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作成: 2001/9/27 山内 良麿

データ番号   :040249
日本の大強度陽子加速器子による中性子科学研究
目的      :大強度陽子加速器を用いた中性子科学と基礎科学の研究とその応用
放射線の種別  :陽子,中性子,軽イオン,重イオン
放射線源    :陽子ライナック(常伝導400MeV、超伝導600MeV), シンクロトロン(3GeV,333μA,50GeV,15μA)
利用施設名   :日本原子力研究所/高エネルギー加速器研究機構 大強度陽子加速器プロジェクト
照射条件    :真空中、大気中
応用分野    :物質科学、生命科学、原子力開発、原子核・素粒子物理学

概要      :
 日本では現在、日本原子力研究所と高エネルギー加速器研究機構が共同で大強度陽子加速器プロジェクトを進めている。このプロジェクトは物質・生命科学の研究、長寿命原子核の核変換技術の開発、原子核・素粒子物理学の研究を目指している。

詳細説明    :
 
 生命科学、物質・材料研究や中性子核反応を用いた消滅処理による高レベル放射性廃棄物処理の高度化等を図るために、1998年 OECDのメガサイエンスフォーラムにおいて次世代の強力中性子源の必要性が提言されている。日本では、現在、日本原子力研究所と高エネルギー加速器研究機構が共同で、世界最強の核破砕パルス中性子源を実現させる大強度陽子加速器プロジェクトを進めており、2001年から加速器系の建設が始まった。
 
 このプロジェクトの物質・生命科学分野では、中性子散乱による物質構造解析、中性子核物理、材料照射、スポレーションRI科学、蛋白質の機能などを調べる生物科学等の研究が行われる。長寿命原子核の核変換技術の開発の分野では、加速器駆動未臨界システム(ADS)の技術開発を進める。そのため、1) 10W以下の陽子ビームを用いて、ADSで起こる物理現象を詳細に研究する核変換実験と、2) 200kW陽子ビームを用いて、鉛・ビスマス溶融合金ターゲットに関わる工学的な実験を目指す。さらに、原子核・素粒子物理学の分野では、K中間子ビーム、ニュートリノビームや反陽子ビームを用いた基礎物理学の大規模な研究を行う。
 
 加速器施設の構成は、陽子を加速するための400MeVの常伝導ライナック、さらに600MeVまで加速する超伝導ライナック、3GeV, 333μA シンクロトロン、および50GeV, 15μA シンクロトロンから成る。
 
 超伝導ライナックからのビームは核変換の基礎工学実験に用いられる。400MeVライナックを3GeVシンクロトロンの入射器として用い、このシンクロトロンからのビームは物質、生命科学実験施設に送られる。このビームの約1/20は、次の50GeVシンクロトロンに送られ、50GeVシンクロトロンからのビームは原子核・素粒子実験施設とニュートリノビーム生成ラインに導かれる。
 
 核破砕中性子源による中性子発生量は、大まかにいって陽子の入射エネルギーに比例する。また、発生数はターゲット物質の質量が大きいほど入射陽子1個あたりの中性子発生数は多い。鉛ターゲットを用いる場合、3GeV陽子1個当たりに発生する中性子数は50個程度であり、この3GeVシンクロトロンでは約1.2 x 1017n/sの中性子が発生する。このような高エネルギー大強度中性子場に耐えられる大強度パルス中性子源のターゲット材料としては、水銀等の液体金属が利用される。
 
 実験施設としては、物質・生命科学実験施設、ミュオン実験施設、核変換実験施設、原子核・素粒子実験施設、およびニュートリノ実験施設がある。このプロジェクトの施設は日本原子力研究所東海研究所の敷地内に設置される。建設計画は2期に分けて実施されるが、全体の建設費用は1890億円である。加速器系は、超伝導ライナックを除き、第1期計画で2006年度に完成の予定である。図1に大強度陽子加速器プロジェクト施設の概略を示す。図2は世界の陽子加速器の現状を示したもので、ビームエネルギーとビーム強度の積がビームパワーとなる。このプロジェクトでは現在の世界の先端加速器より1桁上の1MWの出力を目指している。


図1 大強度陽子加速器プロジェクトの施設概念図。第1期分の建設が2001年度から始まった。(原論文3より引用。  永宮正治、日本物理学会誌、Vol.56, No.10, 727-731 (2001), 図1( p.727))




図2 大強度陽子加速器プロジェクトの全体像(原論文3より引用。  永宮正治、日本物理学会誌、Vol.56, No.10, 727-731 (2001), 図2( p.727))



コメント    :
 中性子科学研究に関して、米国オークリッジ国立研究所ではSNS(Spallation Neutron Source)施設の建設がすでに始まっており、ヨーロッパでもESS(European Spallation Source)計画があるが、本プロジェクトによる大強度陽子加速器研究施設は世界でも最有力なものとなり、今後広範囲の学際研究に飛躍的な成果が期待される。

原論文1 Data source 1:
REVIEW OF RESEARCH AND DEVELOPMENT OF ACCELERATOR-DRIVEN SYSTEM IN JAPAN FOR TRANSMUTATION OF LONG-LIVED NUCLIDES
T.MUKAIYAMA, T.TAKIZUKA, M.MIZUMOTO, Y.IKEDA, T.OGAWA, A.HASEGAWA, H.TAKADA and H.TAKANO
JAPAN ATOMIC ENERGY RESEARCH INSTITUTE, Tokai-mura, Ibaraki-ken319-1195, JAPAN
Progress in Nuclear Energy, Vol.38, No.1-2, p107-134, 2001

原論文2 Data source 2:
大強度陽子加速器プロジェクト
永宮正治
高エネルギー加速器研究機構、305-0801 つくば市大穂1-1
日本原子力学会誌、Vol.43, No.8 (2001) p740

原論文3 Data source 3:
特集「大強度陽子加速器プロジェクト」
永宮正治
高エネルギー加速器研究機構、305-0801 つくば市大穂1-1
日本物理学会誌、Vol.56, No.10 (2001) p727

原論文4 Data source 4:
中性子科学研究計画における研究施設
中性子科学研究計画施設検討グループ
日本原子力研究所
JAERI-Tech 99-30

原論文5 Data source 5:
中性子科学研究計画における研究開発
中性子科学研究センター
日本原子力研究所
JAERI-Tech 99-31

キーワード:中性子科学、ライナック、シンクロトロン、物質科学、生命科学、核変換、核破砕中性子源、素粒子物理学、原子核物理学、大強度陽子加速器プロジェクト
neutron science, linac, synchrotron, materials science, life science, transmutation, spallation neutron source, elementary particle physics, nuclear physics, High-Intensity Proton Accelerator Project
分類コード:

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