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作成: 2000/2/12 桝本和義

データ番号   :040229
加速器施設の放射化
目的      :加速器施設で生じる放射化の問題をとりあげメンテナンスおよび廃止時において重要となるポイントを明らかにする。
放射線の種別  :ガンマ線,陽子,中性子,軽イオン
放射線源    :線形加速器、シンクロトロン、サイクロトロン
利用施設名   :高エネルギー加速器研究機構、東北大学、東京大学、日本原子力研究所、理化学研究所、CERN

概要      :
 加速器施設では意図せずに、加速器本体、周辺設備、建屋、冷却水、空気中に放射性核種が生成して放射線安全管理上の問題となる場合がある。これら加速器放射化物の安全取扱は現行法令ではカバーされていない点が多く、放射性同位元素と同様に放射化物の使用、加工、譲渡、保管、廃棄についての基準やマニュアルの整備が必要である。また、施設の廃止の際には建屋や設備の放射化量の評価やその取扱が重要といえる。

詳細説明    :
 サイクロトロン、電子加速器などでは加速エネルギーが約10MeV以上になると放射化の問題が生じる。ここでの放射化はラジオアイソトープ製造を目的とせずに副次的に生成した場合を指している。加速器の種類、性能が多種多様となり、台数も増加してきたために、放射化物の取扱に関心が寄せられているが、現行の放射線障害防止法では安全取扱の方策が明確にされていない。そこで加速器施設の種類と放射化の特徴、国内施設の現状、生成される放射性核種の特徴をまとめ(原論文1)、さらに放射化物管理のあり方を提言した(原論文2)。
 放射化には加速粒子そのものによって発生する放射化と二次的に発生する中性子による放射化がある。放射化の程度は加速粒子、加速エネルギー、ビーム強度、照射時間、放射化される元素の放射化断面積に依存する。サイクロトロンと電子加速器では放射化の状況は異なる。荷電粒子はぶつかった点の近傍で停止してしまうことから、局所的に放射化が生じる。電子線の場合、衝撃で発生する制動放射線が放射化の原因となるため、ビーム進行方向に沿って放射化が生じる。サイクロトロンではディフレクター、ビームスリット、偏向電磁石内のビームパイプ、ターゲットチェンバーなど、電子加速器では偏向電磁石、4極電磁石やビームスリット下流部に位置する加速管、ビームパイプなどが放射化する。中性子は二次的な放射化を発生させる。中性子は透過性があり、加速器の周辺機器や建屋にも放射化を引き起こす。生成放射能はわずかであるが、半減期の長い放射性核種が生成することがあるため、放射線被曝の問題よりも施設解体時に問題となる場合がある。たとえば、コンクリートではもともとコンクリート中のEuやCoは極微量であるにもかかわらず中性子捕獲断面積が大きいためにEu-152、Co-60が検出されることがある。 
 電子加速器では制動放射線による空気の放射化が起き、O-15、N-13などが生成する。サイクロトロンでは直接1次ビームが空気中に引き出されると、F-18などが生成する。2次的に発生した中性子によるAr-41の生成も無視できない場合がある。制動放射線は透過性があるため冷却水を放射化することがあり、O-15、N-13、C-11などの短寿命核種が生成する。加速エネルギーが数100MeVを越えると核破砕反応によって生成核種の種類や生成量が著しく増加する。透過性のある高エネルギー中性子が発生するため建屋や遮蔽体の放射化も著しくなってくる。また、冷却水中のトリチウムの生成割合が増加することや、建屋外の土壌、地下水の放射化考慮する必要が出てくる。
 高価な加速器の部品は放射化物となっても再利用することが多い。このため一時保管、加工、譲渡・譲受、運搬の際の安全管理のあり方が重要であり、施設の放射線障害予防規定ではこれらの項目を盛り込むことが望まれる。また、施設設置時に放射化物の一時保管施設などを設けておくことも必要といえる。さらに、最近では施設の廃止の際に最も問題となってきている、使用を廃止した加速器の解体時の放射化の問題となる主な材料を表1に、それらの材料で見いだされる放射性同位元素の種類で半減期60日以上のものを表2に示した(原論文3)。

表1 加速器施設で放射化される材料(原論文3より引用。 (社)日本アイソトープ協会と著者のご承認に基づき、柴田徳思、Radioisotopes, 48(3), 208-215(1999)、表1(pp.209)から転載したものです。)
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金属             磁石の鉄,コイルの銅またはアルミニウム,
                 真空箱・冷却パイプのステンレス等
プラスチック     ケーブル絶縁物
遮蔽材料         鉄,土,コンクリート,電子加速器の鉛
その他の材料     銀など少量
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表2 加速器による放射化で生成される放射性同位元素(60日以上)(原論文3より引用。 (社)日本アイソトープ協会と著者のご承認に基づき、柴田徳思、Radioisotopes, 48(3), 208-215(1999)、表2(pp.209)から転載したものです。)
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標的核          放射性同位元素         半減期           主な生成反応
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プラスチック      3H                   12.2y            spallation
                  36Cl                3×105y         35Cl(n,γ)
アルミニウム     上記に加えて
                  14C                 573Oy            14N(n,p),17O(n,a),spallation
                  22Na                2.6 y            spallation,23Na(r,n)
                  26Al                8×105y         27Al(r,n)
鉄,ステンレス    上記に加えて
                  46Sc                84d              spallation
                  44Ti                48y              spallation
                  54Mn                312d             54Fe(n,p),55Mn(r,n)
                  55Fe                2.94y            54Fe(r,n),56Fe(r,n)
                  56Co                77d              56Fe(p,n)
                  57Co                270d             56Fe(p,r),58Ni(r,p)
                  58Co                72d              59Co(r,n)
                  60Co                5.27y            59Co(n,r),60Ni(n,p)
                  63Ni                92y              62Ni(n,r)
    銅           上記に加えて
                  65Zn                245d             65Cu(q,n)
    土           上記に加えて
                  152Eu              12.7y            151Eu(n,r)
                  154Eu              16y              153Eu(n.r)
コンクリート     上記に加えて
                  134Cs              2.06y            133Cs(n,r)
    鉛           上記に加えて
                  134Ag              127y             spallation,107Ag(n,r)
                  110mAg            254d             spallation,109Ag(n,r)
                  204Tl              3.8y             spallation,203Tl(n,r)
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各施設とも保管されている放射化物の量は多いが、100Bq/g以下のものが大半を占めており、今後規制除外に関する法整備が進めば一般廃棄物として処理できるものも多い。また、放射化物中に含まれる測定の難しいNi-63、Fe-55、トリチウムなども含めた放射能測定法や評価法の確立が重要である。
 これまでにいくつかの施設で電子加速器本体、遮蔽体の解体やサイクロトロンの解体が行われた(参考資料1から3)。それぞれの施設でコンクリートの放射化の様子が明らかにされ、加速器から発生した中性子がコンクリート内で減速するため、熱中性子による放射化はコンクリートの表層から10cmのところで極大となる例が示された。
 放射化については、建設段階における材料の選択の重要性が議論されている。加速器のビームパイプをステンレスからアルミニウム合金に変えること(参考資料4)で、加速器建屋の内壁を大理石のような低放射化コンクリートにすること(参考資料5)で放射化が低減されることが報告されている。
 加速器施設の放射線被曝を低減するには、ビーム輸送時にビーム損失が起こらないような運転の工夫、ビームの安定化、そのためのビームロスモニタ、ビームプロファイルモニタなどの配置が望まれるとともに、放射化され難い元素を含む材料の採用やビームダンプの適切な運用、メンテナンスのための遠隔操作技術の開発も必要である。このことは、施設廃止時の建屋の放射化の問題を軽減させることにもつながる。

コメント    :
 加速器施設の放射化の問題はこれまで予測しがたいものとされてきた。しかし、ビームロスによって放射化は生じることから、加速器の設計時や日常の運転時にビームロスを避ける十分な対策をとっておけば、放射化の低減が可能であるだけでなく、使命を終えた加速器の解体の際のコストの大幅な削減につながる。今後このような視点に立った加速器の開発が必要である。また、放射化物の合理的取扱に関する法整備も必要である。

原論文1 Data source 1:
加速器施設における放射化の諸問題
加速器施設における放射化問題検討委員会
日本アイソトープ協会
日本アイソトープ協会 平成4年3月

原論文2 Data source 2:
加速器施設における放射化物の生成とその安全取扱い
加速器施設における放射化問題検討委員会
日本アイソトープ協会
日本アイソトープ協会 平成6年12月

原論文3 Data source 3:
使用を廃止した加速器の放射化の問題
柴田徳思
高エネルギー加速器研究機構
Radioisotopes 48(3), 208-215(1999)

参考資料1 Reference 1:
中性子散乱実験用遮蔽体の放射化量評価と解体
桝本和義、大槻勤、笠木治郎太、泉雄一、大和一朗
東北大学、日環研、三菱電機
保健物理 34(2), 151-160(1999)

参考資料2 Reference 2:
原研電子リニアックの解体と誘導放射性核種の測定
遠藤章
日本原子力研究所
保健物理 34(2), 161-165(1999)

参考資料3 Reference 3:
東北大学サイクロトロンの解体と誘導放射性核種の測定
山寺亮
東北大学
保健物理 34(2), 166-170(1999)

参考資料4 Reference 4:
アルミニウム合金の誘導放射能およびそれに及ぼす微量成分の影響"
今野 收、藤川辰一郎、桝本和義、八木益男
東北大学
軽金属 34, 22-33(1984)

参考資料5 Reference 5:
Induced radioactivities in concrete constituents irradiated by high-energy particles
K.Kondo, H.Hirayama, S.Ban, M.Taino, H.Ishii
KEK
Health physics 46(6), 1221-1239(1984)

キーワード:加速器、放射化、設計、メンテナンス、廃止、accelerator, activation, design, maintenance, dismantle,
分類コード:040198,040301

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