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作成: 2002/02/11 加藤和明

データ番号   :040246
ICRPの役割とICRP90年勧告
目的      :国際放射線防護委員会(ICRP)と役割
放射線の種別  :エックス線,アルファ線,ベータ線,ガンマ線,電子,陽電子,陽子,中性子,軽イオン,重イオン,中性粒子,中間子
放射線源    :放射性同位元素、核燃料物質、X線発生装置、放射線発生装置、原子炉、核融合実験装置、天然放射性物質、自然放射線、医療放射線、核兵器、災害事故、ICRP、勧告、放射線防護

概要      :
 放射線防護の体系は、線量計量(radiation dosimetry)と線量制限(dose limitation)という二つのサブシステムから成り立っており、これらの任務を担う二つの国際委員会が設立されている。放射線線量の体系作りを担う、ICRU(国際放射線単位測定委員会)と、線量制限の体系作りを担うICRP(国際放射線防護委員会)である。ICRPの役割は、「放射線防護の世界標準システム」の創出と関係機関への勧告助言である。日本は90年勧告を放射線障害防止法に取り入れ2001年4月に施行した。

詳細説明    :
 
1.ICRPとその役割
 
 放射線防護の体系は、放射線計量(radiation dosimetry)のシステムと線量制限(dose limitation)のシステムという二つのサブシステムから成り立っている。
 
 レントゲン(W.C.Roentgen)による1895年のX線発見後、間を置かずに始まった医学利用で放射線障害の発生が見られ、色々の国で試行錯誤的に独自の対策がとられて来たが、1925年に開かれた放射線医学国際会議(International Congress of Radiology:ICR)で国際基準制定の必要性が討議され、1928年に上記二つのサブシステム作成の任務を負う二つの国際委員会が設立された。
 
 一つは放射線計量の体系つくりを担うもので、現在「ICRU(国際放射線単位測定委員会)」と呼ばれており、もう一つは線量制限の体系つくりを担うもので、現在「ICRP(国際放射線防護委員会)」と呼ばれている。当初は「国際X線・ラジウム防護委員会」と呼ばれたが、活動を休止していた先の世界大戦後の1950年に組織を再編成するとともに名称を「国際放射線防護委員会」に変更して今日に至っている。
 
 ICRPは、法的には任意団体(としての特定の学者の集まり)であり、今風に言えばNPOそのものである。[本部・事務局のおかれているイギリス(連合王国)では「独立した慈善団体(charity)」として登録されているそうである]が、建前としては今日でもICRの下部機関ということになっている。しかし、医療放射線の防護という枠組みを越えて、対象を電離放射線防護に係る全分野に拡大している。
 
 放射線防護の目標や方策、それを具現化したシステムの構築、管理基準値やシステム運用に必要な各種データの勧告・推奨といった仕事は、科学や技術に関わる知見に加えて政治的判断を必要とし、これらは主委員会と訳されるMain Commissionが荷っている。主委員会は会長(委員長)と12人以下の委員から構成されている。ICRPの意思決定はこの委員たちによる多数決で行われる。
 
 主委員会の下には、科学的素材を収集検討する四つの委員会(Committees)が置かれていて、委員の数はそれぞれ15から20である。主委員会の委員はICRの承認を受けることを前提に主委員会自身が選出しており、下部委員会の委員は主委員会が選任している。委員の任期は主委員会、下部委員会ともに4年とされている。  
 
 現在のメンバーの任期は2001年7月1日から2005年6月30日であり、会長は Roger H. Clarke(英国)である。我が国からは主委員会と4委員会それぞれに1人ずつ委員として参加している[主委員会:佐々木康人、第1委員会:丹羽太貫、第2委員会:稲葉次郎、第3委員会:平岡真寛、第4委員会:小佐古敏荘]。
 
 ICRPの運営は、出版物販売等のICRP自身の活動による収入のほか、IAEA(国際原子力機関)、ILO(国際労働機関)、WHO(世界保健機構)、など放射線防護に関心を持つ国際機関や主要国の国内関連機関からの自発的寄付金によって賄われている。日本の委員の活動には、(財)放射線影響協会が財政的援助を行っていて会議出席の全旅費と滞在費[主委員会は年1-2回、各委員会は毎年1回、世界各地で会合を持つ]を負担している。
 
 ICRPの役割は、一口に言えば「放射線防護の世界標準システム」の創出と関係機関への勧告・助言である。法的には、先述のように、ICRPは「特定の学者の集団」という任意団体に過ぎず、各国政府にはその勧告を受け入れる義務はない。しかし、その勧告は結果的に世界の主要国がその法体系整備の基準としてきていて、事実上の世界標準となっている。このため、政治的国際機関である国連の下部機関IAEAでは、ICRPの勧告内容を後追いで「(放射線)基本安全基準(Basic Safety Standards)」として規定し、各国政府の行政を支援している。
 
 我が国の放射線防護の方策は、現在、原子力の傘の下に組み込まれて法令化されている。2001年の省庁再編以前は、放射線審議会がこの方策決定に重要な役割を果たしてきたが、そこではICRP勧告の遵守が基本方針とされ、結果として我が国はICRPの最優等生との国際的評価を得ている。
 
 
2.現行基本勧告(90年勧告)
 
 ICRPは放射線防護に関係する諸学問の進歩に絶えず注意を払い、収集した最新のデータ、情報を基礎にして数年毎に放射線防護の方策・基準に関する勧告を行ってきた。
 
 我が国の中心的法令である放射線障害防止法は1957年(昭和32年)に制定されたが、そのとき参照したのは、当時draftとしてその内容を把握していた1958年勧告であった。
 
 ICRPはこの後1965年、1977年、1990年の各年に基本勧告の改定を行っている。この基本勧告取り入れに伴う法改正への検討はその都度なされてきたが、65年勧告については検討の途中で次の77年勧告のdraftが入ってきたため見送りとなり、1989年(平成元年)に77年勧告取り入れの法改正がなされた。
 
 そして1991年3月に刊行された90年勧告取り入れの法改正は、平成12年(2000年)度中になされ(放射線障害防止法は10月23日付官報で告示)、翌2001年の4月に施行されたのであった。尚、Clarke会長によると2005年頃に基本勧告の次期改定を予定しているとのことである。
 
 ICRP基本勧告骨子の推移を図に示す。
 
 90年勧告の最重要な変更点は、防護システム構築にそれまで用いてきた基本量、線量当量と実効線量当量を、数値的には特別の場合を除き殆ど違いがないが、概念規定の異なる新量である、等価線量と実効線量に変更したことと、職業被曝と公衆被曝に対する実効線量の年限度を、それまでの実効線量当量にしてそれぞれ年50ミリシーベルト、5ミリシーベルトから年平均20ミリシーベルト(50ミリシーベルト/年、100ミリシーベルト/5年)、年1ミリシーベルトに変更したこと、妊娠従事者に対する腹部等価線量限度を申告後の妊娠期間中10ミリシーベルトから2ミリシーベルトに変更したこと、などである。
 
 ICRPは従来、制御可能な被曝のみを対象としており、その姿勢は90年勧告でも貫かれているが、人間が活動の場を宇宙にまで広げたり人間が自然に手を加えた結果出現した、特殊な自然放射線環境での被曝や、チェルノブイリ事故の経験から緊急作業時の被曝も放射線防護システムの対象に含めるべきであるという考えが示され、線量拘束値とか潜在被曝といった新概念の導入もなされている。その膨大な内容をここで簡単に紹介することは無理なので、関心のある向きは現物(邦訳あり)なり解説書を参照して欲しい。


図1  ICRP基本勧告の推移(加藤和明 作成)



キーワード:国際放射線防護委員会、線量限度
radiation protection system, controlling criteria, radiation safety
分類コード:040107, 040207, 040302

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