中性子放射化分析による考古学試料の産地同定

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作成： 1999/10/23 鈴木　章悟データ番号　　　：040192 中性子放射化分析による考古学試料の産地同定目的　　　　　　：考古学試料中の微量元素定量と産地同定放射線の種別　　：中性子放射線源　　　　：原子炉フルエンス（率）：1x10¹¹-8x10¹³n/(cm²・s) 利用施設名　　　：ミズーリ大学原子炉、立教大学原子炉(TRIGA-II型)、トロント大学SLOWPOKE原子炉照射条件　　　　：空気中応用分野　　　　：考古学・文化財、分析化学、材料科学、環境科学、非破壊分析概要　　　　　　：　数mgから数百mgの試料を原子炉で照射し、含有元素を放射化させ、その放射能を測定することにより多元素・同時分析を行う、中性子放射化分析法(NAA)を考古学分野へ応用した。黒曜石工芸品の産出地決定のため、5秒間照射の中性子放射化分析が行われ、Mn-Naの濃度相関から90%以上の適合率で産地が同定された例などを紹介する。詳細説明　　　　：　考古学遺物中に含まれる微量元素から、遺物の特性、製造技術、産地、流通経路等を解明する試みが、近年進められている。多くの微量元素に関する情報を得るための分析法の一つとして中性子放射化分析法がある。中性子放射化分析法では、数mgから数百mgの試料を研究用原子炉で照射し、含有元素を放射化させ、その放射能を測定して、元素を分析する。中性子放射化分析は20～50元素をppmレベル以下の濃度で同時に定量することができる高感度分析法であり、考古学試料には大変適した分析法である。土器・石器や青銅などの工芸品中の微量元素の定量が産地推定などのために行われた例を紹介する。　Glascockらは黒曜石工芸品の産出地決定のため、短時間照射の中性子放射化分析(NAA)を行った。メキシコ、グアテマラ、ベリーズ、ホンジュラス、エルサルバドル産の黒曜石工芸品1231個を分析した。照射は約25mgの試料をミズーリ大学原子炉の気送管(熱中性子束密度 8×10¹³ n・cm^-²・s^-¹)で5秒間行われた。25分冷却後、12分間のγ線測定を行って、Ba,Cl,Dy,K,Mn,Naを定量した。その結果、Mn-Naの濃度相関から90%以上の適合率で産地が同定された。　図1にグアテマラ、ベリーズ、エルサルバドル、ホンジュラスから出土した黒曜石工芸品のMn濃度とNa濃度の関係をあらわす散布図を示す。95%の信頼性で3つの楕円の範囲内に入り、これらの黒曜石工芸品はグアテマラにある3箇所の産地に分類できることがわかった。図1　Mn vs. Na scatterplot for obsidian artifacts from sites in Guatemala, Belize, El Salvador, and Honduras compared to the 95% confidence ellipses for Guatemalan sources.（原論文1より引用。　Reprinted, with permission of the copyrighter and the authors, from J. Radioanal. Nucl. Chem., vol.180, No.1,29 (1994), M.D.Glascock et al., Figure 6 (Data source 1, pp.33), Copyright (1994) by Akademiai Kiado.）　鈴木らは、NAAによりトルコのカマン・カレホユック遺跡出土の銅及び青銅製品の多元素定量を行った。遺物の表面は腐食して錆びているものが多く、中心部は金属性を残していた。このため、分析用試料を内部の銅金属部と周囲の錆部に分類した。試料重量10-25mgの47試料について立教大学原子炉で5秒または10秒間照射と6時間照射を行い、57元素の定量を試みた。42元素を定量し、遺物の年代による元素濃度分布の違いが調べられた。　図2に多くの遺物で定量できた12元素について、金属部の濃度分布を層別に示す。図2　金属部の元素濃度分布(●第Ⅱ層 BC8-BC4, ○第Ⅲ層 BC18-BC12) Distribution of concentration of elements in metallic part.（原論文2より引用。　日本文化財科学会のご承認に基づき、考古学と自然科学, Vol.29, 25-40 (1994), 図2　(Data source 2, pp.36)から転載したものです。）定量値のみを図に示しているが、一般的に第Ⅱ層(BC8-BC4世紀のフリギア時代)より第Ⅲ層(BC18-BC12世紀のヒッタイト時代)の方が元素濃度が低い傾向にあった。しかし、遺物の年代(層位)による分布の違いが特別に認められる元素はなかった。金属部試料のうちSnが定量できた9試料のうち、Sn濃度が3%以上含まれている4遺物は、Snが加えられた青銅遺物と考えられる。逆にSn濃度が1%以下の5遺物は、不純物としてのSnであり、銅遺物と考えられる。　Hancockらはカナダ北東オンタリオ地方の11遺跡から採取した26種類の銅、真ちゅう製品のNAAを行い、16元素の定量を試みた。照射は35-181mgの試料をトロント大学SLOWPOKE原子炉で1分間と16時間で行われた。濃度分布の例として、図3(a)にAuとAsの分布を、図3(b)にAuとSbの分布を示す。カナダ原産(NATIVE)とヨーロッパ産(EUROPEAN)に分布が分かれ、5種類の銅製品はヨーロッパ産であることがわかった。図3　(a) Scatterplot of As versus Au. (b) Scatterplot of Sb versus Au.（原論文3より引用。　Reprinted, with permission of the copyrighter and the authors, from J. Radioanal. Nucl. Chem., vol.168, No.2, 307 (1993), R.G.V.Hancock et al., Figure 2a and 2b (Data source 3, pp.313), Copyright (1993) by Akademiai Kiado.）　このほか、Jamesらは200種以上の土器(陶磁器)中の33元素のNAAを行い、統計処理により産地推定を行った。その結果3箇所の製造所があることがわかった。また、Volterraらは古代ローマ時代の石臼のNAAを行い12元素を定量し、23種類の石臼は2種類の起源を持つことがわかった。コメント　　　　：　中性子放射化分析法(NAA)を用いて多元素定量を行い、統計処理をして元素間の相関を求めることは考古学試料の産地同定の有力な手段である。特に、短時間で分析できる短時間照射・測定によっても数元素の定量が可能であり、これにより産地同定が可能な場合もある。多数の試料の分析を行わなければならない考古学の分野においては大変適している方法である。また、遺物の種類、形態などに依存しない分析技術である。原論文１ Data source 1： Sourcing archaeological obsidian by an abbreviated NAA procedure M.D.Glascock, H.Neff, K.S.Stryker, T.N.Johnson Missouri Univ. Research Reactor, MO, USA J. Radioanal. Nucl. Chem., Articles, Vol. 180, p. 29-35 (1994) 原論文２ Data source 2：中性子放射化分析法によるカマン・カレホユック遺跡出土の銅製品の多元素定量鈴木　章悟、平井　昭司、古谷　圭一^*⁾、平尾　良光²^*⁾ 武蔵工大原研、*)東京理科大理学部、2*)東京国立文化財研究所考古学と自然科学, Vol. 29, p. 25-40 (1994) 原論文３ Data source 3： Chemical analysis of archaeological copper and brass from northeastern Ontario R.G.V.Hancock, W.A.Fox^*⁾, T.Conway^*⁾, L.A.Pavlish Univ. Toronto, Toronto, CAN, *)Ontario Ministry of Culture and Communications, Toronto, CAN J. Radioanal. Nucl. Chem., Articles, Vol. 168, p. 307-315 (1993) 参考資料１ Reference 1： Compositional analysis of American Southwestern ceramics by neutron activation analysis W.D.James, R.L.Brewington, H.J.Shafer Texas A & M Univ., TX, USA J. Radioanal. Nucl. Chem., Articles, Vol. 192, p. 109-116 (1995) 参考資料２ Reference 2： Provenancing of ancient Roman millstones V.Volterra, R.G.V.Hancock Univ. Toronto, Toronto, CAN J. Radioanal. Nucl. Chem., Articles, Vol. 180, p. 37-44 (1994) キーワード：中性子放射化分析、考古学試料、産地同定、微量元素、原子炉、黒曜石、青銅 neutron activation analysis,archaeological sample,provenance identification,trace element,reactor,obsidian,bronze 分類コード：040404,040103
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