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作成: 1999/01/11 桝本 和義

データ番号   :040187
小型ロボットを利用した自動放射線計測システムの開発
目的      :試料の交換にロボットを採用することにより、各種放射能測定に最適の自動測定システムを実現する
放射線の種別  :ガンマ線,電子,中性子
利用施設名   :東北大学原子核理学研究施設、武蔵工業大学原子力研究所、日本原子力研究所
照射条件    :環境科学、地球科学、生物科学、材料科学

概要      :
 放射能測定での試料交換に小型ロボットを用いて、多数の試料を昼夜連続的に測定する作業の効率化が図られた。市販のサンプルチェンジャーに比べて、ロボットは非常に汎用性に優れ、種々の測定条件(試料、試料ホルダー、検出器の形状)に柔軟に対応でき、既存の検出器や計測機器とも自在な組み合わせができるため、放射能測定の自動化に大いに貢献してきた。また、ロボットの採用によって短期間で低価格に自動化を実現できた。

詳細説明    :
 放射化分析や環境放射能分析においては実に多種多様の形状の試料を多数、しかも連続的に長時間測定することを余儀なくされる。このため、専用のオート・チェンジャー付きのものが市販されているが、大型で、高価で、試料形状に制約があるなど汎用性に欠ける難点がある。
 このような測定の自動化に、小型ロボットが利用されてきた。ロボットの特徴はティーチングによって、種々の測定条件にフレキシブルに対応できるという点にある。ロボットを利用することで、1)液体(試験管、バイアル)、固体(ペレット,フォイル、試料皿)など種々の形状の測定試料、2)検出器の種類、形状、3)遮蔽の状況、4)放射能の強度に合わせた測定ポジションの変更などが柔軟に対応できるようになった。


図1 ロボット利用による実験室自動化の実例(東北大学原子核理学研究施設、1991)

 1991年頃の東北大学原子核理学研究施設のラボラトリオートメーションの実例を図1(原論文1)に示す。この施設では、パソコンをロボットおよびマルチチャンネルアナライザやカウンタのコントローラとして用いており、それらがネットワークで接続されている。パソコンが必要とするプログラムはサーバーから提供されるとともに、各パソコンの測定記録は学内のネットワークから見ることが出来るようになっている。どのメーカーの測定器もまったく同じ操作で制御が出来るようになっている。自動測定は、あらかじめ試料数、繰り返し数、測定時間を設定した後「試料ホルダーから試料をとり、検出器にセットし、測定開始する。測定終了後、データを取り込み、試料をホルダーへ返し、次の試料の測定にかかる。その間、データの解析も行う」といった手順で行われる。また、試料数、測定時間、データ処理内容は中途でも変更可能である。新たな形状の試料やホルダーを用いる場合には、ロボットにその動作をティーチングする必要がある。ティーチングはPCまたはティーチング・ボックスから行われ、主要な移動箇所をロケーションとして記憶させたのち、記憶したロケーションをポイントツーポイント方式で連続動作させる。ティーチングは容易で、1時間以内には終了する。
 このようなロボットの採用は、1984年に東北大学原子核理学研究施設(参考資料1)において初めて試みられて以来、各所で同様のシステムが採用されてきた(参考資料2)。1988年には米国での例(参考資料3)が報告され、最近では武蔵工業大学原子力研究所(参考資料4)、日本原子力研究所研究用3号炉、東京大学原子力研究総合センター、高エネルギー加速器研究機構などでも採用されるようになってきた。
 ロボットのタイプとしては円筒型に比べて複雑な動作が可能な多関節(アーム)型が利用されている。試料ホルダーには、「ターンテーブル方式」(参考資料1)、ラックの下から取って上に戻す「落下方式」(原論文1、参考資料2)、試料位置を固定した「トレイ方式」(参考資料3、4)が採られている。施設によっては遮蔽体の扉を開ける(参考資料4)、ターンテーブルを回す(参考資料1)、遮蔽体内にセットした試験管を遮蔽外に押し上げるためのブロアーのスイッチを押すなど実に様々な工夫がされている。


図2 ロボットによる試料交換例(上:落下方式によるペレット状試料の交換、中:ターンテーブルによる試験管試料の交換、下:ターンテーブルによる濾紙試料の交換)

 自動化によって、1)放射線被曝の低減、2)測定操作の人為的ミスの解消、3)単調な作業から実験者の解放に役立っただけでなく、地学、生物学、工学など多くの非専門分野の研究者のRI利用を促進することにつながった。この10年間のコンピュータ、測定器の進展には目を見張るものがあり、測定システムは次々と増設、更新され、ネットワーク環境も整備されてきた。しかし、当初の狙い通りロボット・システムはそのまま利用されている。このようにロボットの利用は放射線計測分野におけるラボラトリ・オートメーションに大きな役割を果たすと期待される。

原論文1 Data source 1:
An automatic measurement system for radiochemical study using small robots and PC-LAN
K.Masumoto, S.-I.Ushino, M.Mutoh, M.Yagi, and T.Yoshida
Laboratory of Nuclear Science, Faculty of Science, Tohoku University
Laboratory Robotics and Automation, Vol. 6, p. 21-27 (1994)

参考資料1 Reference 1:
An automatic gamma-ray spectrometer equipped with a micro-robot for sample changing
M.Yagi, K.Masumoto, M.Muto
Laboratory of Nuclear Science, Faculty of Science, Tohoku University
J. Radioanal. Nucl. Chem., Vol. 98, p. 31-38 (1986)

参考資料2 Reference 2:
Photon activation analysis of standard rocks using an automatic gamma-ray counting system with a micro-robot
T.Yoshida, K.Masumoto, K.-I.Aoki
Dept. Geol., Fac. Sci., Tohoku Univ.
J. Jpn. Assoc. Min. Pet. Econ. Geol., Vol. 81, p. 406-412 (1986)

参考資料3 Reference 3:
A robotic sample changer for a radiochemistry laboratory
Tompson C.M., Sebesta A., Ehmann W.D.,
Dept. Chem., Univ. Kentucky,
J. Radioanal. Nucl. Chem., Vol. 124, p. 449-455 (1988)

参考資料4 Reference 4:
ロボットによる放射化分析用試料交換システムの開発
鈴木 章吾、平井 昭司
Inst. Atom. En., Musashi Univ.
Radioisotopes, Vol. 42, p. 467-469 (1993).

キーワード:放射能測定、ロボット化、実験室自動化、放射化分析
radioactivity measurement, robot, laboratory automation, activation analysis
分類コード:040104, 40302, 040404

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