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作成: 2001/10/25 白川 芳幸

データ番号   :040261
二重エネルギーγ線透過法の石油,水,ガス多層流計測への応用
目的      :石油パイプラインを流れる石油,水,ガスの流量計測
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :241Am線源(11GBq), 137Cs線源(0.5-1.1GBq)
利用施設名   :石油産業における油井〜パイプライン〜プラットフォーム
照射条件    :原油中、40-60度
応用分野    :密度差、実効原子番号差のある多層流の個別流量の計測、石炭の灰分分析、,鉄鉱石の鉄分分析

概要      :
 石油パイプラインを流れる石油、水、ガスの混合した多層流の各流量をオンラインで計測する装置の開発、実用化について述べ、低エネルギー、高エネルギーのγ線を同時に多層流にコリメートして照射し、透過γ線を計数する。前者の減衰は実効原子番号に関係し、後者の減衰は密度に依存する。両者の関係から石油、ガスの比率が求まる。固有密度と別の方式で求めた流速から各流体の重量流量あるいは体積流量が分かる。

詳細説明    :
 
 石油を汲み上げ輸送しタンクに貯蔵し、精製する工程の最適化は石油産業において極めて重要な課題であり、そのための情報として石油のみならず、石油を汲み上げるときに混入する。あるいは発生する水、ガスの量を同時に把握することが必要である。このような石油、水、ガスの多層流の計測に関して、従来からテストプラントに分留し、それぞれを個別に計測する手法が採用されている。しかしながら巨大な設備の設置、その維持管理は負担が大きいためオンラインで各油井の成分を連続測定する技術、装置が強く求められている。ここでは放射線(γ線)を利用した二重エネルギーγ線透過法を解説し、2種類の装置を紹介する。
 
 まず計測原理を述べ、その原理を方程式として表現する。コンプトン散乱領域のエネルギー(高エネルギー側)のγ線に対して、石油、水、ガスの透過減衰の指標である線減衰係数μが異なる。これはそれぞれの密度が異なることに起因する。また光電効果領域(低エネルギー側)においてはそれぞれの線減衰係数μが大きく異なる。これは各成分の実効原子番号が異なることに起因する。図1のようにコリメートしたγ線をのパイプを流れる多層流に照射し透過したγ線を調べると、
 
I = Ii exp(-μd) 、 μ=μwαw + μoαo + μgαg , αw + αo + αg =1   (1)
 
が得られる。


図1 二重エネルギーγ線透過法による多層流計測の基本方程式 (ここでIは透過したγ線数、Iiは照射したγ線数、μは実効的な線減衰係数、個別の線減衰係数、dはパイプの内径、αは実効的な線減衰係数に対する各成分ごとの線減衰係数の比率、添字w、o、gは水、石油、ガスを示す.)(原論文4より引用。  Reproduced from A. M. Scheer, IAEA-TECDOC-1142, 105-122 (2000), Fig. 2 (Data Source 4, pp.107)). )


 各エネルギーによってμの値は異なっているので、各エネルギーごとに(1)の独立した方程式を作ることができる。
 
 事前の実験によってμ、Iiを決定し、オンラインでIを測定すると、図1に示す3元連立方程式から、3個の未知数αw 、αo 、αgを求めることができる。つぎに固有の密度ρを使い、それぞれの面積密度ραが得られる。各成分を合計すると多層流全体の面積密度が求まる。パイプの流れが均一であればパイプの断面全領域に積分して、別の方法で流速を測定して積をとることにより、各成分、および多層流全体の重量流量を知ることができる(kg/s、。あるいはkL/s)。
 
 Shell が開発した装置を紹介する。この装置の基本的な構造を図2に示す。


図2 パイプの内部に挿入した計測装置(原論文4より引用。 , Reproduced from A. M. Scheer, IAEA-TECDOC-1142, 105-122 (2000), Fig. 10 (Data Source 4, pp.113)). )


 内径30mm、外径58mmのパイプの中心部分に線源部を挿入し、外側に検出器を配置する。線源としては241Am(6.475GBq)を用いる。線源から放出される59.5keVのγ線を高エネルギー側として、同時に発生する 13.9、 17.8、 21.5keVの LX 線を低エネルギー側とする。
 
 多層流を透過したγ線、LX線を識別して計数できるように専用のSi検出器が開発された。Si半導体の上面に薄い銅箔を接着させ、その内14mm2を開口し、ここでエネルギーの低いLX線を高エネルギー分解能で検出する。銅箔で覆われた 100mm2 で59.5keVのγ線を高効率で検出するものである。線源部と検出部の窓部はγ線、LX線 が減衰しないように軽いカーボンファイバー強化エポキシ樹脂が使用されている。
 
 この装置で実際にパイプを石油のみで充填し。連立方程式の係数を求める。次に水。ガスで同様なテストを行い、すべての係数を決め3元連立方程式を完成させる。さらにベンチュリー式差圧流量計で全体流量および流速を求め。計測原理に従って多層流の個別計測をおこなう。1秒の計測で統計変動2%が達成されている。
 
 つぎに豪州CSIROとEssoが開発した装置を紹介する。低エネルギー側として241Am(11GBq)の 59.5keVを利用する。高エネルギー側としてガスによる透過減衰を無視できる(μg=0とする)137Cs(0.5 - 1.1GBq)の γ線エネルギ−(662keV )を用いて図1の3元連立方程式を近似して解く。
 
 すると石油。水の重量割合は、
 
C = a1 R + a2 、 R=ln(Iin' / I' ) / ln(Iin"/I") (2)
 
となる。'は低エネルギー側。"は高エネルギー側の計数である。a1、a2は石油、水でそれぞれに実験的に求める係数である。さらに高エネルギー側で面積密度を測定する。面積密度の大きな変化はガスの混入割合の変化に対応するのでガスの定量が可能である。この装置の構成を図3に示す。


図3 パイプの外側に装着した計測装置(原論文3より引用。  Reproduced from P. E. Hartley , G. J. Roach, D. Stewart, J. S. Watt, H. W. Zastawny and W. K. Ellis, Nucl. Geophys., 9, 6, 533-552 (1995), Fig.3 (Data Source 3, pp.535), Copyright 1995, with permission from Elsevier Science).)


 パイプの内径は73.7mmである。透過γ線はNaI(Tl)シンチレーション検出器で計数する。線源部と検出部の窓はγ線の透過を妨げにくいカーボンファイバー強化エポキシ樹脂が使用されている。
 
 これと同様な装置を0.5 - 1.5m上流か下流に設置し、両装置からの出力(この場合、面積密度に対応)の時間相互相関を求めることにより多層流が両装置間を通過する時間が分かり、流速が計算できる。これらのデータから石油、水、ガスの重量流量、あるいは体積流量を知ることができる。多数の油井を使った現場テストにおいて、全ての誤差を含んだ総合精度は30秒の平均で、それぞれ8.9、5.2 、8.2%の結果が得られた。
 

コメント    :
 
 気体、粉体、液体が混合した多層流の成分ごとの流量計測はチャレンジングな技術である。静電容量変化、μ波の透過減、放射線の透過減などを利用した装置が開発されている。しかし、いずれも単独装置ですべての量を測ることは困難で、流速を別の装置で測ったり、温度、圧力を補正したりとか、種々の情報の総合で目的量を求めることが必要である。本方式は理論的には完成されているが、理論の中で変動しないと仮定している石油の成分変動、水の塩分量変動などが実際には発生するため、誤差の一因になっている。この解決と高精度化が今後の研究課題になると思われる。

原論文1 Data source 1:
 Determination of Flow Velocity of the Liquids in Oil/Water/Gas Mixtures by Dual Energy Gamma-Ray Transmission
J. S. Watt, H. W. Zastawny, M. D. Rebgetz, P. E. Hartley and W. K. Ellis
Division of Mineral and Process Engineering, CSIRO
Int. J. Radiat.Appl. Instrum, Part E, 5, 4, 469-477 (1991)

原論文2 Data source 2:
Multiphase Flowmeter for Oil, Water and Gas in Pipelines Based on Gamma-ray
Transmission Techniques
G. J. Roach, J. S. Watt, H.W. Zastawny, P. E. Hartley and W. K. Ellis
Division of Mineral and Process Engineering, CSIRO
Int. J. Radiat.Appl. Instrum., Part E, 8, 3, 225-242 (1994)


原論文3 Data source 3:
Trial of a Gamma-ray Multiphase Flow Meter on the West Kignfish Oil Platform
P. E. Hartley 1, G. J. Roach 2, D. Stewart 3, J. S. Watt 2, H. W. Zastawny 2 and W. K. Ellis 2
1 Measurement and Control Equipment Co., 2 Division of Minerals, CSIRO, 3 Esso Australia Ltd
Nucl. Geophys., 9, 6, 533-552 (1995)

原論文4 Data source 4:
An Oil/Water/Gas Composition Meter Based on Multiple Energy Gamma Ray Absorption (MEGRA) Measurement
A. M. Scheers
Research and Technical Services, Shell International E & P
IAEA-TECDOC-1142, 105-122 (2000)

キーワード:二重エネルギーγ線透過法、石油、水、ガス、多層流、線減衰係数、実効原子番号、密度、面積密度、相互相関、流速、流量
dual energy gamma-ray transmission technique, oil, water, gas, multiphase flow, linear attenuation coefficient, effective atomic number, density, mass per unit area, cross-correlation, flow velocity, mass flow
分類コード:040204, 040305

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