高純度材料中の極微量のウラン及びトリウムの放射化学中性子放射化分析

放射線利用技術データベースのメインページへ
作成： 1999/11/01 岡田　往子データ番号　　　：040193 高純度材料中の極微量のウラン及びトリウムの放射化学中性子放射化分析目的　　　　　　：高純度材料中の極微量元素の定量法の開発放射線の種別　　：中性子放射線源　　　　：原子炉フルエンス（率）：1.0×10¹⁴/(cm²・s),4×10¹²/(cm²・s) 利用施設名　　　：武蔵工業大学原子炉(TRIGA-Ⅱ型)、立教大学原子炉(TRIGA-Ⅱ型)、日本原子力研究所材料試験炉(JMTR) 照射条件　　　　：空気中応用分野　　　　：分析化学、材料科学、放射化学概要　　　　　　：　高純度材料である二酸化ケイ素、アルミニウム、酸化ニオブを原子炉で照射し、放射化したマトリックスの核種や不純物核種を取り除き、目的核種である²³⁹Np及び²³³Paを選択的に集める放射化学中性子放射化分析(RNAA)の開発をした。RNAAは陰イオン交換分離法とフッ化ランタン共沈法が用いられた。本分析法ではpptレベルの分析が紹介されている。また、高中性子束炉で長時間照射することで起こる二重中性子捕獲反応の例を紹介する。詳細説明　　　　：　金属材料の高純度化は製品の性能向上、物性研究や新機能性材料の開発の面などから必要である。特に半導体材料とその周辺をめぐる金属材料の分野ではウラン、トリウム及びその娘核種から放出するα線がメモリーを反転する「ソフトエラー」が指摘されて以来、材料の高純度化技術が進歩した。それに伴い、微量なウラン及びトリウムを分析する分析法の確率が望まれてきた。中性子放射化分析法は従来より、二酸化ケイ素及びアルミニウムで数ppbからサブppbのウラン及びトリウムを分析する技術として用いられてきたが、半導体のメモリー増大に伴って数pptレベルの定量を要求する様になった。放射化学中性子放射化分析法(RNAA)は放射化した試料から目的核種以外の核種を取り除き、目的核種だけを測定する方法である。この方法により、数pptレベルの分析が可能になった例を紹介する。また、高中性子束炉で長時間照射することで起こる二重中性子捕獲反応の例を紹介する。　岡田らは、高純度二酸化ケイ素を武蔵工大炉の中央実験管で5時間照射し、微量なウラン及びトリウムのRNAA分析法の開発を行った。図1に二酸化ケイ素のRNAA法を示す。照射した二酸化ケイ素試料をフッ化水素酸で溶解し、次に加熱溶解し、溶解後に蒸発・乾固する。その段階でマトリックスであるケイ素はフッ化物の形で蒸発する。その後6M塩酸で溶解し、塩酸系陰イオン交換分離法により、選択的に目的核種の²³⁹Np及び²³³Paを分離し、フッ化ランタン共沈分離法を用いることで検出効率を高めた。このことにより、機器中性子放射化分析(INAA)では数十pptが限度であるのに対して紹介するRNAAでは数pptの定量が可能になった。図1　Scheme of radiochemical neutron activation analysis for SiO₂. （原論文1より引用。　（社）日本分析化学会のご承認に基づき、分析化学, Vol.40, 549-555 (1991), 図１(Data source 1, pp.550)から転載したものです。）　岡田らは、高純度アルミニウムを武蔵工大炉の中央実験管で5時間照射し、微量なウラン及びトリウムのRNAA分析法の開発を行った。その結果、ウラン及びトリウムは数pptの分析が可能になった。また、試料重量の増加に伴う自己遮蔽効果と自己吸収効果についても検討をした。結果、自己遮蔽効果についてはなかったが、INAAでは測定時の自己吸収効果が生じ、補正が必要になる。自己吸収効果の面から考えても、RNAAで分析することが良いことがわかった。　岡田らは、高純度二酸化ケイ素をJMTRで100時間照射することで、図2に見られるように低エネルギー側のバックグラウンドが高くなることに注目した。これはケイ素の³⁰Siが(n,γ)反応で³¹Siを生成し、次にβ^-壊変を起こしながら³¹Pになり、さらに中性子を捕獲して³²Pになる二重中性子捕獲反応によるものとわかった。また、不純物としてタンタルが存在する場合、¹⁸¹Taが二重中性子捕獲反応により¹⁸³Taになる。図3に示すように¹⁸³Taはトリウムの目的核種の²³³Paが放出する312keVのγ線エネルギーに近接して放出するため、INAAの分析では定量ができない。そのため、タンタルを除去するRNAAが有効な手段となる。図2　γ-Ray spectrum of high-purity SiO₂ irradiated for 100h in JMTR. Cooling time: 2d; Counting time: 6000s; Sample weight: 1000mg; ①: ¹⁴⁰La 329keV, ②: ¹⁴⁰La 487keV, ③: 511keV, ④: ⁸²Ba 554keV, ⑤: ⁸²Br 620keV, ⑥: ⁸²Br 699keV, ⑦: ⁸²Br 777keV, ⑧: ⁸²Br 828keV, ⑨: ⁸²Br 1044keV, ⑩: ⁸²Br 1318 keV, ⑪: ²⁴Na 1368keV, ⑫: ⁸²Br 1475keV, ⑬：¹⁴⁰La 1597keV, ⑭: ²⁴Na 1732keV. （原論文3より引用。　(社）日本分析化学会のご承認に基づき、分析化学, Vol.42, 779-785 (1991), 図１(Data source 3, pp.781)から転載したものです。）図3　γ-Ray spectra of ²³⁹Np and ²³³Pa with interference nuclide ¹⁸³Ta for INAA（社）日本分析化学会のご承認に基づき、分析化学, Vol.42, 779-785 (1993), 図7(Data source 3, pp.784)から転載したものです。（原論文3より引用）　参考として、岡田らは高純度酸化ニオブをJMTRの水力ラビットで24時間及び武蔵工大炉の中央実験管で5時間照射し、微量なウラン及びトリウムをRNAA分析法の開発を行った。INAAではウラン及びトリウムともに10ppbの定量限界であったのに対してRNAAではサブppbの分析が可能になった。さらにJMTRでは数ppt分析が可能になった。　また、三頭らは高純度二酸化ケイ素とアルミニウムをJMTRで照射して二重中性子捕獲反応について研究している。コメント　　　　：　高純度材料中のウラン及びトリウムを分析する方法として放射化学中性子放射化分析法が開発された。その結果、機器中性子放射化分法(INAA)では分析できなかった数pptレベルの分析が可能になった。高純度材料を分析する技術として有効な手段である。原論文１ Data source 1：放射化学中性子放射化分析法による高純度二酸化ケイ素中の極微量ウラン及びトリウムの定量岡田　往子、平井　昭司武蔵工大　原研分析化学, Vol. 40, p. 549-555 (1991) 原論文２ Data source 2：中性子放射化分析法による高純度アルミニウム中の極微量なウラン及びトリウムの定量岡田　往子、平井　昭司武蔵工大　原研分析化学, Vol. 42, p. 249-254 (1993) 原論文３ Data source 3：二重中性子捕獲反応の影響がある中性子放射化分析における高純度二酸化ケイ素中のウラン及びトリウムの定量岡田　往子、平井　昭司、三頭　聡明^*⁾ 武蔵工大　原研、*)東北大　金研分析化学, Vol. 42, p. 779-785 (1993) 参考資料１ Reference 1： Activation Analysis of Uranium and Thorium Contained in High Purity Niobium Oxides Y.Okada, S.Hirai, Y.Suzuki, T.Mitsugashira^*⁾ Musashi Institute of Technology; *)Institute for Materials Research, Tohoku University Sci. Rep. RITU, A40, p. 25-28 (1994) 参考資料２ Reference 2： Neutron Activation Analysis For Ultra Low Contents of Uranium and Thorium in Aluminium and Silica T.Mitsugashira, Y.Koma, S.Hirai^*⁾, Y. Okada^*⁾, N.Kurashima^*⁾, H.Sakurai^*⁾ Institute for Materials Research, Tohoku University; *)Musashi Institute of Technology J. Radioanal. Nucl. Chem., Articles, Vol. 147, No.1, 69-77 (1991) キーワード：放射化学中性子放射化分析、高純度材料、二重中性子捕獲反応、二酸化ケイ素、アルミニウム、酸化ニオブ、ウラン、トリウム radiochemical NAA, high purity materials, double neutron-capture reaction, silicon dioxide, aluminium, niobium oxides, uranium, thorium 分類コード：040404、040103
放射線利用技術データベースのメインページへ