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作成: 2002/02/25 鈴木健訓

データ番号   :040245
環境放射線測定サーベイメータ
目的      :環境放射線の測定、放射線施設の放射線安全の確認
放射線の種別  :エックス線,ベータ線,ガンマ線
線量(率)   :環境レベルから高放射線レベルの放射線量(率)(0.1μSv/h〜mSv/h)
利用施設名   :放射線施設(原子力施設、放射性同位元素使用施設、加速器施設)
応用分野    :環境放射線測定、放射線安全管理

概要      :
 放射線障害防止法では、管理区域内の人の常時立ち入る場所における1週間の実効線量限度、管理区域境界や事業所境界における3ヶ月間の実効線量限度を定めている。法の定める線量限度を満たしていることを確認し、放射線安全を確保するために、定期的に作業室、管理区域境界、事業所境界などの放射線線量(率)を測定する必要がある。このような測定のために、小型で軽量な放射線サーベイメータが製作され、市販されている。

詳細説明    :
 
 放射線は、直接、感じたり見たりすることができないため、電離、励起、化学変化などの放射線と物質との相互作用を利用して、電気信号に変換したり、飛跡を描いたりして目に見えるようにする必要がある(表1)。
 
 放射線作業場所や管理区域境界における放射線の測定では、気体や固体の電離・励起現象を利用したサ−ベイメ−タが用いられている。サーベイメータを選ぶ場合、放射性同位元素使用施設や加速器施設などのように、扱う放射線の種類や測定する場所によって、観測される放射線場の強度、エネルギー、種類、時間変動などが異なってくるので、どのような測定を行なうか(例えば、空間線量率、空間積算線量、放射線源の解析など)を考える必要がある。
 
 作業環境の空間線量(率)測定では、一般に、電離箱式、GM計数管式、シンチレーション式のサーベイメータが使用されており、これらのエネルギー特性の一例を図1に示す。これらのサーベイメータは持ち運びできるように小さく、軽量に製作されており、目的に応じたサーベイメータを購入することができる。
 
 サーベイメータは、検出部(放射線と物質(空気やシンチレータなど)との相互作用により電子とイオン対を生成したり、また、励起により光を放出する)、回路部(電子や光を電気信号に変換する)、表示部(目盛盤付き指針やデジタル表示で放射線量を読み取る)から構成されている。


図1 サーベイメータのエネルギー特性の例(原論文2、JIS Z 4333:1990の解説図1「サーベイメーターのエネルギー特性の例」より引用)(原論文2より引用)


 電離箱式サーベイメータは、X線やガンマ線の測定に使用されており、高放射線場やパルス状の放射線場のモニタリングに適している。管理区域境界のような低線量率場を測定するためには、低線量率測定用電離箱式サーベイメータを使用する。
 
 電離箱式サーベイメータは、一般に、電離気体として空気を用いており、空気を閉じ込めている電離箱は密閉されている。X線やガンマ線が電離箱内に入射すると、空気を電離して、電子とイオン対を生成し、これらを電極に集めて電気信号に変換している。
 
 小さくて軽い電離箱サーベイメータを製作するため、容器の壁や窓は空気と等価な材料(実効的に空気と同じ原子番号を持つ材料)を用いている。入射窓の厚さを、放射線により作られる2次電子の飛程とほぼ等しい厚さにすると、電離箱内に放出される2次電子は最大になり、計数効率がよくなる。
 
 GM計数管式サ−ベイメ−タ(ガイガーカウンタ)はX線、ガンマ線、ベータ線などの測定に使われ、バックグラウンドのような低放射線場の測定から高線量率の場まで測定が可能である。放射線が入射してから次の放射線測定ができるようになるまでには数100マイクロ秒の回復時間がかかるため、この時間内に次の放射線がくるような場や高強度の放射線場では、数え落としが起こり、低い測定値を与えるので、注意を要する。また、高放射線場では窒息現象をおこし測定ができなくなる場合がある。高放射線場用のサーベイメータが市販されており、目的によって機種を選択する。
 
 GM計数管には、アルゴンやヘリウムなどの不活性ガスに少量のアルコールやメタンなどの有機ガス、あるいはハロゲンガスなどを混ぜた気体が封じ込められている。端窓型・円筒形GM計数管が一般的であり、入射窓はベータ線が測定できるようにマイカ(雲母、密度:〜2.7g/cm3)などの薄い材料(1.5〜3mg/cm2)で作られている。ガンマ線を測定する場合は、アルミニウムなどのキャップを入射窓に付けて、ベータ線を除くようにする。円筒形の中心に張った芯線を陽極、円筒管壁は陰極とし、放射線の電離で生成された電子を芯線に集めている。芯線付近では、加速された電子により、電子なだれ現象が起こり、信号が増幅される。
 
 シンチレーション式サーベイメ−タは、一般に、NaI(Tl)シンチレータが使用されており、他にCsI(Tl)などが使われる。吸湿性があり、アルミニウムなどの気密容器内に密閉して使用する。通常、X線やガンマ線の測定に使用され、バックグラウンドのような低線量率の場の測定に適している。NaI(Tl)は、活性化物質として少量のタリウム(Tl)をNaI結晶に添加して、光の波長をシフトし放出確率を高めている。
 
 X線やガンマ線が検出部のシンチレータに入射すると、主に、光電効果、コンプトン効果、電子対生成により電子を発生する。これらの電子による電離や励起を通して可視光を放出し、光電子増倍管(増幅率:〜106程度)で増幅して、大きな瞬間電流に変換している。この電流は、シンチレータの吸収したエネルギーに比例しており、光電子増倍管の信号を増幅器を通してマルチチャネルアナライザーに入力することによって、入射したX線やガンマ線のエネルギーを測定することが可能である。このエネルギーから、放射線を放出する放射能核種を同定することができる。
 
 放射線障害防止法では、管理区域境界の線量は1.3mSv/3ヶ月を超えてはならないと定めている。3ヶ月を500時間で考えると1時間あたり2.6μSvになる。事業所境界は250μSv/3ヶ月を超えてはならない。3ヶ月を91日(2184時間)で計算する。1時間あたり0.115μSvに相当する。作業場所では1週間1mSv以下であり、1週間40時間と考えると、1時間あたり25μSvになる。サーベイメータではこのような単位時間あたりの線量率を測定することが可能である。


図2 一般的サーベイメータの測定範囲



表1  放射線測定器の分類
(1) 気体の電離を利用した検出器
  (a) 電離箱、(b)GM計数管、(C)比例計数管
(2) 固体の電離を利用した検出器
  (a) 半導体検出器
(3) 発光現象を利用した検出器
  (a) シンチレーションカウンター、(b) 熱蛍光線量計(TLD)、
  (c)蛍光ガラス線量計(FDG)、     (d)光刺激蛍光線量計(OSLD)
(4) 化学的感光作用を利用した検出器
  (a) フィルムバッジ(FB)線量計


コメント    :
 
 大抵の放射線施設では、X線やガンマ線の放射線が対象になり、中性子線を発生する放射線施設はかなり限られている。ここで紹介したサーベイメータはX線やガンマ線、ベータ線を主に測定するものであり、他に、アルファ線や中性子線を測定するサーベイメータが市販されている。中性子サーベイメータはレムカウンタと呼ばれ、数多くの種類のレムカウンタが国内外で販売されている。X線やガンマ線の放射線サーベイメータとして半導体式サーベイメータも使用されるようになってきたが、販売されている機種は限られており、まだ、一般的にはなっていない。

原論文1 Data source 1:
空間線量測定マニュアル
日本保健物理学会線量測定マニュアル委員会
日本アイソトープ協会(2002)


原論文2 Data source 2:
X線及びγ線用線量当量率サーベイメータ JIS Z 4333 

日本規格協会
 

参考資料1 Reference 1:
被ばく線量の測定・評価マニャアル
被ばく線量の測定・評価方法のマニャアル策定調査委員会
原子力安全技術センター(2000年)


参考資料2 Reference 2:
放射線計測ハンドブック
G.F.Knoll著、木村逸郎・阪井英次訳
日刊工業新聞社(2001年)


参考資料3 Reference 3:
放射線測定技術
川島勝弘・山田勝彦
通商産業研究社刊(1997年)


参考資料4 Reference 4:
放射線管理のための計測ハンドブック
日本保健物理学会放射線防護計測専門研究会編集
日本保健物理学会(1995年)


参考資料5 Reference 5:
外部被ばくにおける線量当量の測定・評価マニュアル
線量当量の測定・評価委員会委員
原子力安全技術センター(2000年)


参考資料6 Reference 6:
外部被ばくモニタリング
外部被ばくモニタリング編集委員会
日本アイソトープ協会、丸善(1986年)


参考資料7 Reference 7:
外部被ばくにおける線量当量の測定・評価マニュアル
線量当量の測定・評価委員会委員
原子力安全技術センター(2000年)


参考資料8 Reference 8:
放射線概論
石川友清編
通商産業研究社刊(2001年)


キーワード:英語は半角で)
放射線、環境、線量、線量率、障害防止法、管理区域、事業所境界、被曝、サーベイメータ、GM、ガイガー、シンチレーション、電離箱
radiation, environment, dose, dose rate, law, controlled area, site boundary, Exposure, survey meter, GM, Geiger, Scintillation, ionization chamber
分類コード:040107, 040207,040306,040301,040302

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