放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 2002/2/25 鈴木健訓

データ番号   :040244
受動型積算線量計(受動型環境放射線測定器)
目的      :環境放射線の測定
利用施設名   :放射線施設(原子力施設、放射性同位元素使用施設、加速器施設)
応用分野    :環境放射線測定、放射線安全管理、個人被ばく線量測定

概要      :
 放射線障害防止法では、管理区域内の人の常時立ち入る場所における1週間の実効線量限度、管理区域境界や事業所境界における3ヶ月間の実効線量限度を定めている。1週間や3ヶ月の積算線量を求める方法として、(1)サ−ベイメ−タで測定し、施設の運転時間から計算で求める方法、(2)積算型放射線測定器を用いて連続的に測定し求める方法、がある。評価の精度を高めるためには、(2)の方法に従い、積算型測定器を管理区域境界や作業室内などに設置して、連続的に一定期間の積算線量を測定する必要がある。

詳細説明    :

 国際放射線防護委員会(ICRP)の1990年勧告に基づいて、2001年4月、放射線障害防止関係法令が改正施行された。改正された放射線障害防止法では、管理区域内の人の常時立ち入る場所における1週間の実効線量、管理区域境界や事業所境界における3ヶ月間の実効線量限度を定めており、各放射線事業所では、1週間、3ヶ月の積算線量を評価する必要がある。積算線量を求める方法として、(1)施設が使用されているとき、サ−ベイメ−タで測定し、施設の運転時間から計算で求める方法、(2)積算型放射線測定器を用いて、一定期間(例えば1週間とか1ヶ月)連続的に測定し求める方法とがある。
 
 測定値を使い計算で評価する場合、測定による最大値を用い、実際の運転時間より長い時間を採用し、安全側の評価を行なっている場合が多く、このような評価で法の定める線量限度を十分に満足している場合には問題はない。しかし、線量限度を超えそうな場合などは、評価の精度を高めるために、積算型放射線測定器で測定する必要がある。 
 
 積算線量は、個人線量計として使われている受動型線量計を作業場所や管理区域境界、事業所境界に設置し、定期的に回収して測定し、求めることができる。他に、高価な測定器ではあるが、エリアモニタなどの能動型線量計を設置して連続的に測定する方法もある。以下では、X線やガンマ線の積算線量を測定するのに使用される個人線量計(熱ルミネセンス線量計、蛍光ガラス線量計、光刺激ルミネセンス線量計)について説明する。
 
1. 熱ルミネセンス線量計(Thermo-Luminescence Dosimeter, TLD)
 
 バンドギャップの間に捕獲中心を持つ特殊な物質(例えば、少量の不純物を添加した結晶など)に放射線を照射すると、放射線により生成した自由電子とその正孔が、これらの捕獲中心にトラップされて安定に存在する。このような放射線照射を受けた物質を加熱すると、加熱する温度に依存した発光スペクトルが得られ、その強度は照射量に相関している。TLDは、このような熱によるルミネセンスを利用した測定器である。一度加熱されたTLD素子からは、発光源となる電子・正孔対が消滅し、再び線量計として使用することができる。図1にエネルギー特性とフェーディング特性の一例を示す。要求される特性は日本工業規格JIS Z 4320に詳しい。


図1  市販されているTLDのエネルギーとフェーディング特性の一例(原論文1より引用)


2. 蛍光ガラス線量計(Fluoro-Glass Dosimeter, FGD)
 
 ガラス(例、銀活性リン酸塩ガラス)やプラスチックなどの材料に放射線を照射すると、放射線と物質との相互作用により、局所的な電子準位が生じ、蛍光中心が生成する。これらの蛍光中心に紫外線を照射すると、放射線の照射量に比例した蛍光を発する。この蛍光量は放射線の照射量に関係しており、蛍光量の測定から線量計の受けた放射線量を求めることができる。また、蛍光中心は長時間残っているため、繰り返し放射線量を読み取ることが可能である。放射線照射を受けた線量計や使用するまでに長期間経過した線量計には、蛍光中心が残るので、使用前にあらかじめどれだけ蛍光中心があるか測定しておく必要がある。図2に特性を示す。要求される特性についてはJIS Z 4314を参照。


図2  市販されているガラス線量計のエネルギーとフェーディング特性の一例(原論文1より引用)


3. 光刺激ルミネセンス線量計(Optically Stimulated Luminescence Dosimeter, OSLD) 
 
 放射線で物質を照射すると、電離作用で電子が励起される。物質中に不純物や欠陥があると、励起された電子は物質中を移動するうちにこれらの不純物や欠陥に捕捉される。光を照射すると、捕捉された電子が再び励起され、物質中を移動するうちに、不純物に捕捉されていた正孔と再結合し光を放出する。放出される光の量は、吸収した放射線量と、光刺激のために使用した光の量に比例するので、前もってこれらの関係を求めておくと、環境から受けた放射線量の測定が可能になる。OSLDの蛍光材として、酸化アルミニウムに炭素を添加した材料(Al2O3:C)が使われている。図3に特性を示す。


図3  市販されているOSLDのエネルギーとフェーディング特性の一例(原論文1より引用)


 放射線障害防止法では、管理区域境界の線量は1.3mSv/3ヶ月を超えてはならないと定めている。3ヶ月を500時間で考えると1時間あたり2.6μSvになる。事業所境界は250μSv/3ヶ月を超えてはならない。3ヶ月を91日(2184時間)で計算すると、1時間あたり0.115μSvに相当する。作業場所では1週間1mSv以下であり、1週間40時間と考えると、1時間あたり25μSvになる。これらの3ヶ月や1週間の線量限度を確認するために、適当な期間(数日〜1ヶ月)、事業所境界や作業場所等の適当な場所に積算線量計を設置し、1週間や3ヶ月に換算し、積算線量を求める。

コメント    :
 上記の個人線量計は、個人線量計を販売するいくつかの会社の測定サービスが受けられるので、使用者が直接測定する必要はない。最近では半導体を用いた電子式の積算線量計が環境測定用として市販されており、小型・軽量な測定器で、積算線量を簡便に随時直読できる。エリアモニタよりは規模は小さいが、同等な機能(PCに取り込み連続的に記録されたデータを処理することが可能、半年の連続運転など)が期待できる。X、γ線の測定以外に、中性子を発生する施設では中性子積算線量を測定する必要がある。中性子個人線量計として使用されている固体飛跡検出器(CR39が主)を用いて上記と同様に測定することが可能である。

原論文1 Data source 1:
空間線量測定マニュアル
日本保健物理学会線量測定マニュアル委員会
日本アイソトープ協会(2002)


参考資料1 Reference 1:
被ばく線量の測定・評価マニュアル
被ばく線量の測定・評価方法のマニュアル策定調査委員会
原子力安全技術センター(2000年)


参考資料2 Reference 2:
放射線による固体現象と線量測定
藤村亮一郎・山下忠興
養賢堂(1985年)


参考資料3 Reference 3:
放射線計測ハンドブック
G.F.Knoll著、木村逸郎・阪井英次訳
日刊工業新聞社(2001年)


参考資料4 Reference 4:
放射線測定技術
川島勝弘・山田勝彦
通商産業研究社刊(1997年)


参考資料5 Reference 5:
放射線管理のための計測ハンドブック
日本保健物理学会放射線防護計測専門研究会編集
日本保健物理学会(1995年)


参考資料6 Reference 6:
外部被ばくにおける線量当量の測定・評価マニュアル
線量当量の測定・評価委員会委員
原子力安全技術センター(1988年)


参考資料7 Reference 7:
外部被ばくモニタリング
外部被ばくモニタリング編集委員会
日本アイソトープ協会、丸善(1986年)


参考資料8 Reference 8:
外部被ばくにおける線量当量の測定・評価マニュアル
線量当量の測定・評価委員会委員
原子力安全技術センター(2000年)


参考資料9 Reference 9:
放射線概論
石川友清編
通商産業研究社刊(2001年)


キーワード:英語は半角で)
放射線、環境、積算、線量計、障害防止法、管理区域、事業所境界、被曝、ガラス、TLD、OSLD、ルミネセンス、光
Radiation, environment, integrated, dosimeter, protection law, controlled area, site boundary, Exposure, glass, TLD, OSLD, Luminescence, light
分類コード:040107, 040207,040306,040301,040302

放射線利用技術データベースのメインページへ