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作成: 1999/10/30 福本 貞義

データ番号   :040176
電子加速器ロードトロン
目的      :工業照射用高出力電子加速器
放射線の種別  :エックス線,電子
放射線源    :電子加速器(10MeV, 15mA)
照射条件    :大気中
応用分野    :放射線処理、重合、架橋、分解、殺菌

概要      :
 半波長同軸共振器と外部の磁石により、電子を一平面上で繰り返し高周波加速する新型加速器ロードトロンは、10MeV、15mAまでの装置が既に商品化され、重合、架橋、分解、殺菌等の工業用照射に使用されている。これは高電圧直流加速器より高い電子エネルギーを実現するとともに、リニアックより時間平均のビーム強度が高くて、ビーム出力への電源電力の変換効率が高い。

詳細説明    :
 高周波電界(以下RF)によって電子を加速するロードトロンは、フランス原子力庁(CEA)の Jacques Pottierによって1989年に提案されて (1)、サックレー研究所で実現可能なことが示され (2)、ベルギーのIBA社(Ion Beam Applications s. a.)によって商品化された (3)、比較的新しい加速器である。高周波電磁波は同軸管をTEMモードで伝送する。RFの波長の1/2の同軸管の両端を短絡すると、共振器が形成されることはよく知られていて、共振時には外導体と内導体の間の電界は、短絡されている両端では0となり、中点を通る軸に垂直な断面で最大となる。そして磁界は両端で最大で、この断面では0となる。この断面上で、内導体が外導体に対して正となるRFの位相に、外部から電子を入射すると、電子は内導体に向けて加速される。そして内導体にあけた孔を通過している間にRFが反転すると、内導体を出た電子は再び外導体に向けて加速される。この電子を共振器の外側の磁石で偏向させて再び共振器に入射する場合に、内導体の中心を通過してから次ぎに通過するまでの時間を、RFの周期またはその整数倍になるように軌道長を選べば、電子を同じ共振器で繰り返し加速することが出来る。電子の速度は最初の入射時以外はほぼ真空中の光速度に等しいので、電子の軌道は図1のようなる。この形から薔薇を語源とするロードトロンと名づけられた。


図1 Median section of Rhodotron, with electron trajectories shown. G: electron gun. L: magnetic lense. C: coaxial accelerating cavity. D: deflecting magnet. (原論文2より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., vol.B68, 92 (1992), J.M.Bassaler, J.M.Capdevila, O.Gal, F.Laine, A.Nguyen,J .P.Nicolai, K.Umiastowski: RHODOTRON: An Accelerator for Industrial Irradiation, Figure 1 (Data source 2, pp.92), Copyright (1992), with permission from Elsevier Science.)

 RFによって電子を加速する装置としては、直線加速器(リニアック)が広く使用されてきたが、このRFは主としてSバンド(3GHz帯)である。そして電子は加速空洞を1回通過するだけである。これに対してロードトロンでは100MHz-200MHzのRFを使用し、半波長同軸共振器の加速空洞により最大10回程度加速される。1回の加速が約1MeVであるので、加速回数に対応したエネルギーが得られ、最高は約10MeVである。リニアックがduty factorの小さいパルスビームであるのに対して、ロードトロンでは連続波(CW)ビームが可能である。これにより時間平均のビーム出力がリニアックを大幅に上まわるとともに、ビームを広い範囲に照射する場合の走査が容易となるが、これらは製造行程での照射ににとって重要な特性である。高強度を実現するためには、ビームの収束が必要であるが、これは磁石への斜め入出射により実現される。サックレーでは、図2の要素配置と回路で、3.3MeV、20kWのビームが得られた。そしてIBA社のY.Jongen等による電力増幅用4極管回路や磁石によるビーム収束の開発により、107.5MHz、220kWのRFを用いて、10MeVと5MeVのそれぞれに約100kWのビーム出力が得られた。


図2 Rhodotron components. D: magnet. C: accelerating cavity. G: electron gun. L: magnetic lense. VCO: high-frequency oscillator. VP: vacuum pump. PS: power supply. EV: electro-valve. CX: X-ray conversion target. (原論文2より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., vol.B68, 92 (1992), J.M.Bassaler, J.M.Capdevila, O.Gal, F.Laine, A.Nguyen, J.P.Nicolai, K.Umiastowski: RHODOTRON: An Accelerator for Industrial Irradiation, Figure 2 (Data source 2, pp.93), Copyright (1992), with permission from Elsevier Science.)

 電子加速器は、生産ラインにおける電子線またはX線の照射に用いられている。ポリマーやエラストマーの重合や架橋、分解および医療機器の滅菌には既に広く用いられ、食品の保存などにも適用されている。電子エネルギーが高い程深くまで処理できるが、従来の直流加速器では上限が2MeV程度であるのに対して、ロードトロンは10MeVである。他方リニアックはより高いエネルギーまで加速できるが、RF源としてRFへの変換効率の高くないクライストロンを使用し、平均ビーム電流が低い。ロードトロンは強度が高いので、電子線を直接使用することも、X線に変換して使用することも出来る。IBA社は現在200MHzのRFを使用した、ビーム出力が35kWまでの小型のモデルと、100MHzのRFの80kWと150kWのモデルを製造している (4)。図3は150kWの外形で、装置全体の外径が3m、高さが2.4m、全消費電力は370kW以下である。日本を含む9ヶ国に導入されている。


図3 10MeV, 150kW IBA Rhodotron. (IBA社パンフレットより引用). From catalogue; RHODOTRON, Ion Beam Applications s.a., with permission.



コメント    :
 荷電粒子の高周波加速には、半波長同軸共振器も使われてきたが、これを繰り返し加速に利用する方法で、確立された技術に基づいた、効率のよい電子加速器が実現された。これまで工業用照射に使用されてきた高電圧直流加速器は、高いエネルギーが要求されると急速に技術的に困難となることから、ロードトロンはそのような場合に適した加速器として、利用されるものと思われる。

原論文1 Data source 1:
A New Type of RF Electron Accelerator: The RHODOTRON
J.Pottier
CEA/IRDI/D. LETI/DEIN, 91191 Gif-sur-Yvette Cedex, France
Nuclear Instruments & Methods in Physics Research, B40/41 (1989) 943-945

原論文2 Data source 2:
RHODOTRON: An Accelerator for Industrial Irradiation
J.M.Bassaler, J.M.Capdevila, O.Gal, F.Laine, A.Nguyen, J.P.Nicolai and K.Umiastowski
CEA, CEN Saclay, DTA/LETI/DEIN/SIR, F-91191 Gif-sur-Yvette Cedex, France
Nuclear Instruments & Methods in Physics Research, B68 (1992) 92-95

原論文3 Data source 3:
The RHODOTRON, A New 10 MEV, 100 KW, CW Metric Wave Electron Accelerator
Y.Jongen, M.Abs, F.Genin, A.Nguyen*), J.M.Capdevila*) and D.Defrise
Ion Beam Applications, Chemin du Cyclotron, 2-1348 Louvain-La-Neuve, Belgium; *CEA, CEN Saclay, DTA/DEIN/LETI, 91191 Gif-sur-Yvette Cedex, France
Nuclear Instruments & Methods in Physics Research, B79 (1993) 865-870

原論文4 Data source 4:
IBA社工業用高電圧・高出力電子線加速器ロードトロン
A. ヘレール、Y. ヨンゲン、M. アブス、M. ファン・ラネケル、大越正和*)、梅津透*)
Ion Beam Applications s. a., Luvain-La Neuve, Belgium; *セティーカンパニーリミテッド、東京都港区南青山 2-2-8
放射線と産業, No. 78 (1998) 27-32

キーワード:電子線、X線、加速器、高周波、放射線処理、重合、架橋、殺菌
electron beam, X-ray, particle accelerator, radiofrequency, radiation processing, polymerization, crosslinking, sterilization
分類コード:040102, 040105, 010101

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