部科学省による後述の法的規制の管轄下に置かれるとともに、またその推進に資するためもあって、毎年「放射線利用統計」が刊行されている(参考資料1)。
 同統計によれば、事業所総数の内の約4割を占め最大の分野である民間企業(研究所等を除く)では、その9割強が密封RI線源のみを使用する放射線利用機器ユーザーであり、他方、大学学部等の教育機関と民間を含む研究機関の過半数では、非密封RIも取り扱われている。
 ただし、RIおよび放射線を取り扱う殆どすべての場合を法的に規制する「放射性同位元素等による放射線障害の防止にかんする法律」(以下「放射線障害防止法」という)が2005年6月1日に改訂施行される以前には、3.7 MBq (100μCi)以下の密封RIは、一様に自主規制のみで使用可能であったため、上記の統計には含まれていない。 その代表的な例として、β線透過吸収法による大気中浮遊粒子状物質の連続モニタリング装置(約2000台)及び高速道路建設における盛土の品質管理機器(γ線・中性子透過減弱による土の密度・水分計測機器、約1000台)などが国内で広く使用されている。

コメント    :
 一国内の利用から全地球規模へ、さらには地球外惑星(宇宙化)へと人類の探査計測の手が伸び拡大しつつある今日、より高度化したRI利用計測機器の開発利用が進展し宇宙化にもつながることを期待したい。

原論文1 Data source 1:
放射線応用計測ー基礎から応用まで
野口正安、富永 洋
日刊工業新聞社(2004年12月)

原論文2 Data source 2:
放射線利用法の分類および基礎共通技術
富永 洋
日本原子力研究所
放射線応用技術ハンドブック(石榑ほか編)、朝倉書店(1990年11月)pp.2-3

原論文3 Data source 3:
ラジオアイソトープ線源
富永 洋
日本原子力研究所
放射線応用技術ハンドブック(石榑ほか編)、朝倉書店(1990年11月)pp.59-71

参考資料1 Reference 1:
放射線利用統計
文部科学省、科学技術・学術政策局(監修)
(社)日本アイソトープ協会(毎年発行)

キーワード:ラジオアイソトープ、放射線源、α線源、β線源、γ線源、中性子線源、非密封RI、密封RI
radioisotope, radiation source, alpha-ray source, beta-ray source, gamma-ray source, neutron source, unsealed radioisotope, sealed radioisotope
分類コード:040298

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