水試料の前濃縮中性子放射化分析

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作成： 1999/10/31 酒井　陽一データ番号　　　：040183 水試料の前濃縮中性子放射化分析目的　　　　　　：前化学濃縮操作をともなう中性子放射化分析による水試料中微量成分の定量法の開発放射線の種別　　：ガンマ線,中性子放射線源　　　　：原子炉(100kW) フルエンス（率）：1.5x10¹²/(cm².s) 利用施設名　　　：立教大学原子力研究所原子炉照射条件　　　　：大気中、室温、気送管応用分野　　　　：環境科学、地球科学概要　　　　　　：　活性炭を利用した前化学濃縮操作をともなった中性子放射化分析法で、水試料中の微量セレン、バナジウム、銅が精度よく簡便に定量された。セレンについてはセレン(IV)とセレン(VI)と化学形態別の前分離法が考案・適用された。バナジウム、銅の定量法は多数の水道水、天然水試料に対し応用された。分析核種としては⁷⁷^mSe, ⁵²V, ⁶⁶Cuの短半減期核種を用いた。詳細説明　　　　：　放射化分析を、実験操作の手順の面から分類すると、機器放射化分析(IAA)、前化学濃縮放射化分析(CAA)、放射化学的放射化分析(RAA)の3つに大別される。これらの基本的なちがいは、分析手順における化学分離操作の有無、その手順の位置による。IAAでは化学分離操作はない。CAAとRAAでは化学分離操作が、それぞれ、照射の前後に設定される。放射化分析の特長は非破壊多元素同時定量にある。　これを活かしたのがIAAである。乾燥、粉砕、秤量程度の簡単な前処理の後、照射、γ線スペクトロスコピーで多くの元素の定量ができる。放射化分析の現状をみるとIAAによる利用者が圧倒的に多い。そのような現状の中CAAあるいはRAAの存在価値はどこにあるのだろうか?　IAAの特長は「多元素」定量であり、「全元素」定量ではない。IAAではどうしても定量できない元素がある。照射時間、冷却時間の調整により、定量元素数を増やす工夫は可能である。しかし、試料のマトリクス元素より生成する放射性核種による妨害は避けることができない。特に短寿命の分析核種しか得られない元素においては、妨害核種の減衰を待つことができず事実上IAAでは定量できない。　そこで、γ線測定前に予め、定量をしたい元素と妨害元素を化学分離することになる。化学分離操作を照射の前に行うのがCAAであり、照射後に施すのがRAAである。CAAとRAAでは明らかに特定の元素あるいは元素群に狙いが定まっている。CAAはさらに2つに分類される。(1)元素、もしくは元素群を分離・濃縮する方法(ElCAA)、(2)元素のみの分離で終わらず、さらに化学形のちがいも含めて分離後放射化分析する方法(MoCAA)である。以下にCNAA(前分離中性子放射化分析)を水試料に応用して成功した例を示す。　セレン(IV)とセレン(VI)の分別定量 [1] 　MoNAAに分類される分析法である。水溶液中のSe(IV)がビスムチオールⅡ (BisⅡ)と選択的に反応し活性炭に吸着されることが基本的な原理である。図1にSe(IV)を吸着させる化学操作を示した(化学操作Ⅰ)。図2の操作では、まずSe(VI)を塩化ヒドロキシルアミンでSe(IV)に還元した後、化学操作ⅠによりSe(IV)を活性炭に吸着させた(化学操作Ⅱ)。試料水を2分し、化学操作ⅠとⅡの両方で処理した。図1　化学操作Ⅰ.Se(IV) の化学分離濃縮操作図2　化学操作Ⅱ.Se(IV) + Se(VI) の化学分離濃縮操作　　前者により試料中のSe(VI)が、後者によりSe(IV)+Se(VI)が分離濃縮される。このようにして調製した試料を立教大学原子炉気送管で20秒間照射し、直ちに20秒間γ線スペクトロメトリーをおこなった。着目した核種は⁷⁷^mSe(半減期；17.5秒)で、分析線は162.0 keV γ線であった。純水、Se濃度が検出限界以下であることが確認された海水に既知量のSe(IV),Se(VI)を添加したモデル試料水に対し上記の手法で前化学濃縮、中性子放射化分析した結果、Se(IV), Se(VI)の分別定量が0.1 ppbレベルの濃度で、可能であることが示された。以上に述べたように、CAAでは照射前に種々の試薬を加えたり、吸着媒を使用する。試薬、吸着媒に定量目的とする元素の汚染があっては、この手法はまったく意味をなさなくなる。汚染の有無のチェック、汚染の防止、除去には十分留意する必要がある。　バナジウムの前濃縮中性子放射化分析 [2],[3] 　天然水、水道水中のバナジウムは、pH領域とV濃度から5価、V(V)、であるとされる。V(V)をオキシンを吸着補助剤として用い活性炭に吸着分離し、中性子放射化分析する方法が確立された。ElNAAの分類に入る。図3に前濃縮化学分離のスキームを示した。図3　V の化学分離濃縮操作　　前濃縮により調製された試料を原子炉気送管で100秒間照射し数分間のクーリング後、100秒間のγ線分析を行った。分析線は、⁵²Vから放出される1434keVの光電ピークであった。純水に既知量のV(V)を添加し、前述の前化学濃縮操作／中性子放射化分析を行った結果、水試料中のV(V)の回収率は99.8±2.1%と求められた。水道水(V; 0.22ppb)と海水(V; 1.02ppb)に既知量のV(V)を添加した試料について、添加量と計数値の関係を調べたところ直線性のよい検量線が得られ、実試料に対するこの方法の適用の妥当性が示された。本法は多数の水道水、天然水試料に応用された。　銅の前濃縮中性子放射化分析 [4] 　上で述べたVの前分離濃縮／NAAとまったく同じ実験条件で、⁶⁶Cu(半減期；5.10分)の1039keV-γ線を分析線として、水試料中のCuを定量できることが分かった。⁶⁴Cu(半減期；12.7時間)を分析核種とした放射化分析も同一試料に対し行われた。コメント　　　　：　前化学濃縮操作を併用する放射化分析法は、特定の元素、元素に狙いを絞った定量法である。場合によっては化学状態を分別して微量化学成分を定量することも可能である。放射化分析の照射・測定に至るまでの操作(照射試料の作成)は、多少の時間と労力を要することは否めないが、照射・測定操作は比較的簡便に、かつ短時間で行えるという特長をもつ。試料の性質、定量の目的によっては効率のよい便利な手法である。原論文１ Data source 1： Determination of selenium(IV) and selenium(VI) in natural water samples by neutron activation analysis after chemical pre-collection Y.Sakai, K.Tomura, and K.Ohshita Daido Institute of Technology, Nagoya 457-8532, Japan J. Radioanal. Nucl. Chem., Lett., Vol. 187, p. 441-450 (1994) 原論文２ Data source 2：前分離濃縮／中性子放射化分析による水試料中のバナジウムの定量酒井　陽一、大下　一政、戸村　健児、輿水　達司大同工業大学、名古屋 457-8532 分析化学、Vol. 43, p. 919-924 (1994) 原論文３ Data source 3： Geochemical study of trace vanadium in water by preconcentrational neutron activation analysis Y.Sakai, K.Ohshita, S.Koshimizu, and K.Tomura Daido Institute of Technology, Nagoya 457-8532, Japan J. Radioanal. Nucl. Chem., Vol. 216, p. 203-212 (1997) 原論文４ Data source 4： Determination of trace copper in water samples by neutron activation analysis preceded by preconcentration on activated carbon powder Y.Sakai, K.Tomura, K.Ohshita, and S.Koshimizu Daido Institute of Technology, Nagoya 457-8532, Japan J. Radioanal. Nucl. Chem., Vol. 230, p. 261-263 (1998) キーワード：原子炉、熱中性子、放射化分析、前化学濃縮、水試料、セレン、バナジウム、銅 nuclear reactor, thermal neutron, activation analysis, preconcentration, water sample, selenium, vanadium, copper 分類コード：040404, 010507
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