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作成: 2002/11/27 初川雄一、大島真澄、藤暢輔、篠原伸夫

データ番号   :040276
多重ガンマ線検出法による微量元素分析の開発
目的      :新しい高感度多元素同時定量法の開発
放射線の種別  :ガンマ線
利用施設名   :日本原子力研究所東海研究所タンデム加速器施設内・多重ガンマ線分析装置GEMINI、日本原子力研究所東海研究所JRR-4研究炉
照射条件    :常温
応用分野    :環境科学、地球・宇宙科学・考古学・医科学

概要      :
 12台のGe検出器を球形に配した装置を用いて試料から発せられる複数のガンマ線を同時に検出する多重ガンマ線分析装置を開発し、これを極微量元素分析に応用した。ガンマ線の同時測定することにより従来に比べて分析能力が約1000倍に向上し、これによりバックグラウンドに隠れて観測が困難だった微弱なガンマ線の検出を可能にした。これにより主要成分からの強いガンマ線の妨害されずに極微量元素の分析が可能になった。

詳細説明    :
 多重ガンマ線検出装置は一般にクリスタルボールとも呼ばれ十数台から百台ほどのゲルマニウム検出器を4πに配置した装置で、原子核実験、特に核分光の分野でめざましい成果を収めている。
 
 多重ガンマ線分析法は放射性核種から発生する複数のガンマ線を同時に測定し、これを2次元マトリクス(スペクトルに相当する)に展開するために従来のガンマ線スペクトルより約1000倍の高いエネルギー分解能が期待できる。それにより共存する主要成分からの強いガンマ線場の中にあっても微少なガンマ線を同時に観測することが可能になる。 
 さらに多重ガンマ線検出装置に用いられているゲルマニウム検出器はゲルマニウム酸ビスマス結晶(BGO)シンチレーション検出器で囲まれている。それぞれのゲルマニウム検出器はBGOシンチレーション検出器とアンチコインシデンスを取ることによりゲルマニウム検出器のコンプトン散乱によりエネルギーをロスしたガンマ線を除くようになっている。これにより2次元マトリクス上のバックグラウンドを約1/10〜1/100に減らす事でき、質の良いコインシデンススペクトルを得ることができる。
 
 現在、原研東海研究所にはタンデム加速器に12台のゲルマニウム検出器からなる多重ガンマ線検出装置“GEMINI” が設置されている。(図―1) この多重ガンマ線検出装置を使い中性子放射化分析に応用する事により微量元素分析を試みた。


図1 多重ガンマ線分析装置GEMINI


 中性子放射化分析はその高い検出感度と広い適応範囲そして簡便さ、迅速さ故に多くの研究分野で活用されている。しかし多くの元素が共存している場合には主要な成分から強いガンマ線が放出されるために微量な成分からのガンマ線の検出が強く妨害される。
 
特に多量のナトリウムやマンガンが含まれている岩石試料や生体試料の中性子放射化分析では24Na(半減期15時間)や56Mn(半減期2.5時間)が大量に生成するために化学分離等によりそれらの影響を低減してからでなければ、微量成分の測定は難しい。そこで本研究では多重ガンマ線検出法の解析手法を中性子放射化分析へ応用することにより化学分離を行わずに非破壊で微量成分の同時分析を試みた。
 
 多重ガンマ線分析の一例を示す。実験は地質調査所から配布されている標準岩石試料JB-1aとJP-1を約100mg原研研究炉JRR−4において10分間照射して、その後5時間後からJP-1は約1日、JB-1aは2日後から4日間GEMINIで多重ガンマ線測定を行った。図−2は標準岩石試料JP-1を測定して得られた2次元マトリクスを示している。X軸に注目すると垂直に4本の直線が見られる。 消滅ガンマ線である511keVの他に846 keVと1810keVは56Mnから、1368keVは24Naからのものである。


図2 JP-1試料による2次元マトリクス。 非常に強い56Mnからのガンマ線の妨害にもかかわらず極微量のEuからのガンマ線の測定に成功した。


 この中から一例として841.6−121.8keVの152m1Eu(半減期9時間)から発せられるガンマ線のペアを拡大図中に示した。56Mn の強い846 keVのガンマ線のすぐそばにEuからの微弱なガンマ線のペアが観測されている。JP-1中のEuの含有量はわずか4ppbである。 
 
 同様の手法で中性子反応(ほとんどは(n,γ)反応)によって生成する核種からのガンマ線を検出した。結果を表-1に示す。得られた値は誤差の範囲で標準岩石の文献値と一致しておりこの方法が24Naや56Mnという強いガンマ線を放出する試料中の微量元素の定量分析に有効である事が示された。核データを基に考察した結果49元素にこの方法が適用できることが分かった。

表1 Table 1
Element JP-1 JB-1a
This work Reference This work Reference
k 9590±410 11600±990
Sc 7.3±06 7.24±032 33.4±0.3 27.6±3.7
Ca 49600±4100 67800±2900
Ti 8800±1000 8000±250
Fe 63300±1900 63300±3200
Co 152±10 116±8.3 35.2±2.6 38.6±5.35
Ni 2460±230 2460±177
Ca 0.62±0.14 0.7(0.5 - 1.0) 18.3±0.6 17.9±1.8
As 3.17±0.34 2.3±0.3
Br 1.1+0.17 0.28+0.04 1.0±0.1 0.4±0.1
Ba 565±28 505±26
Cs 1.04±0.17 1.32±0.24
La 39.8±2.9 37.6±2.5
Ce 42±19 65.6±5
Eu 0.0029±0.0003 0.004 1.26±0.05 1.46±0.078
Sm 4.2±0.7 5.07±0.38
Tb 0.58±0.09 0.69±0.072
Yb 2.3±0.7 2.1±0.21
Lu 0.46±0.04 0.33±0.046
Hf 4.93±0.38 3.41±0.36
Ta 2.12±0.11 1.93±0.43
W 2.46±0.06 0.85(0.85-3.0) 3.34±+0.13 1.83±0.63
Th 30±13 9.0±0.94
U 3.39±0.32 1.57+0.22


コメント    :
 
 中性子放射化分析は簡便な高感度分析法であるが、共存する主要元素の影響を強く受け微量元素からのガンマ線の測定が困難な場合が多くある。本方法は原子核物理において開発された多数のGe検出器からなる同時計測装置を用いることによりガンマ線の同時測定を行い微弱なガンマ線を感度良く測定を可能とした。この多重ガンマ線分析法を中性子放射化分析法と組み合わせることにより高感度な元素分析が可能になった。今までも同時計測の試みはあったがその検出効率の低さゆえ普及しなかった。これを複数のGe検出器を用いクリスタルボールを用いることによりこの欠点を克服した。 

原論文1 Data source 1:
A γ-ray detector array for joint spectroscopy experiments at the JAERI tandem-booster facility
K. Furuno, M. Oshima, K. Komatsubara, K. Furutaka, T. Hayakawa, M. Kidera, Y. Hatsukawa, M. Matsuda, S. Mitarai, T. Shizuma, T. Saitoh, N. Hashimoto, H. Kusakari, M. Sugawara, T. Morikawa
Univ. Tsukuba, Japan Atomic Energy Research Institute, Kyusyu Univ., Chiba Univ., Chiba Institute of Technology
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, Sec. A421, (1999) 211-226

原論文2 Data source 2:
Application of multidimensional spectrum analysis for neutron activation analysis
Y. Hatsukawa, M. Oshima, T. Hayakawa, Y. Toh, N. Shinohara
Japan Atomic Energy Research Institute
Journal of Radianalytical nad Nuclear Chemistry 248, (2001) 121-124

原論文3 Data source 3:
Application of multiparameter coincidence spectrometry using a Ge detectors array to netron activation analysis
Y. Hatsukawa, M. Oshima, T. Hayakawa, Y. Toh, N. Shinohara
Japan Atomic Energy Research Institute
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, Sec. A482, (2002) 328-333

キーワード:多重ガンマ線分析、中性子放射化分析、微量元素分析、Ge検出器
Multi parameter coincidence analysis, Neutron activation analysis, Trace element analysis, Germanium detector
分類コード:040104, 040301, 040404

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