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作成: 2001/10/12 小林育夫

データ番号   :040247
光刺激ルミネセンス線量計(OSLD)
目的      :個人線量計
放射線の種別  :エックス線,ベータ線,ガンマ線
放射線源    :X線及びγ線(5keV〜10MeV)、β線(150keV〜10MeV)
線量(率)   :X・γ線(0.01mSv〜10Sv)、β線(0.1mSv〜10Sv)
応用分野    :個人線量測定、環境線量測定、X線装置の品質管理

概要      :
 ある種の物質(例えば、酸化アルミニウム)に放射線を照射した後、波長の長い光(〜530nm)を照射すると発光する場合がある。光刺激ルミネッセンス線量計は、このような発光現象を利用しており、発光量は物質が受けた放射線量と発光を誘導するために照射した光の量に関係している。レーザー等の技術革新により、放射線作業従事者の個人被ばく線量計に応用できるようになった。

詳細説明    :
 
 ある種の物質に放射線を照射すると発光することがある。放射線の照射を停止するとこの光は徐々に弱まるが、消える前により波長の長い光を照射することで再び発光を始めることがある。この現象を輝尽発光と言う。光刺激ルミネセンス線量計はこの輝尽発光を応用した線量計である。この原理を簡単に説明すると下図のようになる。


図1 輝尽発光の原理


 物質に放射線を照射すると励起や電離が起きる。自由電子はConduction band(伝導帯)に移動し、生成したホールは発光中心となる原子へ移動する。自由電子は発光中心と直ぐに再結合し光を発する。しかし一定の割合の自由電子は格子欠陥や不純物などにトラップされてFセンター(カラーセンター)を形成する。
 
 放射線の照射が終了した後、この物質に光を照射することによりFセンターの電子は開放され発光中心と再結合して発光現象が起きる。ここでの発光量が被ばくした放射線の線量と比例関係があることから、線量測定が可能となっている。線量の読み取りによりFセンターは徐々に減少するが、刺激光の光量を制御することにより同一素子の複数回の繰り返し測定が可能である。
 
 この現象を用いた線量計の素材としては炭素添加α酸化アルミニウム(α−Al2O3:C)が広く用いられている。α−Al2O3:Cの母体はサファイアとして良く知られた物質で物理・化学的に非常に安定な物質である。放射線以外の刺激による発光現象を持たず、線量測定に適した物質であり、放射線の照射により青色(420nm)の発光現象が観測される。
 
 またα−Al2O3:Cは可視光線による強いフェーディング特性を持っているため、輝度の大きな可視光源を用いることにより容易に線量計の初期化(アニーリング)が行える。α−Al2O3:Cは光子に対してエネルギー特性の小さな物質であるが、線量計として使用する際は、エネルギー補償用の金属フィルター(錫、銅など)を用いエネルギー特性の改善を行っている。下図にバッジとフィルターのサンプルを示す。バッジは、素子に直接光が当るとフェーディングを起こすため、これを防ぐ目的で遮光紙で覆われている。
 
 この遮光紙の破損等を防ぐためにバッジ本体は、プラスチック製の透明な容器に収められている。遮光紙の中には、素子とフィルターが入っている。このフィルターの組合せ例では0.5mm厚の錫、0.2mm厚の銅、β線測定用のフィルターの無い部分、及び画像解析用の穴明きの銅フィルターを持っている。素子はα−Al2O3:Cの粉体を透明のプラスチックシートに塗布した物を用いている。


図2 実用化されているバッジの例


 現在、実用化されている線量読み取り装置は、刺激用の光源として超高輝度緑色LED、CW-Green Laser、Nd:YAG Laser(532nm)などの緑色の光が用いられている。α−Al2O3:Cに刺激光を照射し得られた青色の発光を適切なband-passフィルターとband-cutフィルターを組み合わせる事により刺激光と分離し、青色の発光量のみを光電子増倍管で検出し読み取り装置に付属するPCでデータ処理を行い放射線の線量に変換している。
 
 この線量計のもう一つの特徴として画像データの取得が上げられる。バッジに組み込まれた画像データ取得用フィルターにおける放射線の吸収差を専用読取装置で読み取ることにより、バッジに吸収された放射線の3次元画像を出力することが可能となっている。
 
 画像データにおいて山の部分は素子に対する放射線の吸収量の多い部分を示し、谷の部分は吸収量の少ない部分を示す。下のサンプル画像(a)のように入射方向の明確な一次X線では、フィルターの穴の部分に明瞭な山形が見られるが、サンプル画像(b)のような方向性のない散乱線では明瞭な山形が見られない。これらの画像を取得することによりバッジ着用者の被ばく線量のみならず、作業状態の推定までもが可能となっている。

コメント    :
 輝尽発光(Optically Stimulated Luminescence)現象は古くから良く知られていた。線量計への応用の試みは1950年代から行われてきたが、十分な検出感度が得られなかった。近年のレーザー技術を始めとする単色で密度の高い光源が得られたことと、パルス方式の高感度光電子増倍管が実用化されたことで一気に検出感度と測定精度が向上し、個人被ばく線量計として実用化された。他に、個人線量計としては熱ルミネッセンス線量計(TLD)や蛍光ガラス線量計などが使われている。

原論文1 Data source 1:
輝尽性ルミネッセンス現象を利用した先端放射線計測
南戸秀仁
金沢工業大学 高度材料科学研究開発センター
放射線,Vol.24(No.1),97-106(1998)

原論文2 Data source 2:
Radiation dosimetry using pulsed optically stimulation luminescence of Al2O3:C
S.W.S. McKeever and M.S. Akselrod
Oklahoma State University
Radiation Protection Dosimetry, Vol.84,Nos. 1-4, 317-320(1999)

原論文3 Data source 3:
Optically stimulated luminescence dosimetry using natural and synthetic materials
L.Botter-Jensen and S.W.S. McKeever
Riso National Laboratory DK, Oklahoma State University
Radiation Protection Dosimetry, Vol.65,Nos. 1-4, 273-280(1996)

原論文4 Data source 4:
個人線量計が替わる
寿籐紀道,小林育夫,村上博幸
(株)千代田テクノル,長瀬ランダウア(株),日本原子力研究所
保健物理,36(1),95-100(2001)

参考資料1 Reference 1:
OSL線量計の諸特性
鈴木朗史,伊藤精
長瀬ランダウア(株),日本原子力研究所
JAERI-Tech, 2000-089, 1-30(2001)

参考資料2 Reference 2:
新しい個人被ばく線量測定素子
野村貴美
東京大学
Isotope News, Apr,'00 No.551, 27-31(2000)

参考資料3 Reference 3:
OSL線量計
(財)原子力安全技術センター
(財)原子力安全技術センター
被ばく線量の測定・評価マニュアル2000, 60-63(2000)

参考資料4 Reference 4:
Optically stimulation luminescence of Al2O3
M.S. Akselrod, A. C. Lucas, J. C. Polf, and S.W.S. McKeever
Oklahoma State University, Stillwater Sciences LLC
Radiation Measurements Vol.29, No.3-4,391-399(1998)

参考資料5 Reference 5:
Pulsed optically stimulated luminescence fromα-Al2O3:C using green light emitting diodes
E. Bulur, H. Y. Goksu
GSF Forschungszentrum fur Umwelt und Gesundheit
Radiation Measurements Vol.27, No.3,479-488(1997)

参考資料6 Reference 6:
A procedure for the distinction between static and dynamic radiation exposures of personal radiation badge using pulsed optically stimulated luminescence
M.S. Akselrod, N. Agresnap Larsen, S.W. McKeever
 
Radiation Measurements Vol.32, 215-225 (2000)

キーワード:光刺激ルミネセンス、個人線量計、個人線量測定、環境線量測定、レーザー、輝尽発光、酸化アルミニウム、蛍光中心、ダイオードポンプト緑色レーザー
Optically Stimulated Luminescence, personal dosimeter, personal dose monitoring
, environment dose monitoring, Laser, photo-stimulated luminescence, Aluminum Oxide, F center, CW-Green Laser
分類コード:040302

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