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作成: 2001/12/25 山寺 亮

データ番号   :040242
イメージングプレートを利用する表面汚染等の検出
目的      :表面汚染の測定
放射線の種別  :エックス線,アルファ線,ベータ線,ガンマ線
放射線源    :汚染を引き起こす放射線源の全て
フルエンス(率):0.1〜10,000/(cm2・s)
線量(率)   :0.03μSv/h〜1mSv/h
利用施設名   :全ての放射線施設
応用分野    :放射線管理、放射線測定、汚染検査

概要      :
 イメージングプレート(IP)によって物の表面の放射能汚染分布を測定しその放射能密度を算出したり、汚染箇所を的確におさえ効率よく除染するすることが可能である。特にトリチウムのような弱いβ線放射体を、IPを汚染することなく、効率よく測定する技術が開発されている。

詳細説明    :
 
 IPの利用には、放射線の分布の測定と線量測定とがある。後者はIPのフェーディングの問題、放射線種の弁別ができない等の問題があって限られた条件下での使用にとどまっているのが現状である。前者は、ある物の表面が汚染しているかどうか、汚染の広がりはどこまでかを調べるもので、オートラジオグラフィーなどの分野で幅広く使用されている
 
 表面汚染測定の手順は以下のようにして行われる。
 
1)測定したい試料とIPを密着させる。富士写真フィルム社から市販されているIPには保護膜があるURタイプと、トリチウムのように弱いβ線を出すものを測定するための保護膜のないTRタイプがある。極微量の汚染を検出するにはIPとの接触時間を長くすればよい。 
 
2)イメージスキャナ(富士写真フィルム社製)でIPに記録された放射線画像を読み込む。
 
3)専用の画像解析ソフトによって汚染の分布は2次元画像として得られ、汚染箇所の放射能は濃淡で表示される。濃淡はPSL値(イメージスキャナーで取り込んだ画像の濃淡を数値として表したもの)として求めることができるようになっている。
 
 放射線管理に利用されている例として多断層PETの表面汚染の除去にIPを用いた例がある。放射線検出器に囲まれたガントリー内でGM検出器で150cpm程度の汚染が見つかった。 
 汚染箇所にIP(BASーUR、商品)を貼り付けて12時間放置したところ、点状の汚染が発見され、その場所も正確に特定できた。その部分に接着剤を塗布して汚染を固定した後、カッターナイフで5mm角に切断して汚染を完全に除去できた。高価なPET本体を大きく傷つけることなく、分解することもなく、短時間で汚染除去ができた。
 
 放射線検出器の遮蔽用の鉛ブロックにGM検出器では測定できないくらいの低レベルの汚染があればGe検出器の遮蔽に用いると長時間測定ではピークが出てきてじゃまになる。このような汚染でも、IPと12時間もコンタクトさせると汚染の場所とその広がりをはっきり画像化でき、最適な除染方法を採用して除染することができる。
 
 汚染物に複数のIPを重ねて現像し、それぞれのIPで得られたPSL値の減弱の度合いから核種の同定を試みた例がある。当該施設で使用される核種は限られている。そのような核種の中からパターンにあった核種を同定することは容易である。
 
 図1は各種の線源に対し1枚目のIPに対するm枚目のPSL値の比をプロットしたものである。60Coはエネルギーの低いβ線(0.318MeV)と高いγ線(1.173、1.332MeV)を放出する。1枚目のIPではβ線も検出しているが、2枚目のIPには届かない。2枚目以降で検出にかかるのはγ線のみで、しかもエネルギーが高いので5枚目までほとんど減弱が起きていない。  
 
 このように、減弱のパターンから核種を同定することができる。また、1枚のIPを数回スキャンして読み取った汚染箇所のPSL値の減少の度合いから、核種を同定する試みもなされている。


図1  Several sheets lamination method; relative (PSL) intensity at each layer, exposed to various radioactive sources. (Reproduced from C.Mori, A.Matsumura, T.Suzuki, H.Miyahara, T.Aoyama, K.Nishizawa, Nucl. Instr.Meth. Phys. Res., A339, 278-281 (1994), Figure 5 (Data Source 3, pp. 281), Copyright(1994), with permission from Elsevier Science.)(原論文3より引用)


 スミヤー試料は、規模の大きな事業所では一連の作業で数百個発生する。これを液体シンチレーション測定器やGM管式自動測定器にかけると、日単位の測定時間が必要になる。  

 IPを用いた測定では例えばIP(BAS-3、商品名)を用いると一枚のIPで50試料の測定が可能で、きわめて効率的に測定ができる。トリチウムからのβ線は空気中での飛程が5mmしかなくURタイプのように表面に保護膜が付いたIPでは測定にかからない。TRタイプの保護膜のないIPは汚染させると除去ができないので、汚染させない工夫が必要である。
  
 汚染物とIPとの間にスペーサーを介在させる方法も提案されているが、IPが歪んだりすると検出効率が大きく変化する。それらのセットを真空中に入れて測定する方法も提案されているが、この方法では効率は安定するものの、揮発性の高い化合物の汚染は測定値が低くなってしまう。
  
 スミヤー試料はほとんどが汚染のないバックグラウンドレベルの試料である。従って、近くにγ線やエネルギーの高いβ線放出核種で汚染されたスミヤー試料があるとクロストークを起こしやすい。IP上の位置によって感度が異なっており、その補正方法についての報告もある。
  
 IPによる放射線の定量測定で最も問題になるのがフェーディングの問題である。フェーディングは経過時間と共に捕獲された電子が基底状態に戻ってしまう現象であり、これが大きいとIPの定量性を著しく損なう。これまで、多くの論文で統一性のない経験式が氾濫してきたが、環境温度と経過時間を組み込んだ式が提案され、実験値を普遍的に補正することが可能になった。

コメント    :
 IPは画像解析手段として、オートラジオグラフィーやX線解析では完全に写真フィルムに取って代わってしまった。しかし、IPは全ての放射線に対して感度を持ち、放射線種の弁別が難しいこと、フェーディングがあることが大きな原因で、放射線の絶対測定器にはなっていないのが現状である。フェーディングはIPの種類、放射線の種類、環境温度、読み取り装置などによって変わることが分かってきているが、まだ十分解明されているとはいえない。これらの解明をさらに進めるとともに、フェーディングの少ないIPの開発を切望したい。

原論文1 Data source 1:
イメージングプレートの放射線管理への応用
山寺亮
東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター
RADIOISOTOPES,49(1),32-37(2000)

原論文2 Data source 2:
IPを用いた環境放射能レベルの放射線測定
萩原雅之、他
東北大学大学院工学研究科
KEKProceedings2001-14,197-200(2001)

原論文3 Data source 3:
Detection of extremely low level radioactivity with imaging plate
Chizuo Mori, et al.
Depertment of Nuclear Engineering , Nagoya University
Nucl. Instr. Meth. , A339, 278-281(1994)

原論文4 Data source 4:
Monitoring of 3H surface contamination by noncontact radioluminography
Etsuko Furuta, et al.
Radioisotope Research Center, Faculty of Science, Ochanomizu University
Health Physics, 78(1),90-93(2000)

原論文5 Data source 5:
Usefulness of floating radioluminography to Tritiated samples
Etsuko Furuta, et al.
Radioisotope Research Center, Faculty of Science, Ochanomizu University
Appl. Radiat. Isot., 48(8),1133-1136(1997)

原論文6 Data source 6:
イメージングプレートを用いたスミヤー試料の測定
宮田孝元、他
東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター
第32回理工学における同位元素研究発表会要旨集,48

原論文7 Data source 7:
ラジオルミノグラフィにおけるクロストーク補正
吉沢幸夫、他
慈恵医大アイソトープ実験施設
第35回理工学における同位元素研究発表会要旨集,59

原論文8 Data source 8:
Correction of a nonuniform imaging plate response
Takuya Saze, et al.
Department of human Informatics, Nagoya University
Nucl. Instr. Meth. , A406, 343-349(1998)

原論文9 Data source 9:
Radioactivity and geometrical distribution measurements of alpha-emitter specimens with the imaging plate
Chizuo Mori, et al.
Department of Nuclear Engineering , Nagoya University
Nucl. Instr. Meth. , A312, 39-42(1992)

原論文10 Data source 10:
Functional equation for the fading correction of imaging plates
Hiroko Ohuchi, et al.
Graduate school of pharmaceutical Science, Tohoku University
Nucl. Instr. Meth. , A450, 343-352(2000)

原論文11 Data source 11:
Developement of a functional equation to correct fading in imaging plates
Hiroko Ohuchi, et al.
Graduate school of pharmaceutical Science, Tohoku University
Rad. Meas. (in press)

原論文12 Data source 12:
Dependence of fading patterns of photo-stimulated luminescence from imaging plates on radiation, energy and image reader
Hiroko Ohuchi, et al.
Graduate school of pharmaceutical Science, Tohoku University
Nucl. Instr. Meth. (to be submitted)

キーワード:イメージングプレート、放射線測定、汚染検査、表面汚染、スミヤーテスト、放射線管理、輝尽発光、ラジオルミノグラフィー、フェーディング、IP
imaging plate, radiation measurement, contamination measurement, surface contamination, smear test, radiation control, photo-stimulated luminescence, radio-,luminoglaphy, fading, IP
分類コード:040303,040202,040207

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