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作成: 2000/12/7 大貫 敏彦

データ番号   :040235
加速器を用いた鉱物-溶液界面における元素の挙動解明
目的      :高レベル廃棄物の地層処分の安全性を検討するための地層の有する放射性核種閉じ込め機構の解明
放射線の種別  :軽イオン
放射線源    :タンデム加速器(15N, 7 MeV, 10pnA)、シングルエンド加速器(4He, 2 MeV, 1pnA)
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所TIARAシングルエンド加速器、タンデム加速器
照射条件    :真空中
応用分野    :廃棄物処分、環境保全技術

概要      :
 核分裂生成核種の鉱物への収着機構をRBS及びRNRAにより得たEu及び水素の結晶表面からの分布に基づき検討した。その結果、Euの一部は鉱物表面から構造中に取り込まれていることが確認できた。したがって、地層の有する放射性核種の閉じ込め機構が鉱物表面への吸着であると考えている現在の安全評価よりも、地層は大きな放射性核種の保持能を有していることが分かった。

詳細説明    :
 地層の有する放射性核種閉じこめ機構を解明するためには、地層中におけるアクチノイド、希土類元素の挙動を明らかにする必要がある。元素は地層中を地下水とともに移動する。その際、元素は鉱物などに吸着する。また、地下水は鉱物を溶解する。したがって、鉱物・地下水界面における元素の挙動を、鉱物の溶解を考慮して検討する必要がある。
 花崗岩などに含まれるリン酸塩鉱物への核分裂生成核種の一つであるEuの吸着挙動について調べた。Euのアパタイト(Ca5(PO4)3F)への収着実験では、アパタイトの単結晶(約5mmx5mmx1mm)をEu、0.1 mM 10 ml(初期pH6.4,4.6,3.4)と40,75及び150℃において、10日間反応させた。元素の表面からの濃度分布を求めるため、ラザフォード後方散乱を用いた分析(RBS)及び共鳴核反応(RNRA)を用いた分析を行った。RBSでは、2.4MeVの4Heを入射ビームとした。RNRAでは、15Nを入射ビームとし、6.385 MeVにある1H(15N,α,γ)12Cの核反応を使って、水素の深さ方向分布を求めた(図1)。


図1 鉱物表面への元素(Eu)の収着機構解明実験手法


その結果、Euの吸着によりRBSスペクトル上の2.2MeV付近にピークが観察された。このピークは低エネルギー側に幅を有していることから、Euはアパタイトの表面から鉱物内に浸透していることが分かった(図2)。


図2 アパタイト表面からのRBSスペクトル。図中EuはEuのピークを示す。(原論文1より引用)


 また、溶液のpHを変化させた結果から、pHが低くなるほどEuについてのピーク面積が増えることが分かった。pH4.6と3.4で得られた差スペクトルを比較すると、アパタイト表面付近ではpH4.6におけるEuのピーク値がpH3.4よりも高い。また、pH3.4におけるEuピークの方がより低エネルギー側までピークが現れた。この結果から、溶液のpHが低いほどEuがアパタイト結晶の深部に侵入していることが明らかとなった。一方、Caのピ-ク値が負になっていたことからCaの一部はアパタイトから溶出した。RNRAにより水素の深さ方向の分布を求めた結果、pH6.4,4.6では表面付近に水素が分布し、スペクトルは未反応のものとほぼ同じであった。しかし、pH3.4の場合、水素がアパタイトの深部まで浸透していることが明らかとなった。
 pH4.6における異なる反応温度においてEu溶液と接触させたアパタイトのRBS差スペクトル及び水素の深さ分布から、150℃において、Euと水素の深部への侵入が起こっていることが分かった。これらのことから、Euはアパタイトの結晶内部に取り込まれることが分かった。
 花崗岩に含まれる長石の溶解過程におけるEuの挙動を検討した。実験では、長石のテ
ストピース(5x10x0.9mm)を0.1MのEu溶液10mlと20、150あるいは210℃で3日から90日接触させ、Eu等の元素の表面からの深さ方向分布をRBSで、水素の分布を共鳴核反応により測定した。RBSスペクトルから、150℃以上で接触させた場合にはEuが長石表面から結晶内側に分布していたが、20℃ではEuは検出されなかった(図3)。


図3 RBS spectrum of albite. The Eu peak was identified by ploting the difference spectrum between Eu-doped and fresh-albite. Fresh:RBS spectrum of fresh albite. Difference: The difference spectrum between Eu-doped and fresh albite.(原論文2より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter, from T.Ohnuki, N.Kozai, H.Isobe, T.Murakami, S.Yamamoto, K.Narumi, H.Naramoto, Radiochimica Acta, 86, pp.161-165 (1999), Figure 4(Data Source 2, pp.163), copyright(1999) by R.Oldenbourg Verlag GmbH.)


 走査型電子顕微鏡で表面の鉱物層を観察したところ、150℃以上では、Alを含む鉱物が生成していることが分かった。一方、RNRAにより得られた水素の浸入とEuの浸入の関係を調べた結果、水素が浸入して長石を溶解させる初期の段階ではEuの浸入は認められなかった。これらの結果から、Euは長石の2次鉱物であるベーマイト(Al鉱物)が生成する際取り込まれたものと推察した。これらの結果は、Eu等の元素を吸着する容量が小さな長石のような鉱物でも溶解により2次鉱物が生成する際、新たな吸着サイトが形成される可能性があることを示している。

コメント    :
 鉱物への元素の取り込みは、地層の有する放射性核種の閉じ込め機構が鉱物表面への吸着であると考えている現在の安全評価よりも、地層は大きな放射性核種の閉じ込め機能を有していることを示している。

原論文1 Data source 1:
Sorption Mechanism of Europium by Apatite Using Rutherford Backscattering
Spectroscopy and Resonant Nuclear Reaction Analysis
Toshihiko Ohnuki, Naofumi Kozai, Hiroshi Isobe, Takashi Murakami, Shunya
Yamamoto, Kazumasa Narumi, Hiroshi Naramoto,
Japan Atomic Energy Research Institute
Journal Nuclear Science Technology, 34, pp.58-62 (1997)

原論文2 Data source 2:
Sorption Behavior of Europium During Alteration of Albite
T.Ohnuki, N.Kozai, H.Isobe, T.Murakami, S.Yamamoto, K.Narumi, H.Naramoto
Japan Atomic Energy Research Institute
Radiochimica Acta, 86, pp.161-165 (1999)

キーワード:ラザフォード後方散乱、共鳴核反応、鉱物、アパタイト、長石、希土類、ユーロピ
ウム、廃棄物処分、RBS, RNRA, mineral, apatite, albite, rare earth elements, Eu, waste
disposal
分類コード:040101, 040501, 040502

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