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作成: 2003/07/07 豊川弘之

データ番号   :040267
高エネルギー単色γ線CTを用いた非破壊検査
目的      :高エネルギー単色γ線を使った非破壊検査技術の開発
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線
放射線源    :電子加速器(800 MeV, 100 mA)
フルエンス(率):106/(cm2s)
利用施設名   :(独)産業技術総合研究所電子加速器施設
照射条件    :大気中
応用分野    :工業用非破壊検査

概要      :
 レーザー逆コンプトン散乱を用いて、1〜40MeVの高エネルギーγ線ビームを安定して発生させるγ線発生装置を用いて、これまでより一桁程度厚い部材の非破壊検査を行うことが可能なCT撮影技術を開発した。

詳細説明    :
 放射線を使った非破壊検査は、物体内部の様子を非破壊で観測し、検査や診断を行う技術であり、医療用レントゲン写真やCT検査に代表されるX線ラジオグラフィがよく用いられる。高原子番号の物質や大型構造体の高分解能非破壊検査を行うための理想的なX線源としては、高エネルギーであり、中性子の発生がなく、高い指向性を持ち、単色性が良い等の性質を備えているものが良い。更にエネルギー可変性があれば、元素の識別等、より高度な観測が可能となる。なお、本稿では、高エネルギー光子をX線、またはγ線と云う。
 電子蓄積リング内を周回する高エネルギー電子に、高強度レーザーを照射して得られるレーザー逆コンプトン散乱γ線は、上記の特性を有しており、大型構造の非破壊検査に適したX線源の一つである。
 
 X線のエネルギーが高くなると、従来のX線管によるレントゲン撮影と比較して、特に重い元素に対する吸収が少なくなるため、厚く、重い部材・部品の検査に適用できる。金属のような重い元素は、一般的に数MeV〜10数MeV程度において減弱係数が最小となることから、高エネルギーX線による検査が有効である。10 MeV程度以上の高エネルギーX線、γ線に対しては、多くの物質の減弱係数はエネルギーにあまり依存しないため、物質中の吸収係数は一定と見なせる。そのため、高エネルギー領域では、従来の手法より高画質のラジオグラフィが可能となる。
 
 レーザー逆コンプトン散乱γ線は物体の透過力が高く、エネルギー可変で、かつ数%〜10%程度とエネルギー幅も小さい。エネルギーを任意に変えることができるため、被検査体によって適切なエネルギーを自由に選択することができるという利点がある。更に放射光と同程度の高い指向性を有しているため、照射部分以外の線量はほぼゼロであり、周辺における被ばくの危険性は無い。大線量RIや小型電子線形加速器を用いた場合に比べ、被ばく事故の可能性が極めて低い安全な線源であると言える。10MeVのレーザー逆コンプトン散乱γ線のエネルギー分布を図1に示す。


図1 レーザー逆コンプトン散乱γ線のエネルギースペクトル。ピークエネルギーとピークの半値幅(Full Width at Half Maximum)を示す。*


 本手法を用いて行う非破壊検査の流れを図2に示す。まず、被検査体を一度大まかに撮影し、詳細を知りたい部位について詳細なラジオグラフィを行う。さらに、必要であればその部分の断層撮影を行う。図3は、直径約13 cmのセラミクス、および金属製のFM波用四極管の電極部分を詳細に撮影したCT画像の一例である。内部の金属製コンタクトピンやグリッドプレート等が鮮明に観測された。


図2 レーザー逆コンプトン散乱γ線CTによる非破壊検査の例(データ作成者の自作)*



図3 サンプルの電極部分のCT像。スライス厚さ1 mm。1断層図を得るのに、約1時間の測定時間を要した。*

 今後、本システムにより、原子力、船舶、航空機、ロケットなどの多くの産業分野の製品開発段階における部品などの品質評価において、従来手法より高分解能な画像解析が可能になると期待される。
 
*本図表は抄録者の自作

コメント    :
 本システムは電子蓄積リングを必要とするため、高エネルギー陽子線や中性子を用いたラジオグラフィシステムと同等のコストを要すると思われる。しかし、本システムの利点は、γ線ビームの高指向性による安全性、検査施設の遮蔽の容易さ等にある。検査は数mmの高強度γ線ビームで行い、かつ中性子の発生も極めて少ないため、測定中においても、多くの作業を非検査体のそばで行うことができる。

参考資料1 Reference 1:
照射済燃料集合体の非破壊観察技術の開発−X線CT技術の適用−
永峯 剛
Isotope News 2000年 2月号, pp.6-9

参考資料2 Reference 2:
MeV領域工業用X線CT/DRの性能
出海 滋
非破壊検査, 48, 574-578 (1999)

参考資料3 Reference 3:
産業用高エネルギーX線CT装置とディジタルエンジニアリングへの応用
上村 博
J. IEE. Japan, 122, 100-103 (2002)

参考資料4 Reference 4:
CTを用いたリバースエンジニアリング
藤井 正司
非破壊検査, 50, 698-703 (2001)

キーワード:非破壊検査、ラジオグラフィ、レーザー逆コンプトン散乱(レーザーコンプトン散乱)、γ線、CT、電子蓄積リング、小型加速器、放射線遮蔽
Nondestructive inspection, Radiography, Inverse Compton scattering on laser (Laser-Compton scattering), Gamma-ray, CT, Electron storage ring, Small-size accelerators, Radiation shielding
分類コード:040304,040305

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