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作成: 2000/2/10 早川 吉則

データ番号   :040182
放射線治療における線量測定
目的      :放射線治療のための線量測定
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線,電子,陽子,中性子,軽イオン
線量(率)   :2〜60Gy
利用施設名   :γ線治療施設、X線・電子線治療施設、陽子線治療施設、速中性子治療施設
応用分野    :放射線治療、放射線滅菌

概要      :
 放射線治療の線量測定は患者の生死が関係し重要である。現場での線量測定は通常電離箱で行われている。この電離箱の較正はコバルト-60のγ線場で標準電離箱との比較をして行われる。この標準電離箱の絶対較正は他の一次線量計との比較によって行われる。人体の軟組織は大部分水でできているので、放射線治療では水に対する吸収線量が重要である。このため、水または水に原子組成が近いグラファイトで作られた熱量計が主として用いられる。

詳細説明    :
 放射線治療の線量測定は、どのような放射線及び放射線源を使うか、また放射線の照射方法はどうかなどにより表1の様に分類できる。

表1 放射線照射方法とそれに使われる放射線
照射の方法            放 射 線 の 種 類
または    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
線源の種類  X 線     γ 線      超高圧X線     電 子 線
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
外部照射
−−−−
      表在治療用X線  テレコバルト   ライナック     ライナック
               ガンマ・ナイフ  サイバー・ナイフ  マイクロトロン
               コバルト60       マイクロトロン
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
密封小線源
−−−−−
 腔内照射           コバルト60管
               イリジウム管
               (アフターローディング)
 
 組織内照射               イリジウムワイヤ
               (刺入後除去)
              (アフターローディング)
              金グレイン
                           (刺入後放置)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
非密封小線源
−−−−−−
 コロイド状  <−−− 198Au金コロイドによる胸腔・腹腔内照射 −−−−>
 RIの注入
  
 組織親和性  <−−− 131I(β線、γ線)甲状腺癌・甲状腺機能亢進症 −>
 を利用した  <−−− 125I(γ線、X線) −−−−−−−−−−−−−−>
 RIの注射   <−−− 89Sr(β線)癌の骨転移の治療 −−−−−−−−−>
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照射の方法            放 射 線 の 種 類
または    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
線源の種類  速中性子線   陽 子 線   重イオン線   低速中性子線
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
外部照射
−−−−
       サイクロトロン サイクロトロン サイクロトロン 原子炉
       シンクロトロン シンクロトロン シンクロトロン 加速器
                                                          ホウ素10化合物注入
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
密封小線源
−−−−−
 腔内照射  252Cf管
        (アフターローディング)
 
 組織内照射 252Cf針
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 放射線治療現場での吸収線量の測定には通常電離箱を使用する。放射線治療の線量測定は患者の生死が関係し、線量投与の正確さが厳しく要求されるので、線量測定の国際相互比較が時々行われている。X線、ガンマ線、電子線については、治療現場での投与線量の精度は±2%以下、患者に対する投与線量の全不確定度は±5%以下が要求されている(原論文1), 7頁)。この他の放射線についてはこれほどの精度は達成されていない。
 現場で使用する電離箱は通常コバルト-60γ線で、標準電離箱との比較によって較正されている。この場合、水ファントム中のコバルト-60に対する較正深と呼ばれる水深5cmに電離箱を設置して比較較正する。日本のγ線、X線、電子線の治療施設では、電離箱の形状や材質も規定し、JARP電離箱と呼ばれるアクリル壁、アルミニウムの心線を用いた指頭型電離箱を使うことが日本医学放射線医学会で決められている。この場合、JARP電離箱の較正は便宜的に較正深ではなく、5mmのアクリルビルドアップ・キャップをかぶせた状態で空気中で行われることが多い。
 しかし、コバルト-60γ線以外の放射線、特に陽子線・重イオンなどの荷電粒子線や中性子線などの粒子線に対する電離箱の感度は、放射線に対するガスのW値、特にパルス放射線では再結合の補正、荷電粒子線に対するガスの阻止能などの値に不確定性があるという難点がある。(ここで、W値とは、放射線がガス中で電離を引き起こすために必要とするエネルギーの平均値で、励起で失われたエネルギーも含むため、イオン化エネルギーよりかなり大きくなる)。そのため、このような放射線に対する較正をするための標準電離箱は、一次標準線量計で較正して使用する必要がある。
 一次標準線量計として、通常熱量計が用いられている。治療現場では水に対する吸収線量を用いているので、熱量計には水を用いるのが原子組成的には好ましい。しかし、水にはヒート・ディフェクトと呼ばれ、放射線から吸収したエネルギーのうち約3%が化学的エネルギーになり、熱の発生がそれだけ少なくなるという現象がある。図1に示すような水熱量計を用いる場合には、このヒート・ディフェクトを考慮に入れる必要がある。


図1 Main features of Domen's sealed water calorimeter for measuring absorbed dose (Domenの封入型水熱量計)。断熱された静止水中にガラス容器があり、その中に高純度の蒸留水と温度測定用のサーミスタが入っている。蒸留水の化学反応によるヒート・ディフェクトは分かっている。 (原論文7より引用。 Reprinted courtesy of the National Institute of Standards and Technology, Technology Administration, U.S. Department of Commerce,from J. Res. Natl. Inst. Stand. Technol., 99 (1994) 121-141, Figure 1 (Data source7, pp.122).)

 若干有効原子番号は異なるが、図2に示すようなグラファイトを用いた熱量計の方がヒート・ディフェクトが無く、化学的に熱量計に適している(電子線の場合、95%信頼幅で±1.5%の精度)。


図2 Schematic diagram of calorimeter (グラファイト熱量計). (原論文3より引用。 Reproduced, with permission of the authors, from M.R.McEwen et al., Phys.M ed. Bio., vol.43, 2503 (1998), Figure 1 (Data source 3, pp.2504), Copyright (1998) by Institute of Physics Publishing. )

 なお、温度上昇測定はサーミスタで行うが、この測定回路の較正のため、通常電熱線によるヒーターを組み込んでいる。グラファイトは水とは原子組成が異なるので、水の吸収線量を求めるにはこの補正をしないといけない。コバルト-60γ線だけに限れば、このような補正により原子組成の異なる熱量計、電離箱、鉄線量計とも0.2%位の精度で一致する(原論文5のTable2)。速中性子に対しては、原子組成が異なることは致命的なので、水熱量計が用いられている(原論文6)のFigure 1)。

原論文1 Data source 1:
吸収線量の標準測定法
日本医学放射線学会物理学会編
通商産業社, (1986)

原論文2 Data source 2:
Water calorimetry for radiation dosimetry
C.K.Ross and N.V.Klassen
Institute for National Measurement Standards, National Research Council, Ottawa, Ontario K1A 0R6, Canada
Phys. Med. Biol., 41 (1996) 1-29.

原論文3 Data source 3:
The callibration of therapy level electron beam ionization chambers in terms of absorbed dose to water
M.R.McEwen, A.R.Du Sautoy and A.J.Williams
Centre for Ionising Radiation Metrology, National Physical Laboratory, Teddington, Middlesex TW11 0LW, UK
Phys. Med. Biol., 43 (1998) 2503-2519.

原論文4 Data source 4:
The UK primary standard calorimeter for photon-beam absorbed dose measurement
A.R.DuSautoy
National Physical Laboratory, Teddington, Middlesex TW11 OLW, UK
Phys. Med. Biol., 41 (1996) 137-151.

原論文5 Data source 5:
Absorbed Dose in Water: Comparison of several methods using a liquid ionization chamber
O.Mattsson, H.Svensson, G.Wickman, S.R.Domen, J.S.Pruitt and R.Loevinger
The Department of Radiation Physics, Sahlgrenska Sjukhuset, Goteborg, The Radiation Physics Department, University of Umea, Sweden, and The Center for Radiation Research, National Institute of Standards and Technology, Gaithersburg, MD, USA
Acta Oncologica, 29 (1990) 235-240.

原論文6 Data source 6:
A water calorimeter for neutron dosimetry
G.Galloway, J.R.Greening and J.R.Williams
Department of Medical Physics and Medical Engineering, Western General Hospital, Edinburgh EH4 2XU, Scotland
Phys. Med. Biol., 31 (1986) 397-406.

原論文7 Data source 7:
A Sealed Water Calorimeter for Measuring Absorbed Dose
S.R.Domen
National Institute of Standards and Technology, Gaithersburg, MD 20899-0001, U. S. A.
J. Res. Natl. Inst. Stand. Technol., 99 (1994) 121-141.

キーワード:線量測定、電離箱、熱量計、放射線治療、X線、電子線、γ線、陽子線、中性子線
Dosimetry, Ionization Chamber, Calorimeter, Radiotherapy, X-rays, Electron Beam, Gamma-rays, Proton Beam, Neutron Beam
分類コード:030201,030202,030404,030701,040302

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