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作成: 1999/10/01 武内 孝之

データ番号   :040186
放射化分析による日本人の毛髪中の元素濃度定量
目的      :日本人の毛髪中の平均元素濃度の算出
放射線の種別  :中性子,ガンマ線
放射線源    :原子炉(5MW)
フルエンス(率):2x1013/(cm2・s)
利用施設名   :京都大学原子炉実験所原子炉
照射条件    :大気中
応用分野    :環境科学、環境医学、生理学

概要      :
 正常な日本人の毛髪中元素濃度の平均レベルを算出するために、原子炉による機器的中性子放射化分析行ない、28元素を定量した。検出限界以下の濃度の影響を受けないような統計的処理を行ない、年齢、性別、パーマ(パーマネント)有無による毛髪中の元素濃度の変化を調べた。性別、年齢、パーマの有無によって分類されたグループ毎に、濃度の対数値を用いて元素間の相関係数を計算し、それらの有意水準から元素間の相関関係を明らかにした。

詳細説明    :
 提供者に関する情報とともに毛髪が集められ、その中からできるだけ性別、年齢、行政区域が等しくなるように、342人分の試料が選ばれた。それらの試料は国際原子力機関(IAEA)の助言グループによって推奨された標準手続きに基いて分析された。試料は京大炉の圧気輸送管照射設備で1分間照射された後、10分以内に200秒間ガンマ線が測定され、Al、Br、Ca、Cl、Cu、I、Mg、Mn、S、Ti、V等の元素が定量された。また、1時間照射された試料は、2日間の冷却時間の後に1000秒間測定され、As、Au、Cd、Eu、K、La、Na、Sm等の元素が定量された。さらに、1ヶ月の冷却時間の後に10k秒間測定され、Ag、Co、Cr、Fe、Hg、Sb、Sc、Se、Zn等の元素が定量された。標準試料からのHgの照射中および照射後の揮散損失を最小化するために、標準試料にチオアセトアミドを添加し、かつ湿った状態に保った。
 全ての分析試料から、毛髪中に検出される全元素が検出されるわけではないので、検出された試料のみから計算された算術平均、幾何平均、中央値などは、検出限界以下の濃度を考慮に入れていないために、真の値よりも高い値を示す。一方分析された全試料についての中央値は、全試料についての累積度数分布直線から求めることができ、半数以上の試料について分析された元素については、検出限界の影響を受けない。
 年齢による元素濃度の変化を調べるために、試料を性別および毛髪処理によって分類した。わが国における教育システムから6歳という年齢幅が選ばれた。その年齢幅に含まれる試料数が少なくなれば、中央値のばらつきが比較的大きくなる。そのばらつきを小さくするために全分析値について2個の組み合わせの平均値を計算し、累積度数分布を再構築した。このようにして2歳毎の移動平均値が得られたので、年齢の関数としてプロットした。例を図1から図3に示した。


図1 Variations of the medians for macro elements in terms of age.(原論文2より引用。 Reprinted, with permission of the authors, from J. Radioanalt. Chem., vol.70, No.1-2 (1982), T.Takeuchi et al., Figure 2 (Data source 2, pp.44), Copyright (1982) by Akademiai Kiado.)



図2 Variations of the medians for essential trace elements in terms of age.(原論文2より引用。 Reprinted, with permission of the authors, from J. Radioanalt. Chem., vol.70, No.1-2 (1982), T.Takeuchi et al., Figure 3 (Data source 2, pp.45), Copyright (1982) by Akademiai Kiado.)



図3 Variations of the medians for possibly essential trace elements in terms of age.(原論文2より引用。 Reprinted, with permission of the authors, from J. Radioanalt. Chem., vol.70, No.1-2 (1982), T.Takeuchi et al., Figure 4 (Data source 2, pp.46), Copyright (1982) by Akademiai Kiado. )

これらの結果から、つぎのような特徴があることが分かった。
 (1)SとSeの場合、年齢、性別、パーマの有無に関係してほとんど違いは見られない,
 (2)他の元素については、年齢、特に成長期に変化が見られる,
 (3)いくつかの元素については、パーマの有無で違いが見られる,
 (4)パーマの無い場合には、年齢による変化のパターンは男女について良く似たパターンを示す。
 成長期における濃度の変化を詳しく見ると、Cl、I、Al、K、VおよびMnについては年齢とともに次第に濃度が減少するのが、両性において見られ、CoとAsについては女性に、Brについては男性に見られる。逆に、Mg、Ca、Cu、およびZnについては年齢とともにしだいに濃度が増加するのが、両性について見られる。パーマの影響を調べると、Br、Mg、Ca、Co、MnおよびAuなどの元素の濃度は増加するが、Cl、NaおよびKなどの元素の濃度は減少する。S、Se、Zn、HgおよびCuなどの元素の濃度はパーマの影響をあまり受けない。
 性別、年齢別、パーマの有無によってグル-プ分けされた試料について、濃度の対数値を用いて元素間の相関係数が計算され、その相関係数の有意レベルを求めた。それをもとに元素間の相関関係を図示した。その結果、元素は大きく2つのグループに分かれ、同じグループ内の元素間では正の相関関係を持ち、他のグル-プの元素間では負の相関関係を持つことが分かった。ひとつのグループはK、Na、Mn、V、Al、Cl、BrおよびIであり、他のグループはCu、Mg、Ca、Zn、SおよびCoである。またパーマをかけた女性においては、パーマをかけていない場合に比べてまったく異なった相関関係を示すことが分かった。このことからパーマをかけることによって、元素間の相関関係がほとんど破壊されることが分かった。

コメント    :
 非破壊中性子放射化分析で毛髪中の28元素が分析された。その内18元素については半数以上の試料について分析され、全試料に対する中央値の算出が可能となった。その結果年齢による濃度変化などの詳細な検討が可能となった。

原論文1 Data source 1:
Survey of trace elements in hair of normal Japanese
T.Takeuchi, T.Hayashi, J.Takada, M.Koyama, H.Kozuka, H.Tsuji, Y.Kusaka, S.Ohmori, M.Shinogi, A.Aoki, K.Katayama, T.Tomiyama
Research Reactor Institute, Kyoto University, Osaka 590-04; Toyama University, Toyama 930-01; Konan University, Kobe 658; Osaka Prefectural Institute of Public Health, Osaka 537; Kobe Women's College of Pharmacy, Kobe 658; Kyoto Prefectural University, Kyoto 606; Kyoto University, Kyoto 606; Okayama College of Science, Okayama 700
Nuclear Activation Techniques in the Life Sciences 1978, International Atomic Energy Agency, Vienna, 1979, p. 545-561.

原論文2 Data source 2:
Variation of elemental concentration in hair of the Japanese in terms of age, sex and hair treatment
T.Takeuchi, T.Hayashi, J.Takada, Y.Hayashi, M.Koyama, H.Kozuka, H.Tsuji, Y.Kusaka, S.Ohmori, M.Shinogi, A.Aoki, K.Katayama, T.Tomiyama
Research Reactor Institute, Kyoto University, Osaka 590-04; Toyama Medical and Pharmaceutical University, Toyama 930-01; Faculty of Science, Konan University, Kobe, 658; Osaka Prefectural Institute of Public Health, Osaka 537: Kobe Women's College of Pharmacy, Kobe 658; Kyoto Prefectural University, Kyoto 606; Faculty of Agriculture, Kyoto University, Kyoto 606; Okayama College of Science, Okayama 700
J. Radioanal. Chem., Vol. 70 (1982) p. 29-55.

キーワード:原子炉、中性子照射、放射化分析、日本人、毛髪
nuclear reactor, neutron irradiation, activation analysis, Japanese, hair
分類コード:040103, 040301, 040404

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