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作成: 2000/12/01 石原 豊之

データ番号   :040227
加速器施設の設置
目的      :加速器施設の放射線等安全設計事項
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線,電子,陽子,中性子,軽イオン,重イオン,中性粒子
放射線源    :加速器

概要      :
 今日、加速器は多くの分野において研究、実用の両面で進展し、質、量ともに多種多様になり、その建設が増加している。加速器施設の設置に際して、施設周辺の公衆や施設内で働く作業者の被ばくを避けるために、放射線遮蔽設計が重要である。また、安全を確保するための機器や各種設備が要求される。

詳細説明    :
 加速器施設の設置において、放射線等安全設計で最も重要なのは遮蔽設計である。この目的は放射線の漏洩や人体への被曝及び機器の放射化・損傷を防止し、公共の安全を確保することにある。
1.放射線遮蔽設計は次のような順序で行われる。
(1)設計基準値の設定(参考資料1参照)
 (a)線量基準;障害防止法で管理区域内の人が常時立ち入る場所の線量限度は実行線量で1mSv/週。管理区域内の境界は1.3mSv/3月。事業所の境界及び人が居住する区域は250μSv/3月である。しかし、原子力発電所における設計目標値は50μSv/年を基準値とする場合もある。(b)損傷・発熱の基準値;構造材や遮蔽材の物質が受ける放射線のフルエンスとそれによる損傷との関係から決められる。発熱に対しては、材料の耐熱温度や熱応力が基準になる。(c)誘導放射能の基準値;装置の保守に従事する人の被曝線量は法令に定められた線量限度を用い、空中、水中RI濃度、表面汚染密度は法令に定められた濃度限度、密度限度を用いる。
(2)線源に対する考慮
 線源の種類、エネルギー、発生量、放出角度分布、形状を評価する。線源に関しては重ね合わせの原理が成り立つので、複雑な形状の線源は簡単な形状の線源(点)に分割して扱うことができる。しかし、加速器施設の場合はパラメータが多くこの線源評価が最も難しい。
(3)しゃへい計算
 遮蔽体の配置を考え、一次線の遮蔽及び一次線の吸収により放出される2次線(中性子捕獲γ線、光中性子等)に対する遮蔽計算を行う。遮蔽計算には減衰核法(γ線)、除去法(中性子)などの簡単な近似計算が一般に用いられるが、モンテカルロ法や輸送方程式の数値解析等の精密計算を用いる場合もある。
(4)ダクトストリーミング
 加速器施設はケーブルビット、配線ダクト、搬入口など迷路構造の穴が多くこれらの遮蔽の薄い部分からの漏洩放射線が大きいので評価が大切である。
(5)スカイシャイン
 上空に漏洩した放射線が大気と衝突して地上に降り注ぐスカイシャイン減少が起こる。これによる加速器施設周辺の環境線量評価が大切である。
(6)残留放射能
 運転に伴って構造材、遮蔽材等に生成される残留放射能、室内空気、冷却水、地下水などに誘導される放射能を評価し、基準値以下に抑制する。
(7)発熱、損傷
 大型加速器では放射線による発熱、損傷を考慮し材料の選択が必要である。 
 以上の事項を考慮して、最も薄く、軽く、且つ安価な遮蔽構造を最適設計をする。 
2.障害防止法令による安全規制
 『放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律』により安全規制がなされている。 
3.安全管理設備
(1)出入管理
 管理区域を設定し出入口には管理室を設け、ここを通って出入する。汚染検査室の設備は履物交換、更衣、ハンド・フット・クロスモニタ、シャワー、流し等を設ける。この他に物品搬出モニタを設ける。出入はバーコードなどによる入退室管理システムで行い、高線量率区域に入る時は個人測定用具の他に個人鍵を持って入室する。個人鍵の返却がない限り加速器は運転ができない。
(2)インターロック
 一般に出入口の開閉確認にはマイクロスイッチを使用し、加速器の運転スイッチと連動にする。(a)機器(真空系、電磁石、発電機、電源類)を保護するためのインターロック。(b)加速器運転条件(放射線モニター、ビームロスモニターの上限値超過)の監視用インターロック。(c)放射線管理用モニタ(空間線量、排気、排水中の濃度モニタ)。(d)作業者の安全を管理するためのモニタ。これらのモニタの動作不良を検出し、インターロック信号を発生し作業者及び機器の安全と正常状態を確保する。
(3)自動表示
 自動表示は加速器の使用状態が各使用室の出入り口付近で分かるように設置する。表示の色、マーク、字句等は分かりやすく表示し、その部屋への出入りの可否が一目で判断できること。
(4)閉じ込め防止用安全設備
 加速器室に人が閉じ込められた時に、直ちに脱出できるように室内から解錠できるか緊急脱出口を設けること。また、緊急停止スイッチを設けること。放送設備、警報、TVカメラ、回転灯等を設置して、ビームを出す前に音と目視による安全確認ができる設備を設ける。
(5)火災対策、高電圧感電対策
 火災対策としては煙探知機、火災報知器、消火器及び消火設備を設ける。感電対策には高電圧部の扉にインターロック、作業時に必要なアース棒をインターロック機構の一部にする方法や視覚、聴覚に訴える警告の方法などがある。
(6)放射線モニタリング設備
 安全管理の放射線モニタリング設備は最も重要である。法律では場所の測定と人の測定の2っに分けて規定している。場所の測定では放射線の量(1cm線量当量率)を、(a)使用施設の管理区域内、(b)管理区域の境界、(c)事業所内の人が居住する区域、(d)事業所等の境界、において測定する。放射性同位元素の汚染状況の測定では、(a)作業室、(b)汚染検査室、(c)管理区域の境界、(d)排気設備の排気口や排気監視設備のある場所、(e)排水設備の排水口や排水監視装置のある場所、において測定を義務づけている。
 人の測定では、(a)外部被曝線量当量(1cm,3mm,70μm線量当量)、(b)内部被曝による線量当量、(c)放射性同位元素による汚染状況。の測定を義務付けている。
 これらの測定のために、次のモニタリング設備を設ける。(a)空間線量モニタ(γ線、中性子モニタ)。(b)排気中の放射能モニタ(ガス、ダストモニタ)。(c)排水中の放射能モニタ(水モニタ)。(d)表面汚染モニタ(手、足、衣服モニタ。物品搬出モニタ。スミヤ法)。(e)ビームロスモニタ(加速器及びビーム輸送系でのビーム損失を把握するモニタで、必要に応じ運転停止等の措置をとる)。(f)個人モニタ(外部被曝線量計、バイオアッセイ法など)。
(7)排水設備
 加速器施設では排水設備の設置は義務づけられていない。しかし、大型加速器やビームライン機器の冷却水や配管が放射化して、その一部が冷却水に混入する場合がある。冷却水は通常純水を用いるのでイオン交換樹脂で純化される。この時にほとんどの放射能はイオン交換樹脂に取り込まれるので、樹脂を固体廃棄物として保管廃棄か依託廃棄できる。高エネルギー加速器では冷却水中にトリチウムが生成されるので排水貯留槽、希釈槽、水モニタが設備される。
(8)排気設備
 加速器の使用施設では排気設備の設置は義務づけられていない。大型加速器施設では加速器室などビーム強度の高い場所で空気が放射化される。室内空気の排気には一般に次の3っの方法が用いられる。(a)運転中、運転停止後一定時間の間は排気せず、規定値以下の濃度になるまで減衰を待ってから強制排気する。ただし緊急時は直ちに強制排気する。(b)空気中濃度限度以下の濃度を保つように連続給排気する。(c)貯蔵タンクを置いて換気空気を一旦貯留し減衰を待ってから排気する。加速器室など運転中に人が立ち入らない線量レベルの高い部屋は(a)の方法が一般に良く用いられ、それ以外の所では(b)の方法が用いられる。(c)は費用がかかるので特別の場合にしか行われない。排気はフイルタ(プレフイルタ、HEPAフイルタなど)を通して行う。排気口にはガスモニタやダストモニタを設置し空気中濃度の連続監視をする。
(9)放射化物取り扱い施設
 大型加速器施設では加速器、ビームラインの機器、実験設備の一部またビーム照射した試料が放射化する。これらの放射化物は再利用するものと、廃棄するものに区別して保管するため保管廃棄設備を設ける。一般にこれらの放射化物は切断や圧縮により減容が可能な物が多い。従って保管廃棄物の体積を減らすための処理ができる施設があると便利。放射化した物の加工は飛散、汚染に対する対策の整った設備が必要となるので専用施設を設 これらの安全管理設備が正常に機能するためには、しっかりした安全管理体制(ソフトウェア)を確立することが重要である。                                      以上

参考資料1 Reference 1:
放射線物理と加速器安全の工学
中村尚司
東北大学工学部
単行本

参考資料2 Reference 2:
遮蔽設計
原子力安全設計マニュアル
(財)原子力安全技術センター

キーワード:加速器 Accelerator, 放射線 Radiation ,しゃへい Shielding, 安全設計 Safety Design
分類コード:040107

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