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作成: 2001/10/01 白川 芳幸

データ番号   :040262
可搬型微弱放射能線源利用機器の石炭産業および土木・建築分野への応用
目的      :可搬型微弱放射能線源利用機器の石炭産業および土木・建築分野への応用
放射線の種別  :ガンマ線,中性子
放射線源    :137Cs線源,252Cf線源
フルエンス(率):3.7MBq以下
照射条件    :地下、地表、水中
応用分野    :資源探査、地下検層、石炭分析、鉱石分析、土壌調査

概要      :
 石炭産業、土木・建築分野では、可搬性、安全性、放射線防護の観点から微弱な放射線源を利用した現場でのオンライン計測機器の開発・実用化が望まれている。前者においては石炭層の探査、石炭の品質評価のために従来の1/1000以下の137Cs線源を利用した密度計、灰分計が試験されている。後者では土壌管理などのために252Cf線源による水分・密度計、タンク基礎の地盤沈下管理用の間隙計がすでに多数使用されている。

詳細説明    :
 
 資源大国、例えば豪州の石炭産業では、自由に場所を移動して使用可能な、そして安全なオンライン計測機器の必要性が高い。石炭資源の探査、生産前の試掘、生産に入ってからの段階で有用な機器として放射線を用いた装置が着目され、すでに使用されている。しかしながら事故時の危険回避あるいは環境影響の低減、作業者の放射線防護の容易さ、作業者の訓練の負担軽減などの観点から放射線源の一層の微弱化が強く望まれている。
 
 豪州の研究機関であるCSIROはすでに従来の市販品の1/100に当たる40MBqの137Csを用いた装置を実用化しているが、さらに法規制を受けない3.7MBq以下まで線源を微弱化した地下検層プローブ(ボーリングした穴に計測プローブを下ろして密度を測り、石炭層の位置を調べ、さらに灰分を測定して品位を調べる装置)を開発し、性能試験を実施している。このプローブの構造的特長は検出器に微弱な137Cs線源を密着させ、遮へい部分を持たないことである。重量は7kg、長さは1.1m、直径は 60mmと極めて小型である。このため線源と測定対象の地層、地層と検出器の距離が短く、効率良く地層で散乱されたγ線を検出でき、その結果、従来型(強い線源と検出器の間に鉛などの遮へい材が置かれ、線源〜検出器間の距離が長い構造)より遥かに線源を小さくすることができる。
 
 測定原理上の特長はスペクトル解析を採用したことである。従来は散乱されたγ線の総数を測定対象物の密度と関係づける方法であった。本方式は観測されるスペクトルに3つのエネルギー帯を設けるものである。662keV近傍では線源からの直接γ線を検出する。この部分の計数は測定対象物とは無関係である。このことより検出器自体の特性変化(ゲインの変化など)のチェックに利用でき、ゲインなどの補正をかけることに役立つ。
 
 180-220keVの部分は線源から出たγ線が測定対象とほぼ後方180度のコンプトン散乱を1回受け検出されたものであり密度計測に利用できる。密度が大きい場合(通常の土壌)には計数は増え、密度が小さい場合(石炭層)には計数が少なくなる。60-130keVの範囲ではコンプトン散乱よりも光電吸収が強くなる。測定対象にγ線が入り、多重散乱されてエネルギーが小さくなるにしたがい光電効果により吸収される確率が高まる。光電吸収は高原子番号(この場合は灰分)の原子が多いときに顕著になり、多重散乱後に検出器に入ってくるγ線の数は減少する。この領域の計数によって灰分の定量が可能である(校正試験で8-40%の測定範囲に対し標準偏差で+-3%程度)。代表的なスペクトルを図1に示す。試作したプローブを複数の現場で降下速度3-5m/minで試験した結果、1.1MBqの線源を装備したこのプローブの性能は以前に開発した40MBq線源を使用したプローブと同等であることが確認された。


図1 地下検層プローブから得られたスペクトル(右のピークは137Csからの直接γ線による、中央部のピークは後方散乱γ線による。その左の部分は多重散乱γ線によるもの)(原論文1より引用。  Reproduced from J. Charbucinski and M. Borsaru, GOSPODARKA SUROWCAMI MINERALNYMI, 549-559 (1997), Fig. 1b (Data Source 1, pp. 551))


 さらにCSIROは露天掘りの現場や地下の抗で石炭層の表層が不要な廃棄物(品質が劣悪で石炭として使用できないもの、あるいは石炭以外の物)と混ざり合わないように管理する目的で表層の灰分計を開発し現場試験を推進している。この装置はわずか2kgと小型で図2に示す構造をしている。微弱な1.8MBqの 133Ba と 0.35MBqの 137Csの二つの線源が装備されている。測定原理は133Baの150keV以上のエネルギーを有する後方散乱γ線で密度を計測し、それ以下の多重散乱γ線の光電吸収を利用して灰分を求めている。137Csの直接γ線の計数は装置の安定化のために用いられている。試験の結果100秒の測定において灰分7-23%で +-2.6% 、4-31% の範囲で+-3.3%の精度(標準偏差)が得られている。


図2 石炭表層灰分計の構造(原論文2より引用。  Reproduced from M. Borasaru, C. Ceravolo, G. Carson and T. Tchen, Appl. Radiat. Isot., 48, 6, 715-720 (1997), Fig. 1 (Data Source 2, pp.716), Copyright 1997, with permission of Elsevier Science.)


 土木・建築分野では土壌の締固め管理用に法規制外の3.7MBq以下の 252Cf線源を利用した水分・密度計が多数使用されている。これは線源からの中性子の透過が水分によって減少することを利用して水分を、同時に放出されるγ線の透過減衰で密度を測定するものである。さらに大型石油タンクを支える地盤の沈下を底板とタンク底面に生じた隙間から検知する図3に示す間隙計も実用になっている。これは高速中性子の後方散乱から地盤の距離を測定して間隙を調べ、さらに水や油などが溜まっているかどうかを熱中性子の発生から判断するものである。


図3 間隙測定器の概略構造(原論文5より引用。  )



コメント    :
 石炭、石油資源を有する豪州や米国では放射線を利用したオンライン計測装置の開発が今なお進められている。英国、独国でも同様な技術の開発が見受けられる。共通したキーワードは小型化である。線束のアップと制御性を求めた小型加速器の開発と計測装置の線源としての実装を目指した動きもあると同時に、その対極にある線源の微弱化も重要な課題である。すでに石炭の密度と灰分の測定技術は実用化の域に達しているが、この技術の石炭以外の鉱石品質評価への応用展開も期待されている。
 
 土木・建築分野に眼を向けると日本が先端を走っている。紹介した252Cf線源利用技術は、応用としては地下水の流動調査やセメントのミキシングの管理にも利用されている。微弱線源利用技術が最も役立っている分野と言える。

原論文1 Data source 1:
Low Activity and High Bed Resolution Spectrometric Borehole Logging
J. Charbucinski and M. Borsaru
CSIRO, Exploration and Mining
GOSPODARKA SUROWCAMI MINERALNYMI, 549-559 (1997)

原論文2 Data source 2:
Low Radioactivity Portable Coal Face Ash Analyser
M. Borasaru 1, C. Ceravolo 1, G. Carson 2 and T. Tchen 1
1 CSIRO, Exploration and Mining, 2 CSIRO, Division of Petroleum Resources
Appl. Radiat. Isot., 48, 6, 715-720 (1997)

原論文3 Data source 3:
Ultra-Low Activity Spectrometric Probe for The Coal Mining Industry
J. Charbucinski, C. Ceravolo and T. Tchen
CSIRO, Exploration and Mining
Jornal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry, 206, 2, 311-319 (1996)

原論文4 Data source 4:
The "Zero Probe" - Low Radioactivity Borehole Logging Tool
J. Charbucinski
CSIRO, Exploration and Mining
1993 IEEE Conference Record, Nuclear Science Symposium and Medical Imaging Conference, Vol.2, 855-859 (1993)

原論文5 Data source 5:
特集 RI・放射線の産業利用 6.土木・建築分野
今野 孝昭
鹿島建設(株)設計エンジニアリング総事業本部
Radioisotopes, 46, 557-566 (1997)

原論文6 Data source 6:
新しい現地調査法,7. 施工管理と現場計測(その2)
三嶋 信雄1,西中村 和利2
1日本道路公団 山形工事事務所、2(株)建設企画コンサルタント
「土と基礎」、36, 12, 71-76 (1988)

キーワード:微弱放射能線源、石炭産業、土木・建築分野、地下検層、密度測定、灰分測定、水分測定、間隙測定
low activity radiation source, coal mining industry, civil engineering and construction industry, borehole logging, density measurement, ash monitoring, moisture measurement, gap measurement

分類コード:030504, 030508

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