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作成: 2001/10/01 白川 芳幸

データ番号   :040263
ベータ・アルベド吸収法による薄層フィルムおよび紙の高精度厚さ測定
目的      :薄物のフィルム、紙などの厚さ測定の高精度化
放射線の種別  :ベータ線
放射線源    :147Pm, 204Tl, 90Sr
利用施設名   :フィルム工場、製紙工場
照射条件    :空気中
応用分野    :厚さ測定

概要      :
 従来よりβ線厚さ計はフィルム業界、製紙業界などで使用されているが、利用可能なβ線源(147Pm、204Tl、90Srなど)のエネルギー領域においては、薄物の厚さ測定に対して感度が不足するという欠点があった。この解決を目指して2重透過ベータ・アルベド吸収法(β線源からの直接β線と散乱β線を測定対象物に照射する方法)が開発され、従来より5-6倍の高精度化が図られた。

詳細説明    :
 
 ロシアでは大型タンクの液面のレベル計、液体やパルプの密度計、紙、フィルムやプラスティックの厚さ計、石炭の灰分計および高感度煙検知器などの放射性同位元素を利用した計測機器が開発されてきた。チェルノブイリ事故を契機に放射線利用機器の産業分野での使用台数は急速に減少した感があるが、しかしながら放射線利用機器の使用が不可欠な産業もあり、さらなる装置の改良が試みられている。ここでは、その例としてβ線を利用した薄膜フィルム、および紙の厚さの精密測定法および装置について述べる。(注:他の技術で代替されてきている。)
 
 従来のβ線厚さ計は線源と検出器の間に測定対象物を通し、厚さが増すにつれて透過してくるβ線数が減少することを利用したものである(透過法あるいは吸収法)。別のタイプとして線源と検出器を同じ側に設置し、測定対象物からの散乱線β線数が厚さが増すに従い増加する性質を利用したものもある(散乱法)。ただし、この方式は厚さがある一定以上になると増加量が飽和に達して、厚さとβ線数の関係が消失してしまう。よく使われる147Pm、 204Tl、 90Sr線源からのβの線エネルギー領域(最大エネルギーで、それぞれ224keV、764keV、546keV)において測定対象物の質量吸収係数が小さく、通常の線源を使う透過法および散乱法の両者において、特に薄物を測定する場合には厚さ変化に対して検出されるβ線数の変化が緩慢になって測定精度が悪化するという問題があった。 
 
 この解決策として2重透過ベータ・アルベド吸収法が提案された。図1に示すように線源からの直接β線が測定対象物を1回透過して、上方の空気で後方に散乱される。そして後方散乱β線は測定対象物を再度(2回目)透過して検出器で計数される。1回目の透過でβ線の平均エネルギーは減少し、空気との後方散乱でさらに大幅に低エネルギー化される。低エネルギーになると測定対象物の質量吸収係数が増加し、厚さ変化に対する計数変化(感度)が大きくなる。すなわち薄物試料の測定に適した方法と言える。その他の利点は線源と検出器を同じ側に配置できるため測定装置がひとつになり、測定対象物の片側に設置できることである。


図1 ベータ・アルベド吸収法の測定原理(1:測定対象物,2:β線源,3:装置の測定面,4:β線検出器)(原論文1より引用。  Reproduced from V. G. Fedorkov, TECDOC-1142 (Emerging New Applications of Nucleonic Control Systems in Industry), IAEA, 169-180 (2000), FIG. 1 (Data Source 1, pp.170).)


 試験では、1-50μmのフィルムに対して +-0.1μmの精度が確認された。従来よりも5-6倍の高精度化が達成された。(注:β線と物質の質量吸収係数は実験的に、μ=0.008Z0.28E-(1.57-Z/160)/ρで与えられる。ここでZは測定対象物の実効的な原子番号、Eはβ線の最大エネルギー、ρは測定対象物の密度。この式からEが小さくなるとがμ大きくなることが示される。)
 
 本方式の応用タイプとしてリングに沿ってスキャンしながらポリエチレンフィルムの厚さを測る装置を図2に示す。図1の原理的説明では散乱体は空気であったが、この厚さ計の場合はリング自体が散乱体の役目も果たしている。紙の厚さ計への応用例を図3に示す。上の図は線源の周りに3個の検出器を配置し、このセットを2台内蔵して幅広の紙を測定するものである。下の図は線源と2個の検出器を配置したタイプで幅狭の紙の厚さ測定に使用されるものである。 


図2 リング型スキャン機構を有するポリエチレンフィルム用厚さ計(1:計測器,2:レバー,3:リング型スキャン機構)(原論文1より引用。 Reproduced from V. G. Fedorkov, TECDOC-1142 (Emerging New Applications of Nucleonic Control Systems in Industry), IAEA, 169-180 (2000), FIG. 2 (Data Source 1, pp.170).)




図3 薄紙の厚さ計(上図:幅広用,下図:幅狭用,1:β線源,2:β線検出器)(原論文1より引用。  Reproduced from V. G. Fedorkov, TECDOC-1142 (Emerging New Applications of Nucleonic Control Systems in Industry), IAEA, 169-180 (2000), FIG. 3 (Data Source 1, pp.171).)



コメント    :
 フィルム業界、製紙業界では多数のβ線透過厚さ計が利用されている。しかしながら入手容易な通常のβ線源ではエネルギーが高すぎて薄物の測定に困難があった。提案された手法はβ線を空気などで後方散乱させることによって等価的に低エネルギーのβ線源を作り出すアイディアが基本になっている。後方散乱されたβ線の数は線源からでる直接β線の数より遥かに少ないことより、線源としての利用効率が悪く、実用的とは思われなかったが、予想に反して高精度が示されたことには驚きを感じる。

原論文1 Data source 1:
Some New Applications of Nucleonic Gauges in Russia
V. G. Fedorkov
Ministry of Atomic Energy of Russian Federation
TECDOC-1142(Emerging New Applications of Nucleonic Control Systems in Industry), IAEA, 169-180 (2000)

キーワード:厚さ測定、β線、吸収、透過、散乱、反射、質量減衰係数、フィルム、紙
thickness measurement, beta-ray, absorption, transmission, scattering, reflection, mass attenuation coefficient, film, paper
分類コード:040202, 040305

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