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作成: 2000/9/30 山内 良麿

データ番号   :040215
BGOを用いたガンマ線検出器
目的      :BGOシンチレーターを用いたガンマ線検出器の開発と応用
放射線の種別  :ベータ線,ガンマ線,陽電子
放射線源    :60Co線源
利用施設名   :日本原子力研究所タンデムブースター、放射線医学総合研究所PET施設
照射条件    :大気中
応用分野    :放射線計測、核医学、原子力工学

概要      :
 BGOは高い線エネルギー吸収係数を持つことから、Ge検出器と組み合わせてコンプトン散乱によるバックグラウンドを低減させるために重要な役割を果たす。最近の核物理学におけるガンマ線測定に用いられる大規模装置のクリスタルボールにこの特性が生かされ、実際にBGOによって中型クリスタルボールのバックグラウンドが効果的に低減される。またBGO単独で使用される検出器の性能がPET用位置検出器として広く利用されている。
 

詳細説明    :
 ガンマ線の測定は、1965年頃の高分解能Ge(Li)検出器の導入以来、急速に質的、量的進歩を遂げた。ガンマ線スペクトルは、光電効果による鋭いガンマ線ピークとコンプトン効果による連続したバックグラウンドから成る。コンプトン効果に基づくバックグラウンドを減らすために、Compton-Suppression-Spectrometer(CSS)が考案されている。CSSはGe検出器から散乱された全てのガンマ線を、Ge検出器を囲む大きな結晶によって検出し、その信号をGe検出器に対する拒否信号として使用することによってコンプトン散乱によるバックグラウンドを抑えるものである。
 
 このCSSには、高密度シンチレーターBGO(bismuth germanate: Bi4Ge3O12) が主として使われる。BGOは、波長490nmで屈折率は2.15、密度は7.13kg/dm3 でNaI(Tl)の2倍の密度を持つので、ガンマ線に対してより高い線エネルギー吸収係数をもっている。また、NaI(Tl)には吸湿性があるのに対してBGOは吸湿性がなく加工し易い利点がある。欠点としては、BGOの蛍光変換効率はNaI(Tl)のそれの8%と小さいので、ガンマ線に対する光出力はNaI(Tl)より小さく、またエネルギー分解能は1MeVのガンマ線に対してNaI(Tl)は7%に対して、BGOでは15%である。
 
 近年の核物理学の進展に伴い、大規模装置のガンマ線検出器として、多数の検出器で4πの立体角を覆うクリスタルボールが、インビーム電子ーガンマ線分光学の分野で使われるようになった。クリスタルボールの特徴は、個々のガンマ線遷移を一つ一つの事象毎に同時に測定出来ることである。これによって、ガンマ線のエネルギー、多重度、多重偏極度、角度相関、エネルギーエネルギー相関、全エネルギー、ns(10-9秒)領域での放出時間についての情報を得ることができる。クリスタルボールには、最高のエネルギー分解能を持つGe(Li)検出器が必要で、高エネルギー分解能はサイズの小さいGe検出器によって得られる。クリスタルボールでは限られた空間に多数の検出器をコンパクトに配置する必要からBGO-Ge CSS 型が用いられる。最近では、アメリカのSuperballやヨーロッパにおけるEuroballのような、両方とも100個以上のGe検出器を持ったクリスタルボールが作られている。
 
 K.Furunoらは原研タンデムブースター加速器を用いて、大学ー原研協力研究を進めるために、低コストで使い易い11台の BGOによるコンプトン抑制型Ge検出器から成るクリスタルボールを製作した。図1にこの装置で測定した60Co線源によるコンプトン抑制と抑制なしの場合のガンマ線スペクトルを示す。


図1 Typical Compton-suppressed spectrum observed with a 60Co source. A spectrum without any sppression is also shown.(原論文2より引用。 Reproduced from K.Furuno, M.Oshima, T.Komatsubara, K.Furutaka, T.Hayakawa, M.Kidera, Y.Hatsukawa, M.Matsuda, S.Mitarai, T. Shizuma, T.Saitoh, N.Hashimoto, H.Kusakari, M.Sugawara, T.Morikawa, Nucl. Instr. Methods Phys. Res., A421(1/2), 211-226(1999), Figure 4(Data Source 2, pp.215), Copyright(1999), with permission from Elsevier Science. )

 コンプトン抑制時の全体に対するピーク比は、0.5であったBGO単独での使用例としては、その高い線エネルギー吸収係数を利用してPET(positron emission tomography) 用の2次元位置検出器として使われている。PET用位置検出器には多数の小さなシンチレーターをできるだけ集約的に配置できること、消滅光子に対して高い線エネルギー吸収を持つことが求められるが、BGOはその点でPET用検出器に適している。H.Maruyamaらは、幅15mm、高さ24mm、長さ24mmのBGO を4個幅方向に並べたものに、光電子増倍管(PMT)2個を組み合わせた検出器と、シンチレーターの位置の識別回路を製作した。
 
 得られた位置分解能は、結晶幅に等しい15mm FWHM で、この4連のBGO検出器が360kcpsの計数率まで有効に機能することを確かめた。また、H.Uchidaらは5mmx 5mm x 20mm のBGO シンチレーターを5 x 5 に配置して、直径75mm の位置敏感型PMTを組み合わせた高位置分解能のPET用検出器を製作し, 3.2mm FWHMの位置分解能を得た。図2に、検出器に一様に511keVガンマ線を照射した時の位置スペクトルを示す。これから各BGOエレメントは、はっきりと分けられている様子がわかる。


図2 Image and profile with uniform γ-rays irradiation on the detector. Element size is 5x5x20mm.(原論文4より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter, from H.Uchida, T.Yamashita, M.Iida, S.Muramatsu, IEEE Transactions on Nuclear Science, Vol. 33, No.1, February p.464-467 (1986), Figure 6(Data Source 4, pp.466), Copyright(1986) by IEEE.)

 

コメント    :
 BGOシンチレーターは、その高い線エネルギー吸収係数と加工の容易さのために現在では広くガンマ線検出器のコンプトン散乱によるバックグラウンド低減のためや PET用検出器としてに利用されるようになった。この他にも似た性質のシンチレーターとしてBaF3も利用されるが、今後一層高線エネルギー吸収係数、非吸湿性でエネルギー分解能や時間分解能の高いシンチレーターの開発が望まれる。
 

原論文1 Data source 1:
Gamma-Ray and Electron Spectroscopy In Nuclear Physics
H.Ejiri and M.J.A. de Voigt
Department of Physics, Osaka University, Japan, Technical University,Eindhoven, The Netherlands  
Gamma-Ray and Electron Spectroscopy In Nuclear Physics, Clarendon Press. Oxford p.113-164, (1989)

原論文2 Data source 2:
A γ-ray detector array for joint spectroscopy experiments at the JAERI tandem-booster facility
K.Furuno, M.Oshima, T.Komatsubara, K.Furutaka, T.Hayakawa, M.Kidera, Y.Hatsukawa, M.Matsuda, S.Mitarai, T. Shizuma, T.Saitoh, N.Hashimoto, H.Kusakari, M.Sugawara, T.Morikawa
Institute of Physics and Tandem Accelerator Center, University of Tsukuba,Tsukuba 305-8577, Japan, Advanced Science Research Center, Japan Atomic Energy Research Institute,Tokai-Mura, Naka-gum, Ibaraki 319-1195, Japan
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, A 421 (1999) 211-226

原論文3 Data source 3:
A Quad BGO Detector and Its Timing and Positioning Discriminator for Positron Computed Tomoglaphy
H.Maruyama, N.Nohara, E. Tanaka and T.Hayashi
Division of Physics, National Institute of Radiological Science, Anagawa, Chiba-shi, 260 Japan
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, 192 (1982) 501-511

原論文4 Data source 4:
Design of a Mosaic BGO Detector System for Positron CT
H.Uchida, T.Yamashita, M.Iida, S.Muramatsu
Hamamatsu Photonics K.K., 1126-1 Ichino-cho, Hamamatsu-City, Japan
IEEE Transactions on Nuclear Science, Vol. 33, No.1, February p.464-467 (1986)

キーワード:ガンマ線、Ge検出器、BGOシンチレーター、吸湿性、線エネルギー吸収係数、クリスタルボール、インビーム電子ーガンマ線分光学、
gamma-ray, Ge detector, BGO scintillator, hygroscopic, linear energy absorption coefficient, crystal ball, in-beam electron-gamma ray spectroscopy
分類コード:040104, 040204, 040301

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