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作成: 2000/10/29 小林 隆

データ番号   :040221
スーパーカミオカンデ
目的      :ニュートリノの性質を調べること、および陽子崩壊の探索
放射線の種別  :中性子,陽子,電子
放射線源    :太陽、宇宙線、超新星、陽子加速器
利用施設名   :東京大学宇宙線研究所付属神岡宇宙素粒子研究施設スーパーカミオカンデ
照射条件    :地下1,000m
応用分野    :特になし。

概要      :
 スーパーカミオカンデは岐阜県神岡町の地下1,000mにある5万トン水チェレンコフ検出器である。その一つの目的は自然界および加速器からのニュートリノを観測することによりニュートリノの性質を調べることである。水中でのニュートリノ反応で生成される荷電粒子が発するチェレンコフ光を壁面の光電子増倍管で捕らえ、その像から粒子の運動量、方向、反応点などを再構成する。1996年に観測を開始、1998年ニュートリノが質量を持つことの証拠を発見。2,000年現在も大気、太陽ニュートリノの観測を続けている。

詳細説明    :
 スーパーカミオカンデ(SK)の目的の一つはは自然界や人工的に生成されたニュートリノを観測することによりその性質を調べることである。ニュートリノは非常に軽い中性素粒子で、物質との相互作用が極めて弱い(図1参照)。そのため検出が難しく、質量が0なのか

図1 素粒子構成図

有限なのかといった基本的な性質がこれまで分かってなかった。1998年、SKにおける大気ニュートリノの観測で、ミュー型ニュートリノ束の天頂角分布に大きな上下非対称性があることが分かった。これはニュートリノが質量をもつ場合にのみ起こるニュートリノ振動という現象の証拠である、と発表された。この結果はニュートリノの質量を厳密に0とする素粒子の標準理論に反する初めての実験的証拠でありたいへん注目されている。
 ニュートリノの発生源には、太陽、原子炉、超新星、宇宙線、加速器等がある。このうち原子炉からのもの以外はSKの観測にかかる。太陽からのニュートリノは核反応により生成される。SKの観測にかかるのはpp鎖の中の8Beベータ崩壊からの電子ニュートリノ(Enu < 15MeV)で、粒子束は106/cm2/sのオーダーである。超新星からのニュートリノは超新星爆発が起こったときに大量に生成されるもので、典型的なエネルギーは10MeVである。SKの前身であるカミオカンデが超新星SN1987Aからのニュートリノを世界ではじめて観測しニュートリノ天文学を確立したことは有名である。宇宙線により生成される大気ニュートリノと加速器からのニュートリノはどちらも同じ原理で生成される。加速器や宇宙線中で加速された高エネルギー陽子と原子核との衝突で生成されるパイ中間子、K中間子、ミュー粒子が崩壊するときにミュー型、電子型ニュートリノが生成される。典型的なエネルギーは1GeVである。
 SKは岐阜県神岡町の池の山の地下1000mにある世界最大のリング像検出型水チェレンコフ検出器(ring-imaging water Cerenkov detector)である。地下1000mではバックグランドとなる宇宙線ミュー粒子束が地上に比べて5桁小さい。SK検出器を、図2に示す。高さ


図2 スーパーカミオカンデ

42m、直径39mの円筒形のタンクで中に超純水5万トンが蓄えられている。タンク内部は外壁から約2.6m内側で外水槽とその内側の内水槽に仕切られている。内水槽は直径33.8m、高さ36.2mの円筒で32000tonの水を囲っている。内外槽の間の仕切りは光を通さない構造になっている。内水槽の壁には内側向きに直径50cmの光電子増倍管(PMT)が計11146個取り付けられており、内水槽の壁面積の40%を占めている。外水槽は、20cmのPMTが一様に計1885個取り付けられており、荷電粒子を検出するVETO検出器として働く。50cmPMTはBialkali光電面をもち280-660nmの波長の光に感度がある。390nmにおいて最大の約22%の量子効率を持つ。時間分解能は1光電子に対して約3nsである。PMTからの信号はその電荷、時間情報がデジタル変換される。同時に一定数以上のPMTから信号があった場合のみデジタル情報が保存される。荷電粒子からのチェレンコフ光は壁面にリング状の像を作る。このリングの形状、全光量などから、反応点、粒子の運動量、方向などを再構成する。電子は電磁シャワーを起こすためリングの輪郭がミュー粒子によるものに比べぼやけている。この「ぼやけ」を定量化することにより粒子識別を行う。検出器のエネルギー較正は、宇宙線ミュー粒子、検出器中で止まったミュー粒子からの崩壊電子などを用いて行われるが、特に低いエネルギー(10MeV前後)領域では、タンク上部に設置された電子加速器を用いて行われる。このエネルギー領域における較正の精度は1%以内である。
 SKは1996年4月に観測を開始し、2,000年10月現在も大気、太陽ニュートリノの観測を続けている。さらに1999年からは、冒頭に述べた大気ニュートリノにおけるニュートリノ振動現象の証拠を確認すべく茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構の12GeV陽子シンクロトロンを用いて生成したニュートリノを250km離れたSKで観測するK2K実験が進行中である(図3参照)。


図3 K2K実験



コメント    :
 SKは、約2,000tonのカミオカンデ検出器に継ぐ第2世代の陽子崩壊探索ニュートリノ観測のための水チェレンコフ検出器である。これまでの世界の検出器に比べ数十倍という圧倒的な質量により、大気ニュートリノ観測、陽子崩壊探索に関して感度、精度を飛躍的に向上させた。さらに、精度を上げるために次世代のメガtonクラスの水チェレンコフ検出器建設の可能性もアメリカ、日本などで最近盛んに議論され始めている

原論文1 Data source 1:
Super-Kamiokande
M.Nakahata
Kamioka Observatory, Institute for Cosmic Ray research, University of Tokyo
Nuclear Physics, B (Proc. Suppl.), 87 (2000) 125-134

原論文2 Data source 2:
Measurement of the flux and zenith angle distribution of upward through going muons by Super-Kamokande
Super-Kamiokande Collaboration (Y.Fukuda et al.)
Kamioka Observatory, Institute for Cosmic Ray research, University of Tokyo, 他
Phys. Rev. Lett., 82, 2644-2648 (1999)

原論文3 Data source 3:
Measurement of the solar neutrino energy spectrum using neutrino electron scattering
Super-Kamiokande Collaboration (Y.Fukuda et al.)
Kamioka Observatory, Institute for Cosmic Ray research, University of Tokyo, 他
Phys. Rev. Lett,. 82, 2430-2434 (1999)

原論文4 Data source 4:
Constraints on neutrino oscillation parameters from the measurement of day night solar neutrino fluxes at Super-Kamiokande
Super-Kamiokande Collaboration (Y.Fukuda et al.)
Kamioka Observatory, Institute for Cosmic Ray research, University of Tokyo, 他
Phys. Rev. Lett., 82, 1810-1814 (1999)

原論文5 Data source 5:
Evidence for oscillation of atmospheric neutrinos
Super-Kamiokande Collaboration (Y.Fukuda et al.)
Kamioka Observatory, Institute for Cosmic Ray research, University of Tokyo, 他
Phys. Rev. Lett., 81, 1562-1567 (1998)

原論文6 Data source 6:
Calibration of Super-Kamiokande using an electron LINAC
Super-Kamiokande Collaboration (M.Nakahata et al.)
Kamioka Observatory, Institute for Cosmic Ray research, University of Tokyo, 他
Nucl. Instrum. Meth., A421, 113-129 (1999)

キーワード:ニュートリノ、チェレンコフ、水、光電子増倍管、ニュートリノ振動、質量、陽子崩壊、neutrino, Cherenkov, water, photomultiplier tube, neutrino oscillation, mass, proton decay
分類コード:040301, 040102

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