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作成: 1999/10/26 須永 博美

データ番号   :040179
放射線加工処理用X線源と線量計測
目的      :放射線加工処理のためのX線源および線量測定技術の開発
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :電子加速器(2MeV, 30mA)、電子加速器(3MeV, 25mA)、電子加速器(5MeV, 30mA)、電子加速器(5MeV, 40mA)
線量(率)   :4x10-2〜2(C/(kg・s))
利用施設名   :日本原子力研究所(原研)高崎研究所1号及び2号加速器、ラジエ工業電子線照射施設、住友重機械工業電子線応用センター(現日本照射サービス)
応用分野    :医療器具滅菌、食品照射、高分子材料改質

概要      :
 電子加速器を放射線加工処理用X線源として利用するための技術の開発が進められている。ここでは、大出力電子線をX線に変換するためのターゲットの開発、X線照射施設としての設備を整えた照射施設におけるX線の出力特性の測定評価、及びX線照射による加工処理における線量測定のための各種線量計の特性について概説する。

詳細説明    :
 大出力電子加速器に 電子線をX線に変換するターゲットを取り付け、X線源として放射線加工処理に用いるための施設及びX線照射における線量計測について技術的検討が進められた。
 (1)大出力電子加速器をX線源として放射線加工処理用に用いるための技術的課題としてX線発生用ターゲットの開発をとりあげ、検討を行った。このターゲットは電子線のエネルギー5MeV、ビーム電流60mA、ビーム走査幅120cmの電子加速器に取り付けるものと想定した。ターゲットの開発における主な課題は、X線への変換率が高いものとすること、及び電子線エネルギーの90%以上の吸収による発熱への対策である。このため、ターゲット設計に関わる基礎データの検討を行い、適正な材質、構造となるよう設計を進めた。設計研究は、既存の2MeV、30mAの電子加速器に取り付けて性能試験を行うためのターゲットの試作を行うことにより進められた。
 試作したターゲットはタンタルをX線発生体とする水冷式で、一つは平板型、他は湾曲型である。このうち平板型はタンタルの溶接加工が技術的に難しく、使用に耐えられるものにならず、湾曲型が所要の性能を有することを確認できた。湾曲型、すなわちタンタル製のX線発生体、冷却水層及びステンレス製底板が同じ曲率のカーブをしている方式のターゲットは、所要の冷却を行うための高水圧に対し、強い構造となる。
 図1に試作した湾曲型ターゲットの外観図を示す。そして、この実績に基づき、上記5MeV、60mAの電子加速器に取り付けて使用するための湾曲型実用規模ターゲットの設計を行った。


図1 Outside view of the “curvature type” target. (原論文1より引用。 日本原子力研究所のご承認に基づき、JAERI-M, 89-182 (1989)、図4.4から転載したものです。)

 (2)これまでコバルト60ガンマ線により委託照射業務を行ってきたラジエ工業では、1990年に電子加速器を導入し、電子線照射とともにX線による照射業務も行うこととした。
 図2に同社の電子線/X線 照射施設の配置図を示す。


図2 Plan of EB and X-ray Irradiation facility. (原論文2より引用。 Reproduced from Radiat. Phys. Chem., vol.42, Nos.1-3, 495 (1993), M.Takehisa, T.Saito, T.Takahashi, Y.Sato, T.Sato: Characeristics of a Contract Electron Beam and Bremsstrahlung (X-ray) Irradiation Facility of Radia Industry, Figure 1 (Data source 2, pp.496), Copyright (1993), with permission from Elsevier Science.)

電子加速器は日新ハイボルテージ(NHV)社製5MeV、30mAのコッククロフトワルトン型で、ビーム走査幅140cmである。X線発生用ターゲットは原研とNHV社との共同研究で開発した水冷式湾曲型を採用した。このターゲットはX線発生体として厚さ1mm、長さ160cm、幅15cmのタンタル板を用いている。
 加速器にターゲットを取り付けて発生させたX線の空間線量分布及び密度0.23(g/cm3)の模擬試料中の深さ方向の線量分布を、アクリル板の着色を利用したPMMA線量計により求めた。その結果、ガンマ線照射の場合に比べ1桁から2桁高い線量率が得られ、また、この施設に90cm幅のベルトコンベヤーを3ライン方式で取り付けて処理すると仮定すると、0.6MCiのコバルト60線源によるものと等価な処理量が得られることがわかった。 
 (3)一方、住友重機械工業(SHI)では1989年に電子加速器を設置し、電子線照射サービスを開始するとともに、X線源として利用するための評価試験を行った。
 ここに設置されている加速器はRadiation Dynamics 社 (RDI) 製のダイナミトロンで、電子エネルギー5MeV、ビーム電流40mAの性能を有する。X線発生用のターゲットはSHIで設計、製作を行った水冷式の長尺型で、ビーム出力300kWにまで適用できるよう設計されている。この施設のX線源としての評価試験は、段ボール及びボール紙の組み合わせにより密度0.15から0.75(g/cm3)のモデル吸収体試料を作製し、その中にフィルム線量計をセットして、3次元の線量分布を求めることにより行った。さらに、その測定値のモンテカルロ計算コード「TIGER」による結果との比較を試みた。
 図3は、測定結果の一例で、移動照射の場合の密度の異なった試料中の深さ方向線量分布を示す。その結果、このターゲットではX線への変換率が約8%となること、その他照射された試料中の線量均一度、X線利用効率等のデータが得られた。結論として、電子線で処理するには厚すぎる試料をガンマ線に代わってこのX線で処理することが可能であるとした。


図3 Attenuation curves for 5 MeV X-rays in absorbers of various densities, with moving conveyor and scanning beam. (原論文3より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., vol.B56/57, 1242 (1991), M.R.Cleland, C.C.Thompson, H.Kato, M.Odera, R.F.Morrissey, C.M.Herring, M.T.O'Neill, T.R.Wilcott, J.Masefield, J.M.Hansen, M.C.Saylor, D.P.Sloan: Evaluation of a new X-ray Processing Facility, Figure 5 (Data source 3, pp.1244), Copyright (1991), with permission from Elsevier Science.)

 (4)放射線加工処理においては、照射された試料の線量評価が基本的に重要であり、X線照射の場合においても信頼できる方法を確立しておく必要がある。X線は、それを発生させるための一般的に高い電子エネルギーの値を最大値とする連続エネルギースペクトルを有すること、線量率が一般的にはガンマ線の場合より1〜2桁高いことなど、線量測定を行う上で考慮しなければならない特徴がある。
 そこで、基準線量計としての電離箱、及びガンマ線や電子線照射の場合に用いられる三酢酸セルロース(CTA)線量計、PMMA線量計、アラニン線量計について、X線照射を行ってその特性を調べた。X線は原研高崎の3MeV、25mAダイナミトロン加速器に水冷式のタングステンターゲットを取り付けて発生させ、照射線量率は4x10-2〜2(C/(kg・s))の範囲である。
 その結果、電離箱については、高エネルギー成分が存在することに対しては、チェンバー壁を厚さが可変となるキャップ方式を採用し、壁厚ゼロの場合の電離電流を外挿して求める方法により、また高線量率に対しては電離容積を小さくするとともに測定時の温度上昇に対する補正を行うことで対応できることを明らかにした。また、PMMA及びアラニン線量計については、この線量率範囲では同一の感度を有し問題ないが、CTA線量計は感度が変化し、高精度を要する測定には適さないことが明らかとなった。

コメント    :
 大出力電子加速器は、X線源として放射線加工処理へ利用されるとき、加速器の持つ高制御性を保ちながらコバルト60からのガンマ線と同等あるいはそれ以上の高透過力を有する放射線源となり得る点で、特徴のある装置となる。最近、国内においてこのX線源の有用性に対する関心が高まり、施設の設置が相次いでいる。今後利用実績が増大するにつれて、さらに技術的課題が生じる場合もあると思われるが、一つ一つ解決し、この利用技術を定着、発展させるべきと思われる。

原論文1 Data source 1:
工業照射用大出力X線発生ターゲットの開発
須永 博美、田中 進、金沢 孝夫、上松 敬、四本 圭一、田中 隆一、吉田 健三、谷口 周一、水沢 健一、鈴木 光顕、坂本 勇
日本原子力研究所高崎研究所、群馬県高崎市綿貫町1233; 日新ハイボルテージ株式会社、京都市右京区梅津高畝町47
JAERI-M, 89-182 (1989)

原論文2 Data source 2:
Characeristics of a Contract Electron Beam and Bremsstrahlung (X-ray) Irradiation Facility of Radia Industry
M.Takehisa, T.Saito, T.Takahashi, Y.Sato, and T.Sato
Radia Industry Co., Ltd., 168 Ooyagi, Takasaki, Gunma,
Radiat. Phys. Chem., Vol. 42, Nos. 1-3, 495-498 (1993)

原論文3 Data source 3:
Evaluation of a new X-ray Processing Facility
M.R.Cleland, C.C.Thompson, H.Kato, M.Odera, R.F.Morrissey, C.M.Herring, M.T.O'Neill, T.R.Wilcott, J.Masefield, J.M.Hansen, M.C.Saylor and D.P.Sloan
Radiation Dynamics, Inc., Edgewood, NY 11717, USA; Sumitomo Heavy Industries, Ltd., Tsukuba, Japan; Johnson & Johnson, New Brunswick, NJ 08901, USA; Becton, Dickinson & Co., Franklin Lakes, NJ, 07417, USA; Isomedix, Whippany, NJ 07981, USA; Consultant, Falls Church, VA 22042, USA; CH2M HILL, INC., Oak Ridge, TN 37830, USA
Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., B56/57, p. 1242-1245 (1991)

原論文4 Data source 4:
Study on Dosimetry of Bremsstrahlung Radiation Processing
H.Sunaga, H.Tachibana, R.Tanaka, J.Okamoto, H.Terai and T.Saito
Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, JAERI, 1233 Watanuki, Takasaki, Gunma, Japan, Sumitomo Heavy Industries Ltd., 10-11 Kiba 5-chome, Koto-ku,Tokyo, Japan, Radia. Industry Co., Ltd., 168 Ooyagi, Takasaki, Gunma, Japan
Radiat. Phys. Chem,. Vol. 42. Nos. 4-6, 749-752 (1993)

キーワード:放射線加工処理、制動放射線、X線、電子加速器、X線発生用ターゲット、線量測定
Radiation processing, Bremsstrahlung, X-ray, Electron accelerator, X-ray generation target, Dosimetry
分類コード:040105, 040302

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