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作成: 2000/2/19 槙野 文命

データ番号   :040181
宇宙放射線用のTLD線量モニターシステム
目的      :スペースステーションでの宇宙放射線による被曝管理のためのTLD線量モニター
放射線の種別  :電子,陽子,中性子,重イオン
放射線源    :宇宙放射線(放射線帯粒子、宇宙線)
フルエンス(率):陽子( > 10MeV) 0.1-500/cm2/s、電子( > 100keV) 10-1000/cm2/s (静穏時)
線量(率)   :3μGy-10Gy
利用施設名   :ミール宇宙ステーション、スペースシャトル
照射条件    :有人宇宙ステーションの船内および船外
応用分野    :線量計測、放射線防護

概要      :
 国際宇宙ステーションに搭載して、宇宙放射線の線量を計測するための熱ルミネセンス線量計(TLD)を製作し、サリュートー6, 7号, ミール宇宙ステーション, スペースシャトルで測定を行った。

詳細説明    :
 低高度(500 km以下)軌道の宇宙船には人が長期に滞在する計画があり、宇宙放射線の線量を正確にモニターすることが必要である。特に、それは国際宇宙ステーションの組立や運用の際に重要となり、線量計は高信頼性で、宇宙環境での使用に耐えるものでなければならない。
 このための熱ルミネセンス線量計は、1)多数の素子が使用できること、2)小型軽量の可搬型線量読み取り装置,3)高感度,高精度で、3μGyから10 Gyまでの広い感度領域が必要である。この仕様に適合するものとして,以下の装置を製作した。


図1 Cross section of the TL Dosimeter.(原論文1より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter, from Radiat. Protec. Dosimetry, vol.84, Nos.1-4, 321 (1999), I.Apathy et al., Figure 1 (Data source 1, pp.321), Copyright (1999) by Nuclear Technology Publishing.)

 TLDセンサー部の断面図は図1に示すように、ガラスの真空管(a)の中に熱ルミネセンス物質(b)を抵抗発熱体(c)と貼り合わせて封入したものである。熱ルミネセンス物質として高感度のCaSO4:Dyを使用する。各真空管はアルマイト加工をした筒に入れて,万年筆のようなホルダーに仕上げる。電極部に取り付けられたプログラマブルメモリー(d)には識別番号とキャリブレーションパラメーターが納められている。入射窓(e)は通常はステンレスの管(f)で覆われている。これはセンサーに光が当たらないようにすると共に、窓の保護及び読み取り直後の高温の窓に人が触らないようにするものである。ステンレスの管は読み取り装置に挿入すると自動的に後ろへ動き窓を開ける。ホルダーの一端にある金メッキをした3個の電極(g)はヒーターとメモリーの読み出しのためのものである。ホルダーの他端はギザギザのヘッド(h)になっていて、そこにメモリーチップと内容と同じコード番号が彫刻してあって、読み取り中に目視で確認できる。読み取り中を除いて,線量計は保護金属ケースに納められている。線量計の直径は20mm,長さは60mm,重さはケースに入った状態で70gである。
 TLD読み取り装置は線量計の吸収線量を読み取って、記録するもので、マイクロプロセッサー制御になっている。ヒーター電源はD/A変換器で制御され、電流は0.5-6.0Aの範囲で可変である。線量計の光は光電子増倍管で電流に変換され、これをA/D変換器で12ビットのデジタル値にしてメモリーに記録する。測定範囲は8桁に及ぶ。光に対する感度の較正は発光ダイオードで行う。光電子増倍管の高圧電源もD/A変換器で制御されており、他の読み取り装置と感度が同じになるように設定されている。マイクロプロセッサーは測定の全過程の制御、ルミネセンスの成長曲線の記録、線量の決定、データおよびパラメーターの記録と表示を行う。バッテリー駆動のメモリー付きタイマーを備えていて、時刻の発生と自動測定の際の制御を行っている。すべてのパラメーターは消去可能なプログラマブルメモリー(EEPROM)に記録されている。読み取り装置は押しボタンスイッチで操作でき、情報は発光ダイオードで表示される。RS-232標準ポートでパソコンに接続することもできる。取りだし可能なメモリーには8000回の測定を記録することができる。19-34Vの電圧で動作し、消費電力は15W以下、重量は1.4kgで、大きさは19×7×12cm、動作温度は-20から+40℃である。装置は打ち上げ時の衝撃および宇宙環境での仕様を満たしている。TLDはCaSO4:Dy, Al2O3:C, および平均LET値を求めるためのLiFを使用することが出来る。中性子用の減速材つきの6LiF/7LiF対も検討中である。測定範囲はCaSO4:Dyで3μGyから10Gy(精度< 10%)である。読み出し精度は有効数字3桁で、桁は指数で表される。装置のブロックダイアグラムを図2に示す。


図2 Simplified block diagram of the reader.(原論文1より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter, from Radiat. Protec. Dosimetry, vol.84, Nos.1-4, 321 (1999), I.Apathy et al., Figure 2 (Data source 1, pp.322), Copyright (1999) by Nuclear Technology Publishing.)

 実際の使用はミール宇宙ステーションで、1995年10月25日から12月3日まで、1996年2月17日から22日までと、1997年2月6日から5月6日まで行われた。高度は約400km、軌道傾斜角は51.6°である。1995年の実験では、CaSO4:Dyを船内の5箇所と個人用に使用した。一日毎の手動読み取りでは個人用が最も低く、10.3±0.4μGy/h、最大は睡眠用船室の14.4±0.5μGy/hであった。1996年の実験では、TLDを読み取り装置に挿入したままで、1時間毎に自動的に読み出して測定した。データはメモリーカードに記録された。この方法により、南大西洋地磁気異常帯(SAA)とそれ以外での線量を分けて測定することができた。SAAは放射線帯が低くなっている領域で、平均150μGy/d、それ以外の銀河宇宙線によるものが、平均150μGy/dであった。船内は12-14μGy/hであった。SAAは南緯30度、西経42度を中心にして経度で50度にわたって広がっていることがわかった。1997年の測定では、CaSO4:DyとLiF:Mg,Tiが用いられ、船内の8箇所と2人の船外活動をする宇宙飛行士に取りつけられた。船外活動は5時間で、この間に2回SAAを通過した。従って、平均の線量は船内で23.0μGy/h、2人の船外の宇宙飛行士の線量は72.7μGy/hと高くなっている。船外の宇宙飛行士の線量は船内の3.15倍であった。LiFの生成曲線の高温部の比から出した平均のLETは7.5±1keV/μmであった。

コメント    :
 宇宙飛行士の被曝管理を目的とした線量計の開発と実際の測定結果である。簡便で使用しやすく、測定精度も高い。実用できる段階に達している。これに対してわが国では、半導体粒子線検出器で、LETを測定して線量当量を掛け、線量をその場で計算するものが試作され、試験されている。取り扱いの容易さ、測定線量範囲から考えるとヨーロッパの線量計が優れている。

原論文1 Data source 1:
An On-Board TLD System for Dose Monitoring on the International Space Station
I.Apathy, S.Deme, L.Bondnar, A.Csoke and I.Hejja
KFKI Atomic Energy Research Institute, H-1525 Budapest, PO Box 49, Hungary
Radiation Protection Dosimetry, Vol. 84, Nos. 1-4, 321-323 (1999)

原論文2 Data source 2:
Doses Due to the South Atlantic Anomal During the Euromir'95 Mission Measured by an On-Board TLD System
S.Deme, G.Reitz*), I.Apathy, I.Hejja, E.Lang and I.Feher
KFKI Atomic Energy Research Institute, H-1525 Budapest, PO Box 49, Hungary; *)DLR, Institut fur Luft- und Raumfahrtmedizin, DLR/FF-ME, Abteilung Strahlenbiologie, Linder Hohe D-51147, Koln, Germany
Radiation Protection Dosimetry, Vol. 85, Nos. 1-4, 301-304 (1999)

原論文3 Data source 3:
Extra Dose Due to Extravehicular Activity During the NASA4 Mission Measured by an On-Board TLD System
S.Deme, I.Apathy, I.Hejja, E.Lang and I.Feher
KFKI Atomic Energy Research Institute, H-1525 Budapest, PO Box 49, Hungary
Radiation Protection Dosimetry, Vol. 85, Nos. 1-4, 121-124 (1999)

キーワード:熱ルミネセンス線量計、TLD, 宇宙放射線、国際宇宙ステーション
thermoluminescence dosimeter (TLD), TLD, space radiation, International Space Station (ISS)

分類コード:040303

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