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作成: 2000/10/22 山内 良麿

データ番号   :040213
大強度中性子源
目的      :強力中性子源の開発と応用
放射線の種別  :陽子,中性子,軽イオン
放射線源    :重陽子ライナック(35MeV,250mA), サイクロトロン(600MeV, 6mA)
利用施設名   :ロスアラモス国立研究所、ローレンスリバモア国立研究所、ポールシェラー研究所
照射条件    :真空中
応用分野    :核物理、固体物理、放射線計測、核医学

概要      :
 核融合炉用構造材の研究には、核融合エネルギー領域の大強度中性子源が必要であることは広く研究者の間に認識されているが、まだ実現していない。そのために提案されている中性子源の概念は、ビームプラズマ、d-Li、t-H、核破砕反応の4つであり、いずれも1015n・cm-2・s-1 の中性子束を目指している。

詳細説明    :
 ロスアラモス国立研究所(LANL)のG.L.Varsamisらは、核融合炉材料の研究用として高い中性子束の高エネルギー国際核融合照射施設(IFMIF)に要求される d-Li 中性子源の概念設計を行った。IFMIFではライナックで重陽子を35MeVまで加速し、7Li(d,n)8Be ストリッピング反応(Q=15.0MeV)で中性子を発生させる。中性子ピークは14MeVである。この設計では2つのリチウムターゲットに2つの重陽子ビームが入射する方式であり、それぞれの重陽子電流は250mAである。図1に示したように、さらに2つの加速器を加えることによって1000mAまで拡張できる。IFMIFでは、試料照射用容積を大きくすることに重点が置かれていて、全電流500mAの場合、1015n・cm-2・s-1の中性子束が使える試料照射用容積は340cm3になる。建設コストは1989年時点で全加速電流が500mAの場合で$2.32億、年間運転維持費は$3200万と見積もられた。


図1 Reference neutron source: two 250-mA modules and two lithium targets. The lightly drawn modules indicate upgrade potential.(原論文1より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter and the authors, from Nucl. Sci. Engin., Vol.106(2), 160-182 (1990), G.L.Varsamis, G.P.Lawrence, T.S.Bhatia, B.Blind, F.W.Guy, R.A.Krakowski, G.H.Neuschaefer, N.M.Schnurr, S.O.Schriber, T.P. Wangler, M.T.Wilson, Figure 1(Data Source 1, pp.161), Copyright(1990) by American Nuclear Society.)

 核融合炉材料の最終的な選択には実際のd-T中性子スペクトルが使える実験施設での試験が必要である。このような観点から、ローレンスリバモア研究所のH.G.Coensgenらは、低コストの核融合材料試験用のビームプラズマ14MeV d-T 中性子源を提唱した。イオン化した高密度3x1021m-3のトリチウムターゲットに、ビームパワー60MWで150keV重陽子を入射させると、5x1018n・m-2・s-1 の中性子束が得られる。図2 に中性子スペクトルを示す。この施設の建設費は、同じ性能の加速器によるd-Li中性子源の建設費と同程度である。


図2 Neutron energy spectra at z=0, r=0.08m. The lower curve is calculated assuming a 0.08-m-thick vacuum chamber vessel of 0.215-m internal radius. The upper curve is calculated with 0.30 m of aluminum(internal radius=0.223 m) external to the vacuum vessel.(原論文2より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter and the authors, from Nucl. Sci. Engin., Vol.106(2), 138-155 (1990), F.H.Coensgen, T.A.Casper, D.L.Correll, C.C.Damn, A.H.Futch, B.G.Logan, W.Molvik, Figure 15(Data Source 2, pp.152), Copyright(1990) by American Nuclear Society.)

 S.Cierjacksらは、1H(t,n)3He反応を用いた核融合材料試験用の大強度、高エネルギー中性子源を提案している。この反応による中性子スペクトルは、1から14MeVのエネルギー範囲でほぼ平らで、14.6MeVで鋭く0にカットオフされ、これより高いエネルギー部分には中性子が出ないのが特徴である。この中性子源では、LANLで考えられているライナックを利用することによって、2つの250mAの21MeV 3重水素ビームが、120°の角度に傾けられた2つの厚い水ジェットターゲットに入射する時、1x1015n・cm-2・s-1の中性子束が0.16dm3の容積内に得られる。図3 にこの中性子源のターゲットの配置を示す。液体水素ターゲットの使用によって中性子束は1桁上がるが、熱伝導効率が悪く、水ジェットターゲットのほうが、その優れた冷却性能から現実的選択といえる。


図3 Target arrangement for the proposed two-beam, two-target neutron source. The two targets are oriented at 120deg with respect to each other. The distance of the beam centers from the common orientation point was chosen as 8 cm.(原論文3より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter and the authors, from Nucl. Sci. Engin., Vol.106(10), 138-155 (1990), S.Cierjacks and Y.Hino, Figure 6(Data Source 3, pp.189), Copyright(1990) by American Nuclear Sosiety.)

 最近の評価では、核融合炉の第一壁の構造材は100MWy/m2に等しい1000dpa (displacements per atom)の損傷で 寿命が尽きると予想されている。これはフルエンス1022-1023n/cm2 に相当し、1014n・cm-2・s-1の中性子束では30年にわたる照射の蓄積になる。この点を考慮して核破砕反応を利用するEURAC(European Accelerator) では中性子束として1016n・cm-2・s-1 が必要であると結論された。この中性子束を得るために600MeVの 陽子を6mAで液体鉛ターゲットに入射させる。この性能の加速器で一番安価にできるのは、SIN (現Paul Scherrer Institute)型サイクロトロンである。現在電流は不十分であるが、$5000万の経費で増力することによって6mAは可能であるとしている。
 D.G.Doranらは、ここに掲げた中性子源について以下の指摘を行っている。(1)IFMIF中性子源については、核変換評価のために熱中性子と熱外中性子領域でより詳しい中性子スペクトルが必要である。(2)ビームプラズマ中性子源はd-T炉の中性子環境を十分に再現するが、より現実的な中性子スペクトルが望ましい。(3)t-H中性子源は実現の可能性を調べるためには、より正確な中性子スペクトルが不可欠である。(4)核破砕中性子源の中性子スペクトルは核融合領域に必要な成分以外に、高いエネルギー領域まで広がっている中性子成分がある。この望まない中性子成分からの影響を十分考慮する必要がある。

コメント    :
 核融合炉の材料の開発には今後なお長期の研究が必要と思われるが、この研究にはまず第一に大強度中性子源が不可欠である。1015n・cm-2・s-1以上の中性子束が得られる中性子源施設は大規模なものとなり、国際的な協力が有効である。IFMIFは国際的な大規模施設を目指している点で今後の進展が注目される。

原論文1 Data source 1:
Conceptual Design of a High-Performance Deuterium-Lithium NeutronSource for Fusion Materials and Technology Testing
G.L.Varsamis, G.P.Lawrence, T.S.Bhatia,B.Blind, F.W.Guy, R.A.Krakowski, G.H.Neuschaefer, N.M.Schnurr, S.O.Schriber, T.P. Wangler, and M.T.Wilson
MS F641, AT-DO Los Alamos National Laboratory, Los Alamos, New Mexico 87545
Nuclear Science and Engineering, 106, 160-182 (1990)

原論文2 Data source 2:
High-Performance Beam-Plasma Neutron Sources for Fusion Materials Development
F.H.Coensgen, T.A.Casper, D.L.Correll, C.C.Damn, A.H.Futch, B.G. Logan,and W.Molvik
Lawrence Livermore National Laboratory, P.O. Box 5511, Livermore,California 94551
Nuclear Science and Engineering, 106,138-155 (1990)

原論文3 Data source 3:
Proposal for a High-Intensity 14MeV Cutoff Neutron Source Based on the 1H(t,n)3He Source Reaction
S.Cierjacks and Y.Hino
Kernforschungszentrum Karlsruhe, Institut fur Material-und Festkorperforschung Postfach 3640, 7500 Karlsruhe, Federal Republic of Germany
Nuclear Science and Engineering, 106, 183-191 (1990)

原論文4 Data source 4:
Option for Spallation Neutron Source
L.M.Perlado, M.Piera, and J.Sanz
Instituto de Fusion Nuclear, Universidad Politecnica de Madrid, Jose Gutierrez Abascal, 2, Madrid 28006
Journal of Fusion Energy, Vol. 8, Nos.3/4, 181-192 (1989)

原論文5 Data source 5:
Damage parameters for candidate fusion materials irradiation test facilitiesD.G.Doran, F.F.Mann*), and L.R.Greenwood2*)
Pacific Northwest Laboratory, Richland,WA 99352, USA, *)Westinghouse Hanford Company, P.O. Box 1970, Richland, WA 99352, USA, 2*)Argonne National Laboratory, 9700 South Cass Avenue, Argonne, IL 60439, USA
Journal of Nuclear Materials、 174, 125-134 (1990)

キーワード:核融合、核融合材料、中性子、重陽子、中性子束、大強度中性子源、フルーエンス、ライナック、
nuclear fusion, nuclear fusion material, neutron, deuteron, neutron flux,intense neutron source, fluence, linac
分類コード:040101, 040103, 040301

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