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作成: 2001/01/25 白川 芳幸

データ番号   :040233
自然放射能を利用したオンライン工業計測
目的      :石炭などの鉱物に含まれる自然放射能を利用したオンライン分析技術の開発とその実用化
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :石炭などの鉱物に自然に含まれるウラン、トリウム、カリウム
利用施設名   :石炭鉱山や石炭火力発電所の輸送ベルトコンベアー
照射条件    :鉛などの遮へいで覆われた空気中
応用分野    :鉱工業分野における原料のオンライン分析

概要      :
 鉱工業分野特に石炭産業においては生産効率の向上、廃棄物の低減、環境破壊の防止、天然資源の有効活用の観点から、石炭の代表的品質であるカロリー値(燃える成分、主として C)や灰分(燃えない成分、主としてAl、Si、Fe)をオンラインで計測することが重要視されている。これを受けて石炭に自然に含まれるウラン、トリウム、カリウムなどからのγ線を検出し、灰分を計算する方法とそのための装置が開発され、実用化されている。

詳細説明    :
 自然放射能を利用したオンライン工業計測は種々の鉱工業分野において必要価値を認められている。ここでは工業計測の実例として、特に石炭の灰分のオンライン分析に的を絞って解説する。石炭産業においては生産効率の向上、廃棄物の低減、環境破壊の防止、天然資源の有効活用の観点から、石炭の代表的品質であるカロリー値(燃える成分:主として炭素、その他、硫黄、窒素、塩素など)や灰分(燃えない成分:アルミニウム、珪素、鉄など)をオンラインで計測する重要性が増している。これらのデータを用いて、その後の適切な処理方法の決定や最適な銘柄のブレンディングが行われることによって上述の目的が達成される。
 従来より、石炭の分析には化学分析や燃焼法などのオフライン、バッチ式の手法が用いられてきた。しかしながら少量試料の採取に伴う全体平均値からのずれ(代表性)の問題、長い分析時間の問題などが顕在化し、放射線などを利用したオンライン分析技術の確立が期待されていた。放射線を用いる方法としては、1)2重エネルギーγ線法、2)電子対生成法、3)即発γ線分析、そして4)自然γ線法(自然放射能の利用)が研究開発され、それぞれ実用化されている。1)-3)は放射性同位元素を積極的に線源として使用するものであるが、ここで紹介する4)は分析対象試料、すなわち石炭に自然に含まれる放射性物質を利用することが最大の特徴である。法律の規制も受けず、装置も簡便である。試料
 まず計測原理について述べる。石炭に含まれるアルミニウム、珪素、鉄などの灰分(燃えない成分)には元から1ppm(百万分率)以下のウラン、トリウムなどが含まれ、また1%以下のカリウムも存在している。これらの物質からはγ線が放出されている。このγ線の量と灰分量の間には相関関係が観察される。代表的な関数表現として、
    %Ash = aT + bK + cU + dTh + e           (1)
が提案されている。ここで小文字は実験的に決める定数、Tは100-2800keVのγ線計数、 KはK-40の1460keVピークの計数、 Uはウラン系列のBi-214の1760keVピークの計数、 Thはトリウム系列のTh-232の2614keVピークの計数である。この原理を輸送ベルトコンベア上で実用化した装置が図1である。


図1 Schematic diagram of a natural gamma-ray on-stream analyser.(原論文1より引用。 Reproduced with permission of the author from P.J.Mathew, Proc. Inter. Conf. on Appllications of Radioisotopes and Radiation in Industrial Development, Feb.4-6,1998, Mumbai, p.233-244 (1998).)

この場合、(1)式はより現実に則した形に変形され、同時に簡易化され、
     A = p + qM + rC + sMC             (2)
で表現される。ここで小文字は定数、Aは灰分量率(kg/m)、 Mは石炭の重量率 (kg/m)、 Cは全計数率 (cps)である。宇宙線と大地放射線を遮へいするために検出器およびベルトコンベアは鉛で覆われている。検出器は(1)式のピークを分離できる分解能があれば良く、例えば10x10x40cmの NaI(Tl)シンチレータが使われている。図2も同様なタイプの灰分計

図2 Block diagram of the USSR ash analyser. 1:Detection unit; 2:electronic computer unit; 3:mechanical flag-type DPU-100 gercon counter.(原論文2より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter, from Prpce. Inter. Sym. on Nuclear Techniques in the Exploration and Exploitation of Energy and Mineral Resources, Jun.5-8,1990, Vienna, p.93-103, IAEA (1991), copyright(1991) by IAEA.)

である。単位時間当たり輸送される石炭の量(この変化は一種の外乱)などは重量計、層厚計で計られ計算値の補正に使われる。また石炭の種類、粒度などの種々の条件を加味して実験的にいくつかの校正曲線でもある(1)、(2)式が作られている。実際に得られたγ線計数率と灰分量の関係を図3にグラフとして示す。計測精度は設計条件、計測条件に大きく

図3 Count-rate vs. ash mass loading. The data is shown fitted by a quadratic function of ash mass.(原論文3より引用。 Reproduced from J.S.Wykes, J.D.Hoddy, I.Adsley, G.M.Croke and G.J.Haines, Nuc. Geophys., Vol.3, No.3, 203-215 (1989), Figure 1(Data Source 3, pp.206), copyright(1989), with permission from Elsevier Science.)

依存するが、標準偏差で2-3wt%が達成され、ユーザーの要求に応えるものとなっている。この装置はオーストラリアを中心に実際の石炭鉱山に導入され、稼動している。

コメント    :
 放射線を利用した石炭の灰分計はオーストラリア、米国、ドイツ、英国などで研究開発され、一部実用化している。特にオーストラリアでは前述した4種類の技術をすべて取り扱い、工業計測装置として積極的に実プラントへの導入を図っている。本技術は人工的放射性同位元素線源を使用しないことが最大の特徴であり、結果として装置が簡便になり低コスト化が可能である。

原論文1 Data source 1:
Recent Development in Nucleonic Control Systems for Coal, Mineral and Agricultural Industries
P.J.Mathew
CSIRO, Australia
Proceedings of International Conference on Applications of Radioisotopes and Radiation in Industrial Development, Feb.4-6,1998, Mumbai, p.233-244 (1998)

原論文2 Data source 2:
On-stream Coal Ash Analysis Based on Natural Gamma Ray Activity
P.J.Mathew
CSIRO, Australia
Prpceedings of an International Symposium on Nuclear Techniques in the Exploration and Exploitation of Energy and Mineral Resources, Jun.5-8,1990, Vienna, p.93-103, IAEA (1991)

原論文3 Data source 3:
On-line Monitoring of the Ash Content of Stone/Coal Loads Using Natural Radiation
J.S.Wykes, J.D.Hoddy, I.Adsley, G.M.Croke and G.J.Haines
British Coal, England
Nuc. Geophys., Vol.3, No.3, 203-215 (1989)

原論文4 Data source 4:
A Natural Gamma-Ray Interface Gauge
P.J.Mathew
CSIRO, Australia
Trans. Amer. Nucl. Soc., 65, Supplement No.1, 32 (1992)

原論文5 Data source 5:
On-line Determination of the Ash Content in Coal Using Industrial, Natural Gamma-ray Equipment
M.C.Alvarez and M.T.Dopico
Laboratorio de Energia Nuclear, Spain
Nuc. Geophys., Vol.9, No.6, 619-624 (1995)

キーワード:自然放射能、γ線、生産効率、廃棄物、環境破壊、天然資源、石炭灰分、鉱工業、natural radioactivity, gamma-ray, production efficiency, waste, environmental degradation, natural resource, coal ash, coal and mineral industry
分類コード:040301,040305,040204

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