過熱液滴型検出器とビジュアル放射線計測への応用

放射線利用技術データベースのメインページへ
作成： 2000/11/8 澤村　晃子データ番号　　　：040217 過熱液滴型検出器とビジュアル放射線計測への応用目的　　　　　　：過熱液滴型検出器による線量測定と3次元線量分布イメージング放射線の種別　　：ガンマ線,中性子,重イオン放射線源　　　　：²³²Cf、¹²⁵I線源(0.4mCi)、72MeV陽子ビーム、7MeVヴァンデグラーフ加速器利用施設名　　　：Paul Scherrer Institute 72MeV protontherapy facility 照射条件　　　　：大気中応用分野　　　　：γ線・中性子線量計測、γ線・陽子ビーム線量空間分布測定、中性子エネルギー分析、マイクロドジメトリ概要　　　　　　：　過熱液滴型検出器は、過熱液滴の放射線による気泡化を動作原理とし、感度のよい中性子・γ線線量計として開発された。気泡が目視できる簡便なビジュアル検出器である。最近、気泡検出に核磁気共鳴(MR)イメージングを用いる三次元の線量空間分布測定が試みられている。詳細説明　　　　：　過熱液体の放射線による蒸発現象を利用する放射線検出器は、泡箱として原子核実験等に利用されてきた。近年同じ原理に基づく、低沸点液体(大気圧で常温より沸点の低い液体)を検出体とする簡便な検出器が開発された。検出器は、低沸点液滴状に支持媒質中に拡散させ、加圧した状態で容器に充填したものである。使用時には容器の蓋を開けることにより容器内の圧力は大気圧に解放され、液滴は放射線に敏感な過熱状態になる。放射線検出しきい値は主に検出液体の沸点に依存する。　この型の検出器は過熱液滴あるいはバブル線量計(superheated drop detector或いはBubble detector)として、それぞれApfel Enterprises社、Bubble Technology Industry(BTI)社より高速中性子、熱中性子、γ線(電子)用線量計が市販されている。Apfel Enterprises社製線量計は支持媒質に粘度の高い液体を用いており、液滴の気泡化による体積増加を測定する受動型と、液滴が蒸発時に発生する音響信号を計数する能動型がある。BTI社は線量計は支持媒質に弾性体ポリマー(アクリルアミド)を用いており、気泡は放射線により生成された位置に止まるので、照射後気泡を目視あるいは自動計数装置により計数する受動型である。いずれの液滴・支持媒質が組織等価に近い物質であること、角度依存性がない、小型など線量計として有利な特徴を備えている。　図1.に、BTI社の中性子線量計BD-PNDの応答を示す。0.2～15MeVのエネルギー領域で線量感度(単位線量等量当たりの生成気泡数)がほぼ平坦であり、気泡数から線量を評価できる。中性子線量計は、中性子に対する感度が高くγ線や電子線に不感という特徴を活かして、原子力施設、加速器周辺、宇宙環境での線量測定へ応用されている。数種の沸点の異なる検出液体を用いた検出器を組み合わせて、簡易な中性子エネルギースペクトロメータとして用いることもできる。図1　Bubble Detector Personal Neutron Dosimeter normarized response per unit fluence (●) and normarized response per unit equivalent (◆). Conversion from fluence to dose equivalent based on NCRP Report No. 38.（原論文1より引用。　Reproduced from H.Ing, R.A.Noulty, T.D.Mclean, Radiation Measurements, vol.27, No.1, 1-11 (1997),Figure 3(Data Source 1, pp.6), Copyright(1997), with permission from Elsevier Science. ）　過熱液滴型検出器を陽子ビーム治療施設で応用した例を示す。図2は、65MeV陽子ビームを検出しきい値が低いSDD-GAMMA(Apfel Enterprises　社、γ線用)に照射した例である。陽子ビームは円筒形の検出器の中心軸に平行に左側から入射している。気泡分布によって線量空間分布が可視化されており、陽子飛程終端部近傍のエネルギー付与の大きな領域(ブラッグピーク)において気泡密度が増大している様子がわかる。検出しきい値が高いSDD-6000(同社、中性子スペクトル測定用)に同じように陽子ビームを照射すると、陽子ビームと検出器物質との相互作用によってつくられる重荷電粒子の空間分布のみがかんそくできることも示されている。このように検出しきい値の異なる検出器を用いることによりね選択的に特定の放射線種の線量やその空間分布の測定ができる。図2　Photograph of an SDD-GAMMA detector vial irradiated with 10mGy of a pristine beam of 65MeV protons. Distance between the marks on the vial is 10mm.（原論文2より引用。　Reproduced from F.d'Errico and E.Egger, Hadrontherapy in Oncology, Proceedings of the First International Symposium on Hadrontherapy, Como, Italy, p.488-494 (1993), Figure 3(Data Source 2, pp.492), Copyright(1993), with permission from Elsevier Science.）　三次元線量空間分布の測定では、検出器内の液滴分布が一様であること、高い空間分解能を得るために気泡が小さいこと、更に気泡分布の読み取りが容易であること等が要求される。小線源照射法(ブラッキーセラピー)用γ線源周辺の線量空間分布測定のために開発された位置敏感型検出器チェンバーの概略を図3に示す。チェンバーは中にはR-115(沸点-39℃)を検出液体として含む高粘度乳剤が収められ、加圧されている。チェンバーを大気圧に解放し、0.4mCiの¹²⁵I線源を挿入すると気泡が生成される。線源を引き出した後、磁気共鳴イメージングを行い気泡分布画像を得る。生成された気泡はイメージング終了後加圧することにより本の汽笛に戻る。この操作を繰り返して測定を行い、測定結果を統計処理することにより測定精度を向上することも可能である。図3　Schematic diagram of the SEC for MRI studies.（原論文3より引用。　Reproduced, with permission of the copyrighter and the authors, from F.d'Errico, R.Nath, M.Lamba, S.K.Holland, Phys. Med. Biol., Vol.43, 1147-1158 (1998), Figure 3(Data Source 3, pp.1152), Copyright(1998) by Institute of Physics Publishing.）コメント　　　　：　ここでは、過熱液滴型検出器の代表的応用例である中性子線量計と最近報告された3次元イメージング測定器としての応用について紹介した。検出器素材が組織等価に近い、線質の異なる種々の放射線を選択的に測定できる、検出器形状が自由である等の特徴から今後様々な分野、特に医療・保健物理学分野への応用が期待される。原論文１ Data source 1： Bubble Detectors ―a Maturing Tecnology H.Ing, R.A.Noulty and T.D.Mclean Bubble Technology Industries Inc, Highway 17, Chalk River, Ontario, K0J 1JO, Canada Radiation Measurements, vol.27, No.1, 1-11 (1997) 原論文２ Data source 2： Proton beam dosimetry with superheated drop(bubble) detectors F.d'Errico and E.Egger Dipartemento di Costruzioni Meccaniche e Nucleari, Universita degli Studi di Pisa and Instituto Nazionale di Fisica Nucleare, Pisa, Italy, Paul Scherrer Istitute, Division of Radiation Medicine, Villigen, Switzerland Hadrontherapy in Oncology, Proceedings of the First International Symposium on Hadrontherapy, Como, Italy, p.488-494 (1993) 原論文３ Data source 3： A position-sensitive superheated emulsion chamber for three-dimensional photon dosimetry F.d'Errico, R.Nath, M.Lamba and S.K.Holland Yale University School of Medicine, Department of Therapeutic Radiology, 333 Cedar Street, New Heaven, CT 06510, USA, Children's Hospital Medical Center, Department of Pediatrics and Radiology, 333 Burnet Avenue, Cincinnati, OH 45229-3030, USA, Phys. Med. Biol., 43, 1147-1158 (1998) 参考資料１ Reference 1：特集：放射線管理用線量測定器の新しい動向　中、Ⅱ-2リアルタイム式線量計(3)過熱液滴(バブル)線量計澤村　晃子北海道大学大学院工学研究科保健物理、33巻、2号、p.132-134 (1998) キーワード：過熱、液滴、線量測定、中性子、陽子、γ線、気泡、三次元線量分布、磁気共鳴イメージング、 superheat, liquid drop, dosimetry, neutron, proton, gamma ray, bubble, 3-D dosimetry, magnetic resonance imaging 分類コード：040301、040302、040101
放射線利用技術データベースのメインページへ