放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 2000/02/08 川面 澄

データ番号   :040199
加速器質量分析法による放射性炭素年代測定
目的      :加速器質量分析法に重点をおいた放射性炭素年代測定法の基礎と応用
放射線の種別  :軽イオン,重イオン
放射線源    :タンデトロン加速器(1.8MV)
利用施設名   :名古屋大学アイソト-プ総合センター・タンデトロン加速器
照射条件    :真空中
応用分野    :考古学、地質学

概要      :
 放射性炭素年代測定法の基礎を概説する。考古学や地質学の分野において、精度の高い年代決定の重要性を説明する。さらに、年代測定法の分野で最近、急速に発展しつつある加速器質量分析法の長所や短所を指摘するとともに、この方法の将来性を検討する。

詳細説明    :
 地層の上下関係や地層に含まれている化石、石器あるいは土器の形態的特徴などから、地層や発掘物の新旧を比較する相対年代編年法は、考古学や地質学でよく利用されてきたが、一般に、ごく限られた地域にしか適用できない。しかしながら、放射性炭素(14C)年代測定法は、適用できる年代範囲が約6万年前までに限られているが、信頼性が高く、地球的規模で年代が比較できる絶対年代測定法の一つである。
 炭素は生物体を構成する主要な元素で、地球上に広く分布している。このため、14C年代測定法はしばしば利用されている。1950年代に、14Cが環境中に天然に存在すること、さらに14Cが年代測定に利用できることが示された。また、14C年代測定の画期的な技術革新である加速器質量分析法(Accelerator Mass Spectrometry, AMS)が、1970年代に開発された。14C年代測定は加速器質量分析法(AMS)の応用のなかで、最も重要な分野であり、AMSの発展と共に研究が進展してきた。現在、世界でAMSを実施している加速器施設は40ヶ所以上にのぼり、我が国でも、8ヶ所以上の大学や研究機関において、AMSが行われている。


図1 14C測定用タンデトロン加速器質量分析計の全体図。 A1,A2,S1,S2,S3:ビームスリット、GEL,ML,TL,QL:静電レンズ系、LEC,HEC,12C cup,13C cup,FC:電流計測用ファラディカップ、Cs gun:セシウムスパッタ負イオン源、Minj,M1,M2:質量分析用電磁石、ACT1,ACT2:加速管、GVM:発電型高電圧系、ESG:荷電変換カナル、TP:荷電変換ガス(アルゴン)のトラップ用ターボ分子真空ポンプ、OS:高電圧発生用の発振器、TF:高電圧発生用のステップアップトランス、ED:静電型15°デフレクター。(原論文2より引用。 日本地質学会のご承認に基づき、地質学論集、第29号 (1988) 83-106, 第5図 (Data source 2, pp.92)から転載したものです.)


表1 炭素の同位体.(原論文2より引用。 日本地質学会のご承認に基づき、地質学論集、第29号 (1988) 83-106, 第1表 (Data source 2, pp.84)から転載したものです.)
---------------------------------------------------------------------------
同位体  質量数  中性子数   存在比      半減期   壊変形式*  エネルギー(MeV)
---------------------------------------------------------------------------
  9C       9        3        -         0.127秒  2α,β+,p
 10C      10        4        -        19.5秒    β+            1.87
 11C      11        5        -        20.3分    β+,EC         0.96
 12C      12        6     0.9889       安定        -             -
 13C      13        7     0.0111       安定        -             -
 14C      14        8     1.2×10-12   5730年    β-            0.155
 15C      15        9        -         2.5秒    β-            9.82,4.51
 16C      16       10        -         0.75秒   β-n
---------------------------------------------------------------------------
*)β:ベータ壊変,α:アルファ壊変,p:陽子放出,n:中性子放出
 現在、環境中に存在する14Cは天然起源と人工起源とが考えられる。地球上に、天然に存在する14Cは、長年の間地球大気に降り注ぐ宇宙線によって生成されてきた。宇宙線と大気との衝突により生成した中性子と大気中の窒素との反応、14N(n, p)14C、により、14Cは絶えず作られている。生成後は、直ちに酸化されてして14CO2になり、大気中のCO2と混じり合う。
 この14Cは5730年の半減期でβ崩壊するので、宇宙線の強度が変動しない限り、大気中の14C/12C同位体比の値は約1.2x10-12という一定値になる。1gの炭素は約6x1010個の14Cを含んでいるが、これでも、わずかに14dpmのβ崩壊をするだけである。生物が生存中は、常にこの比率の炭素を体内に取り込んでいるが、死後は14Cが崩壊するだけなので、5730年経過するたびに、この比率は半減する。そのため、生物の遺体を構成する炭素の14C/12Cを測定することにより、その死後の経過時間を計算できる。その死の直後には、14C/12C同位体比の値は約1.2x10-12であるが、5,730年後には14C/12C同位体比の値は約0.6x10-12になり、60,000年後には約8.5x10-16になるはずである。この時の炭素1gはわずかに10-2dpmのβ線を放出するだけである。これは、低バックグラウンド、かつ高感度のどんな良いβ線検出器を使用しても、実際上、測定は不可能である。これに対して、AMSでは、通常の重イオン用半導体検出器により、14Cをほとんどバックグラウンドなしで測定できる。このため、14C/12C同位体比を〜10-16の桁で測定することが可能である。
 AMSによる14C定量法は、従来の放射能測定による方法と比較して、次のような長所をもつ。
 (1)測定に必要な炭素の量が20〜1000μgと従来の1/1000程度であること。
 (2)測定時間が1試料あたり3〜5時間と短いこと。
 (3)14C検出のバックグラウンド計数が極めて低いため、測定可能な年代の上限が大きいこと。
 しかし、短所としては、以下が挙げられる
 (1)装置が複雑で、保守に手間がかかること。
 (2)測定時の調整等が複雑であり、まだまだ、オペレータの熟練度に依存すること。
 (3)AMSは装置として高価であること。

コメント    :
 放射性同位元素による年代測定は古くからの手法である。特に、14C年代測定法は最も頻繁に利用されている。最近では、加速器質量分析法による14C年代測定法は、高感度・高精度の年代測定法として注目されている。今後、ますます発展が期待される方法である。

原論文1 Data source 1:
Radioisotope Dating Using an EN-Tandem Accelerator
M.Suter, R.Balzer, G.Bonani, W.Wolfli, J.Beer, H.Oeschger and B.Stauffer
Laboratorium fur Kernphysik, Eidg. Technische Hochschule, 8093 Zurich, Switzerland; Physikalisches Institut, Universitat Bern, 3012 Bern, Switzerland
IEEE Trans. Nucl. Sci., NS-28 (1981) 1475-1477.

原論文2 Data source 2:
放射性炭素年代測定法の基礎 - 加速器質量分析法に重点をおいて -
中村 俊夫、中井 信之
名古屋大学アイソトープ総合センター、名古屋大学理学部地球科学教室、464名古屋市千種区
地質学論集、第29号 (1988) 83-106.

参考資料1 Reference 1:
加速器質量分析法 - 考古学から宇宙科学まで -
小林 紘一
東京大学原子力研究総合センター、113-0032東京都文京区弥生2-11-16
日本物理学会誌、vol.53(12) (1998) 903-910.

キーワード:放射性炭素、放射性同位元素年代測定法、加速器質量分析法、考古学、地質学
Radiocarbon, Radioisotope Dating, Accelerator Mass Spectrometry, Archaeology, Geology
分類コード:040106, 040301, 040405

放射線利用技術データベースのメインページへ