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作成: 2002/03/07 須永 博美

データ番号   :040252
放射線加工用電子加速器
目的      :電子加速器の放射線加工利用
放射線の種別  :電子,エックス線
放射線源    :電子加速器
フルエンス(率):特定せず
線量(率)   :特定せず
利用施設名   :特定せず
照射条件    :特定せず
応用分野    :放射線架橋、キュアリング、医療器具の滅菌、排煙処理、食品照射

概要      :
 放射線加工に用いる電子加速器を低エネルギーから高エネルギーの装置に分類し、各方式の装置の原理、性能、製作の現状等を述べるとともに、これらの加速器についての世界中での設置台数、利用される分野、所要線量、処理量の推定等加速器利用全般について述べた。

詳細説明    :

 世界中には推定13,400基にも及ぶ粒子加速器が設置され(1998年)、素粒子の研究、放射線治療、医学用アイソトープの生産、生物医学、イオン打込み、放射線加工などの分野で用いられている。このうち、放射線加工用の電子線源、又はX線源として用いられている電子加速器は1,500基以上に及ぶ。図3は放射線加工が実施されている対象とその所要線量を示し、この中の大部分は電子加速器を利用する対象となっている。


図1 各種の放射線加工の対象と所要線量(原論文1より引用。  Reproduced from Waldemar Scharf, Wioletta Wieszczycka, Proc. AIP Conf. 475 (Pt.2, Application of Accelerators in Research and Industry), 949-952 (1999), TABLE 3 (Data Source 1))


 放射線加工用の電子加速器は放出される電子のエネルギーにより、低エネルギー加速器( E≦300keV)、中エネルギー加速器(300keV<E≦5MeV),及び高エネルギー加速器(5<E≦10MeV)に分類される。図1は150keV〜14MeVまでの電子線が水に入射した場合の深さと吸収線量との関係(深度線量分布)を示す。


図2 入射電子エネルギー150〜250keV(a)、0.5〜2.0MeV(b) 及び3MeV〜14MeV(c)に対する水の深度線量分布(原論文1より引用。  (a) & (c): Reproduced from Waldemar Scharf, Wioletta Wieszczycka, Proc. AIP Conf. 475 (Pt.2, Application of Accelerators in Research and Industry), 949-952 (1999), FIGURE 3 (Data Source 1)及び(b):原論文2、金沢孝夫、春山保幸、宇野定則、四本圭一、田中隆一、鷲野正光、吉田健三、高崎研1号加速器(デユアルビーム型、2MeV, 60 kW)の電子線出力特性、Fig. 17 (原論文2、p.39)より引用)


 低エネルギー加速器では加速に用いる高電圧は変圧器により発生させ、ビームの取り出し法には非走査型と走査型がある。非走査型は、電子源に長い線状、又は複数のフィラメントを用いることにより広い照射野を得る方式で、まず1970年代初期にEnergy Science社(ESI、現在は岩崎電気が親会社)で開発され、Electrocurtainとして広く使われるようになった。その他ドイツのInstitute of Surface Modification で開発されたLEA System、RPC Technology社のBroadBeam、日新ハイボルテージ(NHV)社のキュアトロン、住友重機械社のWIPL等がこの非走査型電子加速器として市販されている。走査型の低エネルギー加速器は、ドイツのPolymer Physik Co.で開発し現在はOtto-Durr社で製作しているESH System、NHV社のElectron Beam Processor等がある。
 
 中エネルギー加速器は加速電圧の発生方法により変圧器型、コッククロフト−ワルトン(C-W)型、ダイナミトロン型、中エネルギー用線形加速器に分類される。これらはすべて電子線を走査して用いる。変圧器型はさらに一般の変圧器型、絶縁鉄心変圧器(ICT)型、及び空芯変圧器型に分類される。これらの変圧器型加速器では出力の交流高電圧を整流して直流高電圧として用いる。このうち、通常の変圧器型は、NHV社で1 MeV程度までの加速器として製作され、ICT型はHigh Voltage Engineering Corporationで開発されたが、現在はフランスのVivirad社にその技術が移されている。空芯変圧器型はロシアのBudker Institute で製作しているELV加速器が該当し、0.2-2.5 MeV、出力は100kW程度である。C-W型はNHV社製で5MeV、150kWの装置が、Radiation Dynamics Inc. (RDI、現在はIon Beam Applications ,IBA社が親会社)製のダイナミトロンは5 MeV、170kWまでの装置が製作されている。線形加速器ではBudker Institute の単一空洞による装置で、ILU型という0.1-2.5 MeV、40kWまでの装置が製作されており、1973-93の間に32基の製作実績がある。電気興業ではILU型に近い方式のElectronshowerという300-900keVの装置を製作する。また、RPC 社では2MeV、平均電流5mAの線形加速器を製作している。
 
 高エネルギー加速器では線形加速器が多くのメーカーより提供されている。フランスのThomson-CSFからはCIRCEという10MeV、20kWの装置が、ロシアのNIEFAから4-12MeV、15kWのUELV型、三菱重工からは10MeV、28kWのS-band線形加速器が、そして米国のTitan Scan System社はSurebeamという10MeV、10kWの加速器を備え、照射室やコンベア等からなる滅菌設備一式が提供されている。IBA社はロードトロンという、コンパクトで、10MeV、150kWという大出力が得られる新しい装置を開発した。ロードトロンは単一同軸空洞と偏向磁石を有効に使い、メートル波でビーム加速を行う装置で、連続波のビームが得られるのも特長である。図2はロードトロンの構造とビームの軌道を示す。


図3 Rhodotron加速器の構造とビーム軌道(原論文1より引用。  Reproduced from Waldemar Scharf, Wioletta Wieszczycka, Proc. AIP Conf. 475 (Pt.2, Application of Accelerators in Research and Industry), 949-952 (1999), FIGURE 28 (Data Source 1))



コメント    :
 放射線加工に用いられる電子加速器は、その利用目的に応じて、これまでに改良され、進歩してきた。その例は、低エネルギー装置における非走査型及び自己遮蔽式の登場、排煙処理に用いられる数100mAにも及ぶ大ビーム電流化、10MeV級加速器における新しいタイプの出現と大出力化などである。今後もその利用範囲の拡大や経済性の検討に伴い、性能の益々の向上や新しい方式の出現が期待される。

原論文1 Data source 1:
Electron Accelerators for Industrial Processing - a Review
Waldemar Scharf, Wioletta Wieszczycka
Warsow University of Technology
Proc. AIP Conf. 475 (Pt.2, Application of Accelerators in Research and Industry), 949-952 (1999)

原論文2 Data source 2:
高崎研1号加速器(デユアルビーム型、2MeV, 60 kW)の電子線出力特性
金沢孝夫、春山保幸、宇野定則、四本圭一、田中隆一、鷲野正光、吉田健三
日本原子力研究所高崎研究所
JAERI-M 86-005 (1986)

キーワード:粒子加速器,particle accelerator、電子加速器,electron accelerator、電子線electron beam、放射線加工,radiation processing、変圧器型加速器,transformer type accelerator、コッククロフト・ワルトン型加速器,Cockcroft-Walton type accelerator、線形加速器,linear accelerator、ロードトロン,Rhodotron
分類コード:040102, 040105

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