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作成: 1999/11/30 大浦 泰嗣

データ番号   :040196
原子炉中性子放射化分析におけるk0法の開発
目的      :比較標準試料を用いない放射化分析
放射線の種別  :中性子,ガンマ線
放射線源    :原子炉
利用施設名   :ベルギーTHETIS、ハンガリーWWR-M、ドイツFRJ-2、他
照射条件    :照射設備内での常温常圧
応用分野    :地球科学、環境科学、材料化学、品質管理

概要      :
 原子炉中性子を利用する放射化分析法で、従来の比較法の欠点を克服するk0標準化法が開発された。これは、単一元素のコンパレーターを試料と同時に照射することにより多元素を定量する方法で、絶対法に近い方法である。この方法に用いるk0定数値が精力的に測定されると同時に、あらゆる場合を想定した改良が進み、高確度の定量値が得られるようになった。

詳細説明    :
 中性子放射化分析法(NAA)は、微量成分の超高感度の多元素同時分析法として知られている。このNAAでの定量は、一般に比較法が用いられる。即ち、分析したい元素を既知量含む標準試料を分析試料とともに原子炉内で同時に照射し、照射した後 、同一条件でγ線測定を行うことにより、生成した誘導放射能の計数率を比較するだけで定量を行う。 しかし、この比較法には次のような幾つかの欠点がある。
 
 1)分析目的元素の濃度が正確に求められた標準試料を調製しなければならない、
 2)標準試料の測定に余計な時間を要する、
 3)標準試料に含まれていない元素は定量できない、
 4)試料と標準試料の照射時のマトリックス効果が異なる、
 5)定量計算を自動化し難い。
 
 そこで、単一元素(コンパレーター)を標準として、多元素を定量する方法(シングルコンパレーター法)が考案されてきた。この方法は、あらかじめコンパレーターと各元素の誘導放射能の生成速度比(k値と呼ばれる)を求めておき、このコンパレーターと試料を同時に照射することで多元素を定量する方法である。一度k値を求めておけば、あとは非常に簡便である。
 
 しかし、このk値は利用する原子炉や測定器に固有のものであるため、個々の施設で求めなければならない。そこで、ベルギーの核科学研究所のグループは汎用性のあるシングルコンパレーター法の開発を行った。彼らは、k値から施設によって異なる中性子スペクトルと検出効率の要素を取り除き、原子量・同位体比・γ線強度・中性子速度2200ms-1での(n,γ)断面積の要素のみ含む汎用性のあるk0値を導入した。 このk0値を用いる方法は、標準試料を作製する必要がなく、どんな元素でもコンパレーターとして用いることができ、測定の自動化を図ることができる。ただし、厳密に適用するには原子炉内の熱外中性子密度が1/E分布しており、分析対象核種の断面積が1〜2 eVまでの中性子エネルギーで1/v則を満たしていなければならず、また、原子炉中性子スペクトルと検出器の計数効率を正確に求める必要がある。さらに、γ線測定ではサムピーク・パイルアップ・不感時間等の補正を正確に行わなければならない。
 
 この方法は、k0標準化法と呼ばれ、さらに改良が進められた。熱外中性子スペクトルを決めるα値をAuとZrの照射から求める方法が開発され、また、α=1でない(1/E分布ではない)場合の補正のための有効共鳴エネルギー(Er)が導入された。熱中性子捕獲断面積が1/v則を満たさない核種(例えば191Ir、176Lu、168Tb、151Euなど)の生成放射能は熱炉内温度による中性子スペクトルの違いによって影響を受ける。このため炉内温度の補正ができるWESTCOTTの式が導入され、Luと1/v則に従う元素(Au、Co、Mnなど)を同時に照射することにより補正が可能となった。
 
 k0標準化法では、より正確なγ線測定の技術が要求される。比較法では標準試料と同一条件で測定を行うため、単純に同核種の同エネルギーのγ線計数率を比較するだけでよい。しかし、k0法では誘導放射能の絶対量が必要となるため、使用する検出器の計数効率をあらかじめ正確に求めておく必要がある。現状では、点線源で計数効率やピーク・トータル比等基礎データを実測し、適当なプログラムによって実際に用いる試料形状での計数効率を得ることが多い。また、パイルアップ効果や不感時間の補正を正確に行う必要がある。これらの補正を目的とした測定回路系を導入することが有効である。
 
 さらに、サム効果の補正も必須である。特に、低エネルギーγ線検出器を用いる場合は、特性X線とサム効果が顕著となってくる。一方、簡単に測定・定量を自動化することができる。ドイツ・KFAチューリッヒでは、数台のGe検出器-測定系と自動試料交換機をVAXコンピュータと接続し、自動測定を行っている。また、解析プログラムを独自に開発し、取り込まれたスペクトルデータは自動的に解析・計算され定量値が得られる仕組みとなっている。照射を含め169時間で18試料・各15元素濃度を得ている。そのうち、人手に頼る所は10時間である。
 
 本法の要となるk0値は、Auをコンパレーターとしてベルギーとハンガリーのグループが中心となり精力的に測定されてきた。Al-Au合金、Lu-Au-Zr合金を開発し、異なる原子炉・照射位置・測定器を用いて信頼できる正確な値が得られるよう努力された。これらの値は、原論文1にQ0値、Er値とともにまとめられている。また、k0法で必要な核データとNAAで用いられる核種のγ線カタログをまとめた本が発行されている(参考文献1)。

コメント    :
 比較標準試料を作製する必要がなく、k0法用解析・定量プログラムも市販されており、NAAが初めての人でもより簡単に定量値を得ることができる。しかし、k0法はある意味でほとんど絶対法に近い方法であり、あらかじめ各原子炉の照射位置で固有の中性子スペクトルと検出器計数効率を得ておく必要があり、これが不正確であると定量値の確度が低下する。
 
 欧米を中心にk0法はかなり普及しているようであるが、日本では現在、著者の知る限り日本原子力研究所で導入されているのみで、まだ、積極的な利用は少ない。まずは、原子炉を所有する各機関で導入していただき、普及を図っていくべきであろう。

原論文1 Data source 1:
Single-Comparator Methods in Reactor Neutron Activation Analysis
A.Simonits, F.De Corte, J.Hoste
Institute for Nuclear Sciences, Rijksuniversiteit, Proeftuinstraat, 9000 Ghent, Belgium
Journal of Radioanalytical Chemistry, Vol. 24, 31-46 (1975)

原論文2 Data source 2:
Recent Advances in the k0-standardization of Neutron Activation Analysis: Extensions, Applications, Prospects
F.De Corte, A.Simonits, F.Bellemans, M.C.Freitas, S.Jovanovic, B.Smodis, G.Erdtmann, H.Petri, A.D.Wispelaere
Institute for Nuclear Sciences (INW), University of Gent, Proeftuinstraat 86, B-9000 Gent, Belgium; Research Center Julich (KFA), P.O.Box 1913, D-5170 Julich, Germany; Instituto de Ciencias e Engenharia Nuclears (LNETI), P-2685 Sacavem, Portugal; Faculty of Sciences (FS), Department of Physics, Cetinjski put bb, YU-81000 Titograd, Yugoslavia; Institute " Jozef Stefan" (IJS), University of Ljubljana, Jamova 39, YU-61000 Ljubljana, Yugoslavia
Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry, Vol. 169, 125-158 (1993)

原論文3 Data source 3:
The Use of a Modified Westcott-Formlism in the k0-Standardization of NAA: The State of Affairs
F.D.Corte, F.Bellemans, P.D.Neve, A.Simonits
Institute for Nuclear Sciences, University of Gent, Proeftuinstraat 86, B-9000 Gent, Belgium; KFKI Atomic Energy Research Institute, H-1525 Budapest 114, P.O.Box 49, Hungary
Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry, Vol. 179, 93-103 (1994)

原論文4 Data source 4:
The Correction for γ-γ, γ-KX and γ-LX True-Coincidences in k0-Standardized NAA with Counting in a LEPD
F.D.Corte, M.C.Freitas
Institute for Nuclear Sciences, University of Gent, Proeftuinstraat 86, B-9000 Gent, Belgium; Laboratorio Nacional de Engenharia e Tchnologia Industrial, P-2685 Sacavem, Portugal
Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry, Vol. 160, 253-267 (1992)

参考資料1 Reference 1:
The k0-Consistent IRI Gamma-ray Catalogue for INAA
M.Blaauw
Interfaculty Reactor Institute, Technische Universiteit Delft
Cip-Data Koninklijke Bibliotheek, Den Haag (1996), ISBN 90-73861-32-2

キーワード:原子炉、中性子、放射化分析、k0標準化法 (絶対法)
reactor, neutron, activation analysis, k0-standardization (absolute method)
分類コード:040404

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