核熱による水素の製造

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作成： 2001/10/03 山内　良麿データ番号　　　：040248 核熱による水素の製造目的　　　　　　：核熱による水素製造の研究開発とその応用放射線の種別　　：中性子放射線源　　　　：原子炉(30MW) 利用施設名　　　：日本原子力研究所高温工学試験研究炉(HTTR) 応用分野　　　　：炉物理、核物理、放射線計測、放射線化学、工業化学概要　　　　　　：　原子炉の熱（核熱）を利用した水素の製造に関して、高温ガス炉水蒸気改質法および高温ガス炉IS (Iodine-Sulfur) プロセス法の開発研究が行われている。これまで工業的に行われている水素製造法とこれら高温ガス炉の2つの方法による水素製造コストを比較して見ると、高温ガス炉水蒸気改質法による水素製造が幾分有利である。さらに、二酸化炭素の処理処分費を考慮すると、高温ガス炉ISプロセス法による水素製造が最も有利になる。詳細説明　　　　：　　水素は、燃焼生成物が水だけであるため、極めてクリーンな燃料である。自然界では、水素はH₂O あるいはC_nH_m 等の形で存在するので、水素を得るためには、何らかのエネルギーを用いてO-H 結合あるいはC-H 結合等を切断する必要がある。天然ガスの水蒸気改質法では化学反応が吸熱反応であるために外部から熱を加える必要があり、水の直接熱分解では4036゜C 以上の温度で反応が起こる。図1に代表的な水素製造法の一覧を示す。図1　主な水素製造法のエネルギー源及び熱力学定数.（原論文1より引用。　宮本喜晟、小川益郎、秋野詔夫、椎名保顕、稲垣嘉之、水素エネルギー研究の現状と高温ガス炉水素製造システムの将来展望、JAERI-Review 2001-006 (2001), Table 2.3.1 (p.11)）　核熱による水素製造の方法としては、原子炉熱を利用した化石燃料の水蒸気改質法、原子炉熱と水の高温熱化学分解法を組み合わせる熱化学法等がある。　　天然ガスの水蒸気改質法による水素製造システムは工業的に利用されている成熟した技術であり、日本原子力研究所(原研)の高温工学試験研究炉(HTTR)において、この技術を用いた核熱による水素製造法の研究開発が計画されている。この計画の一環として原研において炉外技術開発試験装置を建設中である。工業的に行われている天然ガスの水蒸気改質法では、化石燃料の燃焼熱を熱源として利用しているのに対して、高温ガス炉(HTGR)水素製造システムでは、原子炉から供給される高温ヘリウムガスが熱源となる。高温ガス炉の核熱を利用する水素製造については、国外では、ユーリッヒ研究所のEVA-ADAMⅡで試験が行われている。　　さらに、炭酸ガスも発生しないように、水を原子力によるエネルギーを用いて分解して、水素を製造するプロセスを確立することができれば、非常にクリーンなエネルギーシステムの構築が可能となる。熱化学水素製造法は、複数の化学反応を組み合わせることにより、高温ガス炉などから得られる1000゜C 付近の熱のみを用いて、水分解を行う方法である。　　現在、原研においてISプロセス法の研究開発が進められている。この方法ではブンゼン反応、硫酸分解反応、ヨウ化水素分解反応を組み合わせることにより、水を分解して水素を製造する。ISプロセスによる大規模な水素製造を実現するには、高い熱効率の得られる操作条件の下で閉サイクル連続運転を行う技術、および腐食性の強いプロセス環境に耐える装置材料が必要であり、その上、高温ガス炉発電による電力価格を現軽水炉の2/3程度にすることが要求される。　　核熱による水素製造法に関しては、技術的な問題の他に製造コストが重要なファクターとなる。現在、メタンを原料とする水蒸気改質法によって製造された水素が最も安価である。化石燃料燃焼水蒸気改質法、水電気分解法、高温ガス炉水蒸気改質法、および高温ガス炉ISプロセス法の4つの方法について算出した水素製造価格(円/m³)は、化石燃料燃焼水蒸気改質法で10.000、水電気分解法で24.465、高温ガス炉水蒸気改質法で8.893、高温ガス炉ISプロセス法で14.797である。エネルギー費、原料費、資本費等を含めた比価格を図2に示す。図2　水素製造価格概算値の算出結果.（原論文1より引用。　　宮本喜晟、小川益郎、秋野詔夫、椎名保顕、稲垣嘉之、水素エネルギー研究の現状と高温ガス炉水素製造システムの将来展望、JAERI-Review 2001-006 (2001), Fig.5.2.2 (p.72)）　算出に用いた前提条件の下では、高温ガス炉水蒸気改質法による水素製造価格は化石燃料燃焼方式を幾分凌ぐ。これらの価格には二酸化炭素の処理処分の費用は組み込まれていない。二酸化炭素処理費を考慮した場合の価格(円/m³)は、化石燃料燃焼水蒸気改質法で22.619、水電気分解法で24.465、高温ガス炉(HTGR)水蒸気改質法で18.829、高温ガス炉ISプロセス法で14.797となる。高温ガス炉水蒸気改質法およびISプロセス法ともに化石燃料燃焼水蒸気改質法および水電気分解法に優る結果となっている。コメント　　　　：　水素エネルギーは、地球温暖化などの環境問題を考慮すれば、燃料電池自動車の燃料などのクリーンなエネルギーとして今後一層需要が増えることが予想され、安価で安定した供給が望まれる。高温ガス炉の核熱による水素製造では、高温ガス炉発電による電力価格を現軽水炉の2/3程度にすることが要求される上、酸の沸騰を取り扱う最も厳しい腐食環境に耐える装置材料を用いる製造システムの構築等、その実用化にはまだ多くの開発研究が必要である。原論文１ Data source 1：水素エネルギー研究の現状と高温ガス炉水素製造システムの将来展望宮本喜晟、小川益郎、秋野詔夫、椎名保顕、稲垣嘉之日本原子力研究所大洗研究所核熱利用研究部、茨城県東茨城郡大洗町成田町新堀3607 JAERI-Review 2001-006 原論文２ Data source 2： Design of Stream Reforming System to be Connected to the HTTR K. Hada Japan Atomic Energy Research Institute JAERI-Conf 96-010, 229 (1996) 原論文３ Data source 3：原子力による水素の生産堀　雅夫原子力システム研究懇話会日本原子力学会誌 Vol.43, No.10, p964-968 (2001) 原論文４ Data source 4： Thermochemical Water Splitting through Direct HI-Decomposition from H₂O/HI/I₂ Solutions M.Roth and K.F.Knoche Aachen Institute of Technology Int.J.Hydrogen Energy, Vol.14, 545 (1989) キーワード：水素、水素エネルギー、水素製造、製造コスト、高温ガス炉、燃料電池自動車、水蒸気改質法、熱化学分解法、hydrogen, hydrogen energy, hydrogen production, production cost, high temperature gas-cooled reactor, fuel cell car, streamreforming, thermochemical splitting 分類コード：040103, 040301
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