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作成: 2000/10/13 山内 良麿

データ番号   :040212
高エネルギー中性子実験施設
目的      :高エネルギー中性子実験施設による中性子を用いた研究
放射線の種別  :ガンマ線,陽子,中性子,軽イオン
放射線源    :陽子ライナック(800MeV), サイクロトロン(520,200MeV)
利用施設名   :ロスアラモス国立研究所陽子ライナック、TRIUMFサイクロトロン、インディアナ大学サイクロトロン、ウプサラ大学サイクロトロン
照射条件    :真空中、大気中
応用分野    :原子力工学、核物理、放射線計測、核医学

概要      :
 現在稼働中の、100MeVを超える高エネルギー中性子による研究が行われている主な大型中性子実験施設の中で、最も大規模に研究を行っているのはロスアラモス国立研究所であり、(p,n), (n,p)反応等、広範囲の中性子断面積に関する研究が行われている。TRIUM、インデアナ大学、ウプサラ大学では大型サイクロトロンを用いて、飛行時間法(TOF)を使わない測定法やビームスインガー等、それぞれ特色のある測定技術を駆使して、新しい領域での中性子による研究を進めている。

詳細説明    :
 ロスアラモス国立研究所(LANL)の中間子物理実験施設(LAMPF)には800MeV 陽子ライナックがある。LAMPFには中性子散乱センター(LANSCE)と兵器中性子研究施設(WNR)の2つの大きな実験施設が属している。LANSCEには陽子ビームのピーク強度を上げるためにストレージリング(PSR)が取り付けられている。LANSCEでは核破砕中性子源を用いて、熱中性子と熱外中性子エネルギー領域の核融合に関係が深い物質の性質が研究されている。放射性核種の中性子断面積や 50keVまでの(n,γ)反応の測定、偏極中性子ビームを使った中性子断面積の測定が行われている。WNRにも核破砕中性子源が装備され、ターゲット2、ターゲット4の2つの実験エリアがある。ターゲット2では113から800MeVの陽子ビームによる実験を行うことができる。これまで照射損傷や核反応((p,γ), (p,n), (p,z(荷電粒子))等)の実験が行われている。ターゲット4では強力白色中性子源を使用する。図1にWNRの概略を示す。ここでの実験は、防衛関連の放射線損傷から中性子入射による中間子生成まで、活発

図1 Layout of the WNR facility. The proton beam enters from the top. The flight path (solid lines) is above grade and is centered on Target 4;those shown s dashed lines are below grade and are centered on Target 2.(原論文1より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter and the authors, from P.W.Lisowski, C.D.Bowman, G.L.Russel, S.A.Wender, Nuclear Science and Engineering, Vol.106, 208-218 (1990),Figure6 (Data Source 1,pp.214),Copyright (1990) by American Nuclear Society. )

な実験プログラムがある。遮蔽設計、照射損傷、熱評価等の色々な核融合技術の応用のために必要なガンマ線生成の測定もその1つである。核分裂に関しては、232Th,233U,234U,236U,238U,239Puの235Uに対する相対的な核分裂データの測定を行っている。また(n,p)と(n,α)の反応断面積、角分布、荷電粒子放出スペクトルが、しきい値から30MeVの中性子エネルギーまで色々な核種について測定されている。これらの研究には散乱槽と荷電粒子検出器を多数並べたものを使用する。20から750MeVのエネルギー範囲の全断面積の測定も行われている。LANSCE/WNR中性子源は、中性子核科学の分野に活気を与え、新たな実験研究への期待を開いたといえる。
 TRIUMFには180-520MeVの陽子を加速できるサイクロトロンがあり、TRIUMF荷電変換実験施設では主として(p,n) や (n,p)の反応の実験を行っている。図2に(p,n)反応の測定装置の概略を示す。中性子は、反跳シンチレーターで陽子に変換し、陽子は中間分解能スペクトロメーター(MRS)で検出する。実験では(p,n)、(n,p)の反応断面積を測定し、その反応メカニズムを調べる。ターゲット核子のスピンとアイソスピン反転によって励起されるGamow-Teller巨大共鳴の研究が興味の中心である。


図2 A schematic view of the charge-exchange facility in the (p,n) mode.(原論文2より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter, from Canadian Journal of Physics, Vol.65, 588-594(1987), Figure 1(Data Source 2 pp.589), Copyright(1987) by National Research Council of Canada. )

 インディアナ大学サイクロトロン実験施設(IUCF)では、200MeVの陽子ビームを用いて、ビームスインガー(角分布を測定する際に、中性子検出器の角度を変えずに、電磁石を用いて中性子ビームの方向を変える装置)とTOF(飛行時間法)を組み合わせた中性子の測定が精力的に行われている。中性子検出器には大容量時間補償型プラスチックシンチレーターを使用している。TOFの飛行距離は最高130mである。(p,n)による巨大共鳴の研究や反応断面積の測定、中性子散乱の研究が進められている。
 ウプサラ大学には、200MeV陽子のサイクロトロンを使った中性子実験施設がある。ここでは50-200MeVのエネルギー領域で、中性子入射軽核放出反応の研究が行われている。図3は、(n,p) 反応実験装置の概略である。陽子の検出は、マグネティックスペクトロメーターで行う。中性子の測定はTOFではなく、中性子を陽子に変換して(n,p) 反応と同様の検出法を用いるのがこの施設の特徴である。ここでは、(p,n), (n,p) 反応断面積の測定の他に、標準断面積としてのp-n散乱の精密測定に力を入れている。


図3 Overview of the Uppsala (n,p) facility.(原論文4より引用。 Reproduced from Nucl.Instr.Meth. Phys. Res., A292, 121-128 (1990), H.Conde, S.Hultqvist, N.Olsson, T.Ronnqvist and Zorro, Figure 1(Data Source 4,pp.122), Copyright(1990) permission from Elsevier Science. )



コメント    :
 数MeV以下のエネルギー領域の中性子研究は一段落して、現在はタンデム加速器などによる20MeV付近のエネルギー領域まで中性子の研究が広がっているが、核融合開発関連の核データの蓄積もかなり進み、中性子研究から撤退する研究機関も出て、中性子実験研究には何となく停滞感が漂っている。その点、100MeVより高いエネルギー領域の中性子研究は、新たな進展への突破口となるもので、ここに述べた研究施設の高エネルギー中性子研究は注目されるべきである。

原論文1 Data source 1:
The Los Alamos National Laboratory Spallation Neutron Sources
P.W.Lisowski, C.D.Bowman, G.J.Russell, and S.A.Wender
University of California,Los Alamos National Laboratory,Physics Division, Los Alamos, New Mexico 87545
Nuclear Science and Engineering, vol.106, 208-218 (1990)

原論文2 Data source 2:
The TRIUMF charge-exchange facility
R.Helmer
Department of Physics, University of Western Ontario, London, Ont., Canada N6A 3K7
Can. J. Phys., vol.65, 588-594 (1987)

原論文3 Data source 3:
(p,n) reaction on Li isotopes for Ep=60-200MeV
J.Rapaport, C.C.Foster, C.D.Goodman, C.A.Goulding, T.N.Taddeucci, D.J.Horen,E.R.Sugarbaker, C.Gaarde, J.Larsen,J.A.Carr, F.Petrovich, and M.J.Threapleton
Physics Department, Ohio University, Athens, Ohio 45701, Indiana University Cyclotron Facijity, Bloomington, Indiana 47405
Physical Review, C 41, 1920-1931 (1990)

原論文4 Data source 4:
A Facility for Studies of Neutron-Induced Reactions in the 50-200MeV Range
H.Conde, S.Hultqvist, N.Olsson, T.Ronnqvist and Zorro
Department of Neutron Research, Uppsala University, Box 535, S-751 21 Uppsala, Sweden
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, A292 (1990) 121-128

キーワード:陽子ライナック、サイクロトロン、核破砕中性子源、核融合、中性子断面積、強力白色中性子源、核分裂、
proton linac, cyclotron, spallation neutron source, nuclear fusion, neutron cross section, intense white neutron source, nuclear fission
分類コード:040101, 040103, 040104


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